2018年4月18日 (水)

Tony Guerrero 「Abrazo」(2018)

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トランペット奏者トニー・ゲレロは、1988年にソロデビュー作品(「Tiara」)をリリースして以来、9枚のソロ作品や、多数のプロジェクトで、演奏のみならず作編曲、プロデューサー、としても活躍するアーティストである。サイドマンとしては、グレッグ・カルーカスや、ブライアン・ブロムバーグ、ブライアン・ウィルソン、ダン・シーゲル、俳優のディック・ヴァン・ダイクなど、多数のアーティストの作品にも参加している。この新作は、ソフトなボサノバやラテンのムードで貫かれた作品。ゲレロは、全10曲でフリューゲルホーンを吹いていて、ほとんどの曲は、ピアノ、ギター、キーボードなど全ての楽器を、彼自身がワンマン演奏しているユニークな作品。ソフトでロマンティックな作風は、イージーリスニングのただずまいで、ヨーロッパの映画音楽のようでもある。ゲレロのフリューゲルホーンの演奏は、ジャズの名手、アート・ファーマーや、チャック・マンジョーネを思い起こして、単なるムード・ミュージックに留まらない聴きどころになっている。4曲のカバー演奏も聴きどころで、アート・ファーマーの「Petite Belle」や、アストラッド・ジルベルトの名曲「Love Is Stronger Far Than Me」、イヴァン・リンスの「Septembro」(クインシー・ジョーンズのバージョンが有名、1989年のアルバム「Back on the Block」)、イタリアのシンガー、ルーチョ・ダッラの名曲「Caruso」(オペラのテノール歌手エンリコ・カルーソーに捧げた曲)を取り上げている。「Petite Belle」は、アート・ファーマーの名演(1965年のアルバム「Sing Me Softly of the Blues」)が有名な曲だし、「Love Is Stronger Far Than Me」は、チャック・マンジョーネがプロデュースした女性歌手エスター・サターフィールドのカバー(1974年のアルバム「Once I Loved」)が有名。いずれも、フリューゲルホーンの「鉄板」のような名曲で、ゲレロの思入れの選曲なのだろう。そんな名曲らに引けを取らない、ゲレロのオリジナル曲もそれぞれ素晴らしい。M1「Abrazo」は、哀愁に満ちたラテン系メロディーが、まるで名画のテーマ曲のようだし。M2「Beso」も、スペイン風のマイナーな旋律が美しい曲で、ピアノとギターの染みる演奏が印象的な曲。M6「She Speaks to Me」は、スロウ・ボッサの曲で、ストリングスを思わせるシンセがドラマチックな演奏。M5「First Date」は、ミディアム・スロウのバラードで、明るくキャッチーなフレージンングはハーブ・アルパートを思わせるし、中盤に出てくる鍵盤ハーモニカ、メロディカの音色が爽快感を醸し出す。全ての楽器をワンマンで演奏したのは、もともとは、ミュージシャンを集める前提のデモ制作だったらしい。最終的には、それを完成させたという経緯だそうだ。フリューゲルホーンの、ソフトでヒューマンな音色と、哀愁を感じるメロディーやフレージングが、心地いい魅力的な作品だ。

2018年4月 8日 (日)

Dan Siegel 「Origins」(2018)

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ダン・シーゲルは、80年代から活躍しているベテラン・キーボード奏者。デビュー作品「Nite Ride」(1980)から数えて、ソロ作品は20を超える。フュージョン全盛期のキーボード奏者、デオダートや、ボブ・ジェームス、ジョー・サンプル、がヒット作品を連発していたのが、80年の前後だった。その後を追うように、デイブ・グルーシンや、ジェフ・ローバー、デイヴィッド・ベノワ、そしてダン・シーゲル、といった面々が出てきた。ジェフ・ローバーを筆頭に、そしてシーゲルも、今も現役としての活躍が聴けるのは嬉しい限りだ。ダン・シーゲルも、2000年以降、リリースのペースは落ちたけれど、5年ぶりのリリースだった前作「Indigo」(2014)に続いて、比較的早いこの新作のリリース。おそらく、60才半ばだと思われるので、これからも、さらに円熟した演奏活動が期待できそうだ。さて、この新作は、ベース奏者ブライアン・ブロムバーグと共同プロデュースした作品。ブロムバーグは、前作や前々作のプロデュースもしているし、シーゲルの近年作品に関わっている気心の合った盟友だろう。シーゲル自身のペンになる全10曲を、彼のアコースティック・ピアノを中心に、ブロムバーグのアコースティック・ベースも聴きどころの、オーガニックなスタイルのコンテンポラリー・ジャズだ。M5「Arabesque」や、M6「Moon and Stars」、M8「Under the Sun」は、いずれもシーゲルらしい、メランコリーなテーマ・メロディーが印象的な、美しい楽曲の数々。全曲で、シーゲルのピアノのキレのいいフレージングも、たっぷりと堪能できる作品になっているのだけれど、聴いていてジョー・サンプルの名作で、個人的にもエバーグリーンの「Carmel」(1979)を思い出してしまった。M4「Lost and Found」での、少しファンキーなアクセントが印象的なフレージングもそうだし、M3「After All」は特に、美しいメロディーもさることながら、後半のピアノ・ソロが白眉で、ジョー・サンプルが思いをよぎる。次作は、エレピも演って欲しいなあ、そう、ジョー・サンプルの「A Rainy Day In Moterey」のように。

