2018年7月15日 (日)

Phil Denny 「Align」(2018)

Pdenny alignサックス奏者フィル・デニーの新作。
デビュー・アルバム「Crossover」(2012)にしてベスト級の作品だったし、その後、「The Messenger」(2013)、「Upswing」(2015)と、コンスタントに秀作をリリース。フレッシュでキャッチーなサウンドが、作品ごとに磨きがかかる、期待の新世代アーティストだ。この新作も、全11曲、外れ曲なしの、成長を感じさせる秀作。
M1「Switch Up」は、ファンキーなビートがキャッチーで、こういうグルーヴがこの人らしい、ハイライト曲。
M2「Feel Alright」は、ポップなメロディが秀逸な、ヘビロテ間違いなしの曲。ギターの客演は、デヴィッド・P・スティーヴンス。オーバーダビングしたサックスの音色が、新鮮な方向を感じる佳曲。
M5「Brio Bounce」も、ファンキー路線のビート・チューンで、この曲でも、オーバーダビングしたサックスが印象的で、スピード感があふれる曲。
この人は、基本的にはテナーの奏者だけれど、曲によってソプラノ・サックスも吹くことがある。今作では、M6「Solux」で、ソプラノを吹いている。ミディアム・スロウなバラード曲で、後半の、テナーも絡めたオーバーダビングの盛り上がりが聴きどころ。この曲のギター客演は、アダム・ホーリー。ソウルフルな2人のインタープレイがスリリング。
M8「Align」でも、ソプラノを吹いてのバラード曲。リリカルに奏でるソプラノのフレージングが、今作での新境地を感じさせる曲。
M9「Honey Step」は、冒頭からテナーのソリッドな音色が、オーバーダビング多用のアルバム中では、かえって新鮮に聴こえるビート・チューン。
M11「Kinda Wanna」は、グルーヴ全開の爽快な曲。ダビングを多用したホーン・サウンドがパワフルで、アルバムの締めくくりに相応しいラスト曲。
次回の作品は、ライブ録音のように、もっとソリッドなサックスのパフォーマンスを聴いてみたい。

2018年7月 2日 (月)

Dee Brown 「Remembering You」(2018)

Rememberingyou

アメリカ中西部ミシガン州のデトロイトを基点に活躍する、ギター奏者ディー・ブラウンの新作。スムーズジャズ専門レーベルの「インナーヴィジョン・レコーズ」から、前作「Brown Sugar, Honey-Coated Love」(2014)に続く、2枚目のフル・アルバム。この人のギター奏法は、一聴して分かる「ジョージ・ベンソン」フォロワーだ。大御所ノーマン・ブラウンは元より、ティム・ボウマンや、ニック・コリオーネ、ポール・ブラウン、ユー・ナム、ロニー・スミス、などなど、「ベンソン・スタイル」の系譜を受け継ぐギター奏者は、スムーズジャズ界のメインストリームだ。いかに、ジョージ・ベンソンの影響が偉大かは、そのフォロワーの活躍が証明している。さて、ディー・ブラウン。いずれの曲も、R&B味のスウィート・メロディーに乗って、この人のギターのパッセージとサウンドが繰り出すグルーヴに、ググッと引き込まれる好盤。全11曲いずれもキャッチーな曲ばかり、中でもハイライトはシングルが先行していたM2「Hey Baby」だろう。急逝したという、彼の亡きフィアンセに捧げた曲だという。そのフィアンセは、前作のアルバムやシングルでも、バック・コーラスを担当していた人。「Hey Baby」のイントロで聴けるヴォイスは、フィアンセ本人のもの。という訳で、少しメランコリックなメロディーが心に残るけれど、ファンキーなギターのフレージングや、サックスとのインタープレイのヴァイヴレーションは、むしろ明るくてキャッチーに響き渡る佳曲。M1「I Want You Too」は、スキャットとギター・パッセージのユニゾンが、まさにベンソン風なファンキーでノリのいい曲。繰り出すオクターブや速弾きパッセージが素晴らしい。M10「Beauty Within」も、ボーカルとギターのジャジーなユニゾンが印象的な、スウィート・メロディーのミディアム・バラード。ギターとボーカル(本人だろう)のユニゾンは、ベンソン風と形容する必要なしの、ブラウンらしいスタイルと言っていい佳曲だ。ジョージ・ベンソンと言えば、ギターは日本が誇るアイバニーズのGBモデルだが、ディー・ブラウンの弾くギターは、アメリカのイーストマンというギター。イーストマンは、ヴァイオリンやチェロを創業とするハンド・メイドのメーカー。ロビー・ロバートソン(ザ・バンド)や、リッチー・フューレイ(バッファロー・スプリングフィールド)、リチャード・トンプソン(フェアポート・コンヴェンション)など、ロック、ジャズ、カントリーなどの音楽界で愛好するアーティストが多いギター。ブラウンの使用しているイーストマンのセミアコは、ソフトな音色が特徴的。ミディアムやスロウで奏でるヒューマンな音色は美しい。ラストのバラード曲M11「Remembering You」は、亡きフィアンセのストーリーを知ってしまった以上は、そのフレージングと音色に、ことさらに包容力を感じて、引き込まれてしまうなあ。

2018年6月24日 (日)

Michael Lington 「Silver Lining」(2018)

Silverlining

マイケル・リントンの新作は、「Soul Appeal」(2014)から、「Second Nature」(2016)と続いた、メンフィス・ソウルへのオマージュを込めた、連作の3作品目。過去2作品と同様に、プロデューサー/キーボード奏者バリー・イーストモンドが、リントンとタッグを組んだ作品。参加ミュージシャンは、レイ・パーカー・ジュニア、ポール・ジャクソン・ジュニア、レスター・スネル率いるメンフィス・ホーン、など、過去2作と同様のセッション・メンバーが固めるが、3作目ということもあり、ソウルフルな熱量が、今まで以上に沸騰して、ガツンとやられる作品だ。アイザック・ヘイズのバンド・メンバーでもあった、オルガン奏者レスター・スネルが率いる4管ホーン・セクションが、今作でも「本物の音」聴かせてくれる。まずは、M1「City Life」は、キャッチーなファンク・チューンで、リントンのシルキーなフレージングに、重厚なリズムとホーン・セクション、加えてユーズリミックスのギター奏者デイヴ・ステュワートが客演するハードなギター・プレイが交錯する必聴のハイライト曲だ。M2「Break the Ice」も、メンフィス・ホーンズがサポートする演奏。ソウルフルなホーンと、オルガンと、熱いフレーズを吹きまくるマイケル、ゴージャスな演奏。M6「Can't Say Goodbye」は、スウィート・ソウルなバラード。泣きメロを吹くリントン節が、ハートにグッと来てたまらない。この曲の、ハモンドオルガン演奏はレスター・スネルで、これこそメンフィス・ソウルのムードたっぷり。M4「People Get Ready」は、おそらく78歳になろうかという、メンフィス・ソウルのレジェンド・シンガー、ウィリアム・ベルがゲストで歌う曲。オリジナルは、カーティス・メイフィールドが在籍したインプレッションズの1965年の名曲。アーバン・ムードなマイケル・リントンが聴けるのが、M5「Silver Lining」や、M11「Straight to the Top」。都会的なメロディーとサウンドに、洗練されたこのフレージング。アルトなのにテナーのようにパワフルに吹くところも、彼の魅力です。ところで、マイケルは音楽以外のビジネスにも手腕を発揮していて、自分の名前をブランドにした「葉巻」と「ワイン」の販売も手がけている。煙をくゆらせて、ワインを飲めば、彼の音楽がさらに味わい深いということかな。

2018年6月17日 (日)

Michael Paulo 「Beautiful Day」(2018)