2018年3月24日 (土)

Paula Atherton 「Shake It」(2018)

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女性サックス奏者、ポーラ・アサートンの新作は、この人らしいパワフルなサックスが堪能できる秀作。冒頭の曲、M1「Low Rider」は、意表を突かれるカバー曲で、70年代のファンク・バンド、ウォーの代表曲。オリジナルは、1975年のアルバム「Why Can't We Be Friends?」の収録曲。重量級のボーカルが、オリジナルに忠実な構成だが、アサートンのパワフルなフルートが印象的。フルートで、ヘビー・ファンクと来たか。必聴に値します。M5「You Got It」は、ハイライト級のスムーズ・ジャズ・ナンバー。弾けたアサートンのサックスが爽快な演奏。キャッチーなピアノ演奏は、ザ・リッピングトンズのビル・ヘラー。アルバムでは毎回、彼女自身のボーカルも披露するのが定番になっている。M4「Good Love Gone Bad」がそのボーカル・ナンバーで、サックス同様にヘビー・シャウトするブルージーな曲。かと言えば、M7「Say Goodbye」は、ポップなジャンプ・ナンバーで、こちらも彼女のボーカルとサックスが、ノリの良いワンマン・アンサンブル。M8「Shake It」は、ホーン・セクションを従えてリードするサックスと、トランペット奏者シンディ・ブラッドリーの掛け合いが聴きもののファンク・チューン。二人の掛け合いは、同様に、骨太なファンク・ビートのM6「All About the One」でも聴ける。アサートンとブラッドリーは、「ジャズ・イン・ピンク」で共演したり、それぞれのアルバムに毎回ゲスト参加したりと、息のあったところを聴かせてくれる。M9「My Song for You」は、ギター奏者ニック・コリオーネの曲で、彼のギターとアサートンのサックスによるコラボ曲。メランコリーで都会的なメロディーと二人のフレージングが、ハートに沁みるいい曲です。「カリンバ・ミュージック」からのリリースだった前作「Ear Candy」(2015)は洗練された作品だった。今作は「カリンバ」からのリリースではないようだけれど、アサートンの活き活きとしたところが聴けるベスト級作品になった。

2018年3月18日 (日)

Marion Meadows 「Soul City」(2018)

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スムーズ・ジャズは、定義の確立していないジャンルかもしれないが、それはコンテンポラリーな音楽として、時代と共に変容している音楽だからだろう。派生的には、ジャズを始まりとして、コンテンポラリー・ジャズ、クロスオーバー、果てはフュージョンといったスタイルを経たインストルメンタル(演奏中心の楽曲)が中心なので、ジャズのサブ・ジャンルのようなネーミングになったのではないのかな。今や、そのスタイルは、インストに限らず、ボーカル曲であれ、ジャズやフュージョン寄りから、R&Bやポップ・チューンまで様々だ。ちなみに、「Smooth」を付けたネーミングも、スムーズ・ソウルや、スムーズR&B、といった多々の派生形も生まれている。スムーズ・ロックや、スムーズ・ブルース、スムーズ・ラップなんて、あるのかもしれない。それらは、ジャンルというより、文字通り心地いいミュージックの「くくり」ではないかな。それでも、多様な「スムーズ・ジャズ」の中で、そのメインストリームは、ウェル・アレンジメントで構成されたインストメンタル楽曲で、グルーヴがなくてはならない、というのが筆者のこだわりです。さて、スムーズ・ジャズ界のスーパースター、サックス奏者マリオン・メドウズの新作は、いつも通り間違いのないグルーヴを聴かせてくれる作品。豪華なゲスト歌手を迎えて、ボーカル曲が大半をしめる今作は、「スムーズR&B」の秀作だ。M2「Dreamin」は、女性ボーカリストのマイーザを迎えて、ギター奏者ピーター・ホワイトも加わった、ラテン・スタイルのハイライト曲。M5「Time After Time」は、シンディ・ローパーの名曲カバーで、ボーカルは、ピーボ・ブライソン。M8「Samba De Playa」のボーカルは、ウィル・ダウニング。M9「No Wind, No Rain」は、女性ジャズ・ボーカリストのダナ・ローレンが歌うジャージーな曲。ローレンのハスキーなスキャットと、メドウズのムーディーなソプラノ・サックスに、シャープなアコースティック・ピアノの会話が美しい。歌伴でも、メドウズのリリカルなソプラノは魅了的だけれど、やっぱり彼が主役のインスト曲が聴きたい。インスト3曲の中では、M1「Sould City」が光っている。ゲストは、ギター奏者ノーマン・ブラウンと、トランペット奏者のジョーイ・サマービル。3人のインタープレイが聴きものの、スロウ・ファンクな曲。次作は、この路線でインスト・オンリーの作品を期待したい。