Beautifulday

ハワイ出身のマイケル・パウロは、40年を超えるキャリアのジャズ・サックス奏者。ミドル・ネームは「タツオ」というそうな、日系の人だ。日本でも人気のあったハワイのバンド「カラパナ」の初期のメンバーでもあり、ソロ奏者としてのデビュー作品「Tats In The Rainbow」(1979)は日本のみでリリースしている。その後は、アル・ジャロウのツアー・メンバーを10年に渡り務めたり、リック・ブラウン、ピーター・ホワイト、ジェフ・ローバー、デビッド・ベノワ、ケニー・ロギンス、ボビー・コードウェル、など、多くのビック・ネームと共演。矢沢永吉や、杏里、といった日本のポピュラー・アーティストとの共演も多いから、デビュー当時から知る日本のリスナーは多いはず。最近では、トロンボーン奏者ジェフ・アルパートの「Open Your Heart」(2017)で、客演していたのが記憶に新しい。ソロ名義としては、10年ぶりだそう、この新作は11枚目のソロ作品。5曲のカバーと、8曲のオリジナルからなる全13曲の作品。ポール・ブラウン、デヴィッド・ベノワ、ポール・ジャクソン・ジュニア、レイ・パーカー・ジュニア、らがサポートを務めている。マイケルの人間性が現れているような、ソフトでジェントル・トーンのサックスの音色が心地いい。M5「Your Song」(エルトン・ジョン)や、M8「Fragile」(スティング)、M13「You've Got a Friend」(キャロル・キング)といった、ポップス名曲のカバーで奏でる、「てらい」のないフレージングが美しい。M2「Mr Magic」は、お馴染みのグローバー・ワシントン・ジュニアの名曲のカバー。この人の系譜が、グルーバーはもちろん、デビッド・サンボーンや、果てはポール・デスモンドまでつながっているのが想像できる、ソフトでリリカルな好演奏だ。オリジナル曲のハイライトは、M1「Beautiful Day」で、ギターの客演はポール・ブラウン。R&Bテイストのコンテンポラリーなサウンド、サックスの響きは都会的で、アダルト・オリエンテッドな佳曲。M4「Back with the Funk」は、ポール・ジャクソン・ジュニアのギターが客演した、ディスコっぽいノリがどこか懐かしいオールド・スクールな曲。M6「Who You Gonna Call」もキャッチーな曲、ギターはレイ・パーカー・ジュニアで、打ち込み系のサウンドに、ギターとサックスのファンキーなヴァイブレーションがかっこいい。マイケル・パウロを「昔の名前」で知っている日本のコアなリスナーも、きっと目が覚めるに違いない好感度高い作品。

2018年6月12日 (火)

Michael Franks 「The Music In My Head」(2018)と、マイケル作品のカバー集

81iuewf5z1l_sl1500_

マイケル・フランクスの新作は、前作「Time Together」(2011 )以来、7年ぶり、通算19枚目のオリジナル作品。73歳になるマイケルだが、その歌声には年齢の衰えは感じられない。デビュー当時からのウィスパー・ボイスは健在で、枯れたと言うより円熟度が増した歌声に魅了される。全て新曲の10曲からなる新作は、いつも通りのスタイルが、安心して浸れるマイケルの音楽世界だ。前作はもちろん、過去作品からの延長にある、ジャズやボサノバを下敷きとしたサウンドのフォーマットは鉄板のごとく変わらない。参加しているミュージシャンも、チャック・ローブ、ジミー・ハスリップ、デヴィッド・スピノザなど、マイケルとは長年に渡る仲間たちが固めていて、殊更にリラックスしたムードを作っている。とりわけて、チャック・ローブが客演した、M1「As Long As We’re Both Together」は、必聴の1曲だ。去年早逝した、ギター奏者チャック・ローブは、長年に渡りマイケルの作品に欠かせない盟友だった。このトラックは、チャックがプロデュースして、ギター演奏をした、最後の曲となってしまった。ボッサのリズムに、流れるようなフレーズを奏でる、チャックのソフトなギターの美しいこと。M5「To Spend The Day With You」は、女性ジャズ・ピアノ奏者レイチェルZが参加した曲。明るいボッサのメロディーは、これも常套句的なマイケル節だけれど、レイチェルZのピアノ・プレイは若々しくて、華やいだムードを演出している。M7「Where You Hid the Truth」は、かたや切ないメロディのマイナー・バラード。こういったナイーヴなメロディも、マイケルの得意とするところで、名曲の「Antonio’s Song」や「Vivaldi’s Song」といった代表曲の路線を踏襲する曲。何年か先の次作を心待ちにして、この珠玉の10曲をじっくりと味わいたい。

Leosidran このマイケルの新作リリースに合わせたように、シンガー・ソング・ライターのレオ・シドランがマイケル・フランクスの作品集を出した。こちらも、なかなかの秀作だ。  その新作「Cool School」(2018)は、マイケル作品11曲を歌ったカバー集。レオ・シドランの父親は、ベン・シドラン。ベンといえば、70年代から活躍するピアニストでシンガー。ジャズに限らず、フュージョン、ロックなどクロスオーバーな音楽性は唯一無二のミュージシャンだ。ベンも、マイケルと同世代で、今でも現役だ。そのベンの息子のレオは、学生時代に、「Depleting Moral Legacy」(1999)でソロ・デビューしたシンガー・ソング・ライター。デビュー作から数えて、この新作が6作品目。レオの歌声は、当然ながら、父親ゆずりの歌声なのだが、父親ほどの「ドス」の強さは無いとは言え、時折聴かせる線の太いところがセクシーなボーカリストだ。レオが歌うマイケルの名曲は、若々しく、やや艶っぽい歌い方が魅力的で、原曲をほぼ忠実にした解釈も、マイケルのファンもきっと好感が持てることに間違いなしのカバー集だ。ハイライトは、M6「The Cool Scool」、マイケル自身とのデュエットによるバージョンだ。デュエットなので、オリジナル・バージョンとは趣きが異なるが、2人がブルージーに歌うところが聴きどころ。名曲の、M5「Antonio’s Song」は、白眉なバージョンで、ブラジルの歌手レオ・ミナクスとのデュエットと、ハーモニカの演奏が心地よく、数多ある同曲のカバーの中でもベスト級のトラックだろう。なお、CD盤には、レオ自身のオリジナル曲「Easy」がボーナス・トラックとして収録されている。この曲は、マイケル・フランクスにオマージュしたような、まるでマイケルの新曲のような趣きの佳作、必聴です。

マイケルの曲をカバーするミュージシャンは多いけれど、アルバム丸ごと、マイケルの曲集といえば、この2枚の過去作品も紹介しておきたい。

Veronicanann 女性ジャズ歌手、ヴェロニカ・ナンの「The Art of Michael Franks」(2010)は、マイケルの曲13曲をカバーしたアルバム。ヴェロニカは、90年代からマイケルのツアーや、アルバムでコーラスを担当している人。マイケルのアルバムでもデュエットしているトラックがあって、「Watching The Snow」(2003)収録の「Island Christmas」や、「Time Together」(2011)収録の「My Heart Said Now」、がそう。彼女のこのマイケル作品集は、長年マイケルをサポートしてきた彼女ならではの作品。同様に、マイケルとの共演が長い、ピアノ奏者チャールズ・ブレンジィッグが協力していて、いわば「マイケル・フランクス」ファミリーの作品の趣き。彼女のボーカルは、正統的なジャズ・ボーカルで、アレンジも同様にジャズのアプローチで解釈したマイケル作品集だ。中でも、M7「Leading Me Back to You」は貴重なトラック。オリジナルは、ピアノ奏者ジョー・サンプルのアルバム「Spellbound」(1989)の収録曲。マイケルとサンプル2人の共作で、マイケルがボーカルを務めた曲。このヴェロニカのアルバムに収録されたトラックは、彼女とマイケル本人のデュエット・バージョン。マイケル・フランクスのファンなら、絶対に必聴のバージョン。ヴェロニカは、マイケルの新作「The Music In My Head」でもバックコーラスを務めている。