2018年3月10日 (土)

Lin Rountree 「Stronger Still」(2018)

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ビルボードの発表するチャートは100以上に上る。その中には、「Smooth Jazz Songs」というチャートがあって、スムーズジャズの最新ヒットをチェックするには最適の情報源だ。ラジオ局のエアープレイ頻度でチャートインするシングル30曲は、曲名とアーティストを眺めるだけで、最新のスムーズジャズの動きが一目瞭然に分かる。アルバムを対象とした「Jazz Albums」の方も、要チェックだ。今や、スムーズジャズ系作品のチャートインが目立っている。アドリブ主体の伝統的なジャズの固定観念では理解できない様相だけれど、現代に受け入れられているミュージックがJAZZならば、それはスムーズジャズではないかな。さて、最近まで、ほぼ20週間に渡ってチャートインしていた(最高位1位)のが、このリン・ラウントゥリーの「Pass the Groove」だ。キャッチーなメロディーと、彼のミュート・トランペットのクールな響き。ダンサブルなビートに、ドラマチックなエレピのフレーズとホーン・セクションのアレンジで、完成度の高い楽曲になっている。そのヒットしたシングルを一曲目に配した新作アルバムがこの「Stronger Still」で、彼のベスト級の秀作だ。アダルトオリエンテッドで、クワイエット・ストーム的なクールさが、この人のトランペットとサウンドの特徴。この新作は、全10曲が佳曲ぞろいで、統一感のあるサウンドに魅了される。アコースティック・ギターをフューチャーした M2「My Time with You」は、メランコリーなポップ・チューン。M4「Take It Back」は、ギター奏者アダム・ホーリーが参加したソフトなファンキー・チューン。M8「In My Soul」では、サックス奏者マーカス・アンダーソンとコラボするスロウ・バラード。艶っぽいアンダーソンのサックスと、クールなラウントゥリーの掛け合いが聴きどころだ。M10「It Gets Better」は、おおらかな楽曲で、オープンな吹奏法が殊更に爽快で美しい演奏だ。M6「Somthing More」は、ジェシカ・ジョリアのボーカルをフューチャーした最新シングル。さて、チャートインするかな。

2018年2月23日 (金)

Chris Godber 「Momentum」(2018)

Momentum

サックス奏者クリス・ゴッドバーの前作「Starting Over」(2015)は、サックスの音色もサウンドもフレッシュな佳作で、個人的には高感度の高い作品だった。この新作は、洗練されたサウンドに磨きがかかり、成長著しいところを感じさせてくれる秀作だ。前作と同様に、同じバンドで演奏するキャレブ・ミドルトン(key)や、ロウェル・ハーパー(g)らとの演奏も、生き生きとしたアンサンブルで、グッド・バイブレーションを聴かせてくれる。今作のプロデュースは、レイモンド・ダリウス・ジャクソンという人で、ゴッドバーの演奏バンドでもキーボード奏者を務めているようだ。ダリウス・ジャクソンや、キャレブ・ミドルトンらとの共作を含めた全11曲は、なかなかいい曲ばかり。ボーカル曲など無いけれど、いずれもオーソドックスなスタイルのインスト演奏は安心できる内容だ。M1「Momentum」は、冒頭のテナーの音色が艶っぽいところが印象的なキャッチーなスムーズジャズ・ナンバー。ゴッドバーは、テナー、アルト、ソプラノいずれも吹いているけれど、今作ではテナーの音色がなかなかいい感じだ。M6「Sizzle」は、ギター奏者アダム・ホーリーが客演(曲も共作)したハイライト・ナンバー。先行してシングルでも出ていた曲で、自信作だろう。M3「Living Water」は、ボブ・ボールドウィンが参加した曲。ボールドウィンのピアノとユニゾンで奏でるテーマから、彼のピアノのおかげでやっぱり一味違う演奏。M11「Chips'n'Salsa」は、ボッサ・リズムのコンテンポラリー・ジャズ曲。ピアノやリズム・セクションのライブ感のあるスウィングした演奏が光っていて素晴らしい。ゴッドバーのジャージーなフレージングも、巧者なところを聴かせてくれる。ゴッドバーは、「喘息」の持病を持っていながらの、演奏家である。同時に、呼吸ケアのスペシャリストである呼吸治療のセラピストとしても活動しているそうである。喘息に悩んでいる人たちに、勇気を与えたいと言う。この人も尊敬に値するアーティストなのである。