Gordonhaskell ゴードン・ハスケルの「The Lady Wants To Know」(2004)は、11曲のマイケル作品集。かつてキンング・クリムゾンのメンバーだったこともある、ゴードン・ハスケルは、シンガー・ソング・ライターとして、70年初めから活躍するミュージシャン。彼も、マイケルと同世代のシンガー。このアルバムは、14年前の作品だが、マイケルの中性的な歌声と違って、ゴードンの男性的でシブーい枯れた歌声が痺れます。プロデュースは、ヘイミッシュ・スチュアート(アヴェレージ・ホワイト・バンドの元メンバー)だから、このブルー・アイド・ソウルなムード作りは彼のお手のもの、というところ。「The Lady Wants to Know」や、「Antonio’s Song」、「B’wana He No Home 」、「Monkey See」といった、マイケルの初期のエバーグリーン曲が並ぶセレクションも嬉しい。

2018年6月 3日 (日)

Vincent Ingala 「Personal Touch」(2018)

Personal_touch

スムーズジャズ界の若きスター、ヴィンセント・インガラの待望の新作。10代でデビュー以来、3枚のソロ作品は、新作ごとに成長著しい内容は、目(いや耳だな)を見張るアーティストだ。前作「Coast to Coast」(2015)の洗練されたサウンドは、もうメジャー級のクオリティだったし、その前後に、グレッグ・カルーカスピーター・ホワイトローマン・ストリート、といったトップ級アーティストからゲスト参加に引っ張りだこなことも大きな評価を受けている証だろう。さて、新作は全10曲、ゲストは無しの、サックス、キーボード、ギター、ドラムス、ボーカルなど、全ての演奏を彼一人で作り上げた作品。2曲のカバーを除く全曲も彼のペンによるものだし、プロデュースはもちろん、ミックスまで手がけて、サックス奏者に止まらないマルチ・アーティストの力量を発揮した秀作。M1「Personal Touch」は、キャッチーなポップ・メロディーと、艶っぽさが出てきたサックスのフレージングが白眉なベスト・チューン。M2「My Kind of Day」も、負けず劣らずのキャッチーなポップ・チューン。この曲での、ソプラノ・サックスもリリカルなフレージングを聴かせてくれる。M5「I Think I'm Falling in Love (With You)」では、さりげなくボーカルも披露している。M7「Feng Sway」は、彼のギター演奏が主役のトラック。ニルスを思わせるギター・テクに注目。M9「Snap, Crackle, Pop」のホーン・セクションをバックに、サックスがシャッフルするグルーヴはかっこいい。M4「Dream Girl」は、チル・ムードな曲で、彼のピアノ演奏が主役のトラック。ピアノは、ジョナサン・フリッツェンという感じなのがご愛嬌かな。カバー曲は、M3「Love Zone」がビリー・オーシャン、M6「If You Were Here Tonight」はアレクサンダー・オニール、といういずれも80年代のブラコン・ヒット曲を取り上げている。M8「Can't Stop the Rain From Falling」はチル・ムードの曲で、ポール・ハードキャッスルのような感じで、インガラの今までの路線からすると、ちょっと異色。他の曲でも、シンセやチル・ムードのサウンド・カラーに、ポール・ハードキャッスル「風」な趣が感じられる。ワンマン・バンドで作り上げたということで、ハードキャッスルが「お手本」なのかな。

2018年5月27日 (日)

Jay Soto 「On The Verge」(2018)

Ontheverg

ジェイ・ソトは、2005年のデビュー・アルバム「Long Time Coming」から活躍しているギタリスト。この新作で、通算7枚目だから多作ではないけれど、スムーズジャズ・ファンなら押さえておきたい、ツウ好みのアーティストだ。デビュー作品は、ポップな楽曲が満載で、彼のギターのフレージングは爽快で、ドライビング・ミュージックにピッタリといった趣きの佳作だった。2枚目の「Stay Awhile」(2007)では、ジェフ・ローバーやポール・ブラウンといった一流どころをゲストに迎えて、さらに都会的で洗練されたサウンドを作り上げた秀作で、今聴いても古さは感じない、ベスト級のスムーズジャズ作品。クリアなシングトーンと、アクセントのオクターブのパッセージが、疾走感と清涼感を感じるグルービーなギター。そして、ポップでキャッチーな楽曲がこの人の特徴で、3枚目の「Mesmerized」(2009)も、そのスタイルが発揮されたスムーズジャズの秀作だった。4枚目の「Morning Glory」(2013)は、彼のピアノ演奏による、ニューミュージック・スタイルの異色の作品。残念ながら、ここでは彼のスムーズジャズ・ギターは聴けない。初期の3枚のスムーズジャズ作品からセレクションされたベスト・アルバム(2013)の後、6作目の「Veritas」(2015)は、またも異色な作品で、全編シンフォニックなオーケストレーションをバックに、ナイロン・ギターを演奏した作品。しばらくは、そんな異色の作品が続いたので、初期ようなスムーズジャズ・スタイルの作品を待望していた。さて、この新作は、なんと、彼自身の歌が中心のボーカル・アルバム。全12曲中、インストは2曲で、10曲がボーカル曲。全曲、彼のオリジナル曲で、70年代後半から80年代のAORやソフト・ロックの路線を踏襲するメロディーとサウンドだ。TOTOや、ケニー・ロギンス、イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリー、といった懐かしい曲想を彷彿とする曲の数々。彼の歌もなかなかで、歌声はバリー・マニロウ似の感じがするが、どうだろう。貴重なインストの2曲、M3「Yours Truly」、とM7「Got Groove」は、必聴のスムーズジャズ・トラック。特に「Got Groove」の、スピードのあるパッセージが素晴らしい。歌もいいけれど、この人のギターをインストで、たっぷり聴きたい。次作は、原点回帰の全曲インストの作品を出して欲しいなあ。

2018年5月18日 (金)

Greg Adams and East Bay Soul 「Conversation」(2018)

Conversation_2

トランペット奏者グレッグ・アダムスは、西海岸のファンク・バンド「タワー・オブ・パワー」のデビュー(1970年)から90年代初めまで中核メンバーであった人。1995年にソロ・デビュー(「Hidden Agendas」)して以来、2006年まで4枚のソロ作品をリリースしている。彼が率いる「イースト・ベイ・ソウル」は、2009年に「East Bay Soul」でデビューした10人編成のバンドだ。その後、「East Bay Soul 2.0」(2012)、「That's Life」(2015)をリリースして、今作が最新アルバム。編成的には「タワー・オブ・パワー」を彷彿とする、ホーン・セクションが中心となったバンドだけれど、パワフルなホーンのインパクトというより、R&Bをベースにした比較的クールなサウンドが特徴だろう。特に、今作は今まで以上にジャズのムードで、洗練されたアンサンブルが秀逸な作品。 M1「Look Book」は、タイトなリズム・セクションがダンサブルで、グレッグ・アダムスの枯れたフレージングが浮遊するファンキーな曲。M2「Conversation」は、レイド・バックしたムードがクールで、ビック・バンド・ジャズのアプローチを感じさせる曲。M7「Possibilities」は、ホーン・セクションが聴きどころの、ハイライト曲。ギター(マツモト・ケイタ)の終始続くカッティング・プレイがなんともファンキーで聴かせてくれる。M8「Send」は、グレッグ・アダムズのフリューゲルホーンを堪能できるキャッチーな曲で、スウィングするピアノ(ニック・ミロ)のアドリブも聴きどころ。 M3「Quiet Scream」は、ストリングスも入るムーディーな曲で、テナーサックス奏者ダリル・ウォーカーが「唄う」ボーカル曲。ダリル・ウォーカーは、テナーサックス奏者としてホーン・セクションにいるのだけれど、いわゆる「二刀流」で歌っていて、AOR的な歌声で、なかなかのシンガーぶりだ。M9「Where Do We Go from Here」の美メロ・バラード曲では、ノスタルジックな歌声で、スタンダード・ポップスのようなドラマチックな歌い方を披露するし、M10「Try a Little Tenderness」は、オーティス・レディングの名曲のカバーで、ソウルフルな熱い歌いっぷりを聴かせてくれる。ファースト・アルバムの「East Bay Soul」は、複数のゲスト・シンガーを迎えた作品で、ウォーカーの歌は1曲だけだったが、以降の作品では彼のボーカルだけをフューチャーして、今やこのバンドのサウンドに欠かせないシンガーになっている。グレッグ・アダムスは、おそらく70歳で、古希になろうかというベテラン・プレイヤーで、いまだに活発な演奏が聴けるのが嬉しい。ちなみに、タワー・オブ・パワーの方も、50周年を迎えていまも活動中で、エミリオ・カスティーヨ(サックス)やステファン・クプカ(バリトン・サックス)といった結成時からのオリジナル・メンバー多数が中心というから、まさにシルバー世代の、レジェンドなバンドだ。彼らの新作アルバム「Soul Side of Town」は、じきにリリース予定、そちらも聴かねばなるまい。