2018年2月11日 (日)

Gary Palmer 「Coast 2 Coast」(2018)

Coast2coast

フロリダで活躍するサックス奏者、ゲーリー・パーマーの2作目のフルアルバムは、アーバン・ソウルのムードに満ち溢れた佳曲ぞろいの秀作だ。パーマーのサックスは、ボーカルならハスキー気味の音色と、ゴスペルを感じる官能的なフレージングが魅力的。ミディアム・スロウが中心の曲は、クワイエット・ストームと形容できるアーバン・サウンドで、スウィート・ソウルや、フィリー・ソウルのムードがたっぷり。パーマーにとってこの作品は、スムーズ・ジャズの著名アーティストとコラボしたところが新機軸で、バラエティに富んだ内容。それでも、トータルなサウンドはまとまりがあって、なかなか素晴らしい作品。コラボしたアーティストは、ポール・ブラウンティム・ワトソンデヴィッド・P・スティーブンス、シンガーのケヴィン・フォスター、日本人ギタリストのKay-Taこと松野啓太、そして、ニルスといった面々。ポール・ブラウンが参加した3曲は、タイトル曲M1「Coast 2 Coast」、ボブ・ボールドウィンのキーボードがフューチャーされたM12「Land of the Sun」、スタンリー・クラークの初期の名曲をカバーしたM9「Lisa」と、いずれもポール・ブラウンらしいキャッチーなサウンドと、パーマーのサックスがかっこいい、必聴の演奏。Kay-Taが参加したM4「Misunderstanding」は、グッとくる「泣き」のソウル・バラード。デヴィッド・P・スティーブンスのM5「One More Time」も、さらに「泣き」のフィリー・ソウル。ニルスが参加したM10「Windsurfer」は、視界の広がる疾走感溢れる演奏。シンガーのケヴィン・フォスターが参加した2曲は、M3「I Can't Get Over You」と、M13「Ask Me to Stay」で、フォスター自身のソロ・アルバムでパーマーが客演した「Love Is Pain」に含まれていた曲。おそらく同じテイクだろう。いずれも、スウィート・ソウル・バラードで、テディ・ペンダーグラス風といった感じかな。

ちなみに、ゲーリー・パーマーはフロリダ州ラウダーヒルで警察官を務めていたそうで、2010年に引退後も、少年院で要職を務めているという。そんな社会貢献と並行して、音楽活動をしているというから、尊敬すべきサックス奏者なのである。

2018年2月 3日 (土)

「What Is It All But Luminous」 Art Garfunkel 著

Luminous

アート・ガーファンクルの自身による伝記である。半生を振り返った伝記だが、音楽活動の解説より、彼自身の生活や内面の考察に比重を傾けて書いた、「私的」な内容の伝記である。学生時代のポール・サイモンとの出会いや、トム&ジェリーのデビュー、S&Gの成功、映画俳優としての活躍、ソロアルバムの制作、S&Gの再結成、といった彼のプロフェッショナルな功績については、時間的なつながりにとらわれず、フラッシュバックのように語っている。彼の偉大な音楽的成功さえも、アメリカ大陸やヨーロッパのハイキング横断といった私的な活動や、家族のことと並列して、すべてを人生のエピソードとして、内省的な考察を焦点に語られる。