2018年5月 3日 (木)

Chris Standring 「Sunlight」(2018)

Sunlight

イギリスのギター奏者クリス・スタンドリングの新作は、キャリア20年を祝しての記念碑的な秀作だ。デビュー・アルバム「Velvet」(1988)から数えて、スタジオ作品としては11作目。ほぼ2年にごと、コンスタントに佳作を届けてくれる、スムーズジャズ界の代表的ギタリストで、個人的にもフェバリット・アーティストの一人。アシッドで、ヒップなサウンドと、エレクトリックな音色の浮遊感あふれるギターは、クールなバイブレーションを感じさせてくれる、唯一無二のギタリスト。この新作は、彼のギター演奏、それもインプロビゼーションに比重を置いた内容で、そのクールなグルーヴにたっぷり酔える、素晴らしい作品。いつもの完成度の高い、ポップでダンサブルな曲も、彼の魅力だが、この新作で聴かせてくれるグルーヴ優先のパフォーマンスは、今まで以上にジャズ的で、個人的にはベスト級な内容だ。M1「Static In The Attic」は、レコードのスクラッチ音から始まるところが少し驚かされる曲。スクラッチのノイズと、トークボックスのボイス・エフェクトが絡んだ、ラウンジなムードの背景にファンキーなギターが浮遊するハイライト曲。M2「Aphrodisiac」は、ハンドクラッピングとボイス・エフェクトがヒップな曲。機械的なビートに乗ってスウイングするようなフレージングのなんとクールなこと。ベースとドラムスは、打ち込みではないのに、未来的なビートを感じるリズム・セクションだ。M4「The Revisit」で、ボブ・ジェームスのアコースティック・ピアノ。M6「God Only Knows」(ビーチ・ボーイズのカバー)で、ジョン・ノベロのアコースティック・ピアノ。M2「Aphrodisiac」では、ミッチェル・フォアマンのフェンダー・ローズ、などのゲスト・アーティストが参加した演奏も光っている。CDを買うと、2曲のボーナス・トラックがダウンロードできる。M9「Do Not Adjust Your Set」は、ブランドン・フィールズ(ザ・リッピントンズのサックス奏者)とピート・クリストリーブ(スティーリー・ダンの「Deacon Blues」でのソロ演奏が有名なジャズ・サックス奏者)、二人のテーナー・サックス奏者によるホーン・セクションがサポートする曲。CD本編のバージョンは、ブランドン・フィールズのソロなのだが、ボーナス・トラックは、ピート・クリストリーブがソロを取るバージョンが聴ける。もう1曲は、本編でボブ・ジェームスが参加した「The Revisit」で、ボーナス・トラックはボブのパートを、Hans Zermuehlenという人がシンセを演奏している。ファンにとっては、「お宝」のようなボーナス・トラックが聴けるのが嬉しい。

2018年4月18日 (水)

Tony Guerrero 「Abrazo」(2018)

Abrazo_cover

トランペット奏者トニー・ゲレロは、1988年にソロデビュー作品(「Tiara」)をリリースして以来、9枚のソロ作品や、多数のプロジェクトで、演奏のみならず作編曲、プロデューサー、としても活躍するアーティストである。サイドマンとしては、グレッグ・カルーカスや、ブライアン・ブロムバーグ、ブライアン・ウィルソン、ダン・シーゲル、俳優のディック・ヴァン・ダイクなど、多数のアーティストの作品にも参加している。この新作は、ソフトなボサノバやラテンのムードで貫かれた作品。ゲレロは、全10曲でフリューゲルホーンを吹いていて、ほとんどの曲は、ピアノ、ギター、キーボードなど全ての楽器を、彼自身がワンマン演奏しているユニークな作品。ソフトでロマンティックな作風は、イージーリスニングのただずまいで、ヨーロッパの映画音楽のようでもある。ゲレロのフリューゲルホーンの演奏は、ジャズの名手、アート・ファーマーや、チャック・マンジョーネを思い起こして、単なるムード・ミュージックに留まらない聴きどころになっている。4曲のカバー演奏も聴きどころで、アート・ファーマーの「Petite Belle」や、アストラッド・ジルベルトの名曲「Love Is Stronger Far Than Me」、イヴァン・リンスの「Septembro」(クインシー・ジョーンズのバージョンが有名、1989年のアルバム「Back on the Block」)、イタリアのシンガー、ルーチョ・ダッラの名曲「Caruso」(オペラのテノール歌手エンリコ・カルーソーに捧げた曲)を取り上げている。「Petite Belle」は、アート・ファーマーの名演(1965年のアルバム「Sing Me Softly of the Blues」)が有名な曲だし、「Love Is Stronger Far Than Me」は、チャック・マンジョーネがプロデュースした女性歌手エスター・サターフィールドのカバー(1974年のアルバム「Once I Loved」)が有名。いずれも、フリューゲルホーンの「鉄板」のような名曲で、ゲレロの思入れの選曲なのだろう。そんな名曲らに引けを取らない、ゲレロのオリジナル曲もそれぞれ素晴らしい。M1「Abrazo」は、哀愁に満ちたラテン系メロディーが、まるで名画のテーマ曲のようだし。M2「Beso」も、スペイン風のマイナーな旋律が美しい曲で、ピアノとギターの染みる演奏が印象的な曲。M6「She Speaks to Me」は、スロウ・ボッサの曲で、ストリングスを思わせるシンセがドラマチックな演奏。M5「First Date」は、ミディアム・スロウのバラードで、明るくキャッチーなフレージンングはハーブ・アルパートを思わせるし、中盤に出てくる鍵盤ハーモニカ、メロディカの音色が爽快感を醸し出す。全ての楽器をワンマンで演奏したのは、もともとは、ミュージシャンを集める前提のデモ制作だったらしい。最終的には、それを完成させたという経緯だそうだ。フリューゲルホーンの、ソフトでヒューマンな音色と、哀愁を感じるメロディーやフレージングが、心地いい魅力的な作品だ。

«Dan Siegel 「Origins」(2018)

About This Blog

  • スムーズジャズは、最高のコンテンポラリーミュージック。ググっとくるアーティストのバイブレーションを、リアルタイムで聴きたい。独断で選んだスムース系の新譜を紹介します。Since 2011。UGASAI
2018年7月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

2015 Top Recommend (click)

  • Bob Boldwin「MelloWonder」
  • Brian Simpson 「Out of a Dream」
  • Jonathan Fritzen 「Fritzenized」

2014 Top Recommend (click )

  • Greg Manning 「Dance With You」
  • Rick Braun 「Can You Feel It」
  • Michael Lington 「Soul Appeal」
  • Ed Barker 「Simple Truth」

2013 Top Recommend (click)

  • Jeff Golub 「Train Keeps a Rolling」
  • Oli Silk 「Razor Sharp Brit」
  • Patrick Yandall 「Soul Grind」
  • Boney James 「The Beat」

2012 Top Recommend (click)

  • Euge Groove 「House of Groove」
  • Paul Brown 「The Funky Joint」
  • Chris Standring 「Electric Wonderland」
  • Vincent Ingala 「Can't Stop Now」
  • Phil Denny 「Crossover」