散文的な文章スタイル、メタファー的な引用を交えた「詩」で表現される文章の連続は、正直言って、オーソドックスな伝記のスタイルと(かなり)異なり、読みやすいとは言えないが、そういったユニークな表現方法からして、アートの人間性がうかがえる。かつての恋人の女優ローリー・バードの自死や、父親や兄弟の死、ポール・サイモンの実母の死去、マイク・ニコルズの死去、といった知人の死去と、一方で、妻のキャサリン・セルマックと、2人の息子への家族愛。彼の半生のストーリーとしては、その「対比」が印象的だ。
シンガーとしてのアートのファンとしては、断片的ではあるが、興味深い解説が読めて、嬉しい。彼が膨大な数の書籍を読みこなす読書家であること。今まで、およそ1200冊(!)を読みこなして、感動した書籍の150冊のリストを載せている。この伝記の「文章力」も、彼の非凡な読書量が裏付けなのだ。彼のiPodに入れている楽曲のリストも披露している。そこには、アート自身の曲はもちろん、ジェイムス・テイラー、スティーヴン・ビショップジミー・ウェッブ、といった、彼のアルバムではお馴染みのアーティストの曲が並んでいる。アートは、練習としてジェイムス・テーラーの歌を好んで歌うそうだ。近年は、2年間ほど、「声を失い」歌えなくなったこと苦境についても語っているけれど、そんなに悲観的ではなかった印象で、なんとも彼らしい。80年代後半に、ポール・マッカトニーや、ジョージ・ハリソンと、私的な交流機会もあったとか。トム&ジェリーのヒット曲「Hey Schoolgirl」は、エヴァリー・ブラザースの「Hey Doll Baby」に対抗して作り上げたとか。人生における25の功績リスト、というのもあって、1位はセルマックと結婚して2子を儲けたこと、2位が「明日に架ける橋」。ソロアルバムでは「Breakaway」や、出演映画では「愛の狩人」(マイク・ニコルズ監督の1971年作品)をトップランクにあげている。
彼の人生を変えた25の音楽レコードというリストもある。1位は、エンリコ・カルーソー(オペラ歌手)のオペラ「真珠採り」(ビゼー作曲)のアリア。2位は、アンドリュー・シスターズの「ラムとコカコーラ」(1945)。ナット・キング・コールや、ビング・クロスビー、サム・クック、ジョニー・マティス、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ジョーン・バエズに、チェット・ベイカー、が並んでいる。
稀代のシンガーであり、スターであるアート・ガーファンクルだが、彼のレゾンデートルは、アーティストというより、「家族人」であり「人間」であることを告白している伝記なのだ。彼の書く文章と詩も、歌うこと以上に、重要な自己表現なのだろう。とは言え、願わくば、今度は、新しいアルバムで、シンガーとしての「歌声」を聴かせて欲しい。

2018年1月27日 (土)

Walter Beasley 「The Best of Walter Beasley: The Affable Years, Vol.1」(2018)

Affable

サックス奏者ウォルター・ビーズリーは、30年のキャリアを有する、20枚以上のソロ作品を出しているスムーズジャズ界有数のプレイヤーである。サックスのみならず、シンガーでもあり、バークリー音楽大学でプロフェッサーも務める教育者でもある。彼のスタイルは、メロウでチルアウトなR&Bテイストのサウンドに、クールな音色のサックスが特徴。グローバー・ワシントン・ジュニアのフォロワーとして形容されることが多いけれど、ポスト・グローバーとして90年代の初期作品から、今につながるスムーズジャズのスタイルを作り上げたアーティストだ。新作はベスト集で、自身のレコード・レーベル「Affable」からの近年作品を中心にセレクトされている。全11曲の内、(おそらく)新曲1曲と、残りの10曲は、過去の6枚のアルバムからセレクトという構成。 新曲は、M8「Late Night Lover」で、R&Bシンガー、ラヒーム・デヴォーンのボーカルをフューチャーしたソウル・ナンバー。ビーズリーのサックスは、歌伴に徹して目立たないけれど、しぶーいフレージングがかっこいい。

2003年のアルバム「Go with the Flow」からは、アルバムタイトル曲のM3「Go with the Flow」を収録。セレクト曲の中では一番古いトラックだけれど、クールなサックスとサウンドは違和感が無い。

2007年の「Ready for Love」からは、2曲で、M7「La Nina」と、「Be Thankful」。 「Be Thankful」は、ビーズリーのボーカルが冴えるカバー曲。オリジナル曲は「Be Thankful For What You've Got」という曲で、フィリー系ソウル・シンガーのウィリアム・デボーンのデビュー曲であり、1974年のヒット曲。ビーズリーのボーカルが、ソウルフルでしぶーい歌声。2010年のライブ・アルバム「In the Groove」でも、演っていたお気に入りの曲のようだ。ちなみに、イギリスの女性歌手ルーマーも、「Love Is the Answer」(2015)でカバーしていた曲で、ルーマーの歌声で洗練されたバージョンだった。スウィートソウルの隠れた名曲かな。

2009年のアルバム「Free You Mind」からは、M1「Barack's Groove」、とM11「She Can't Help It」の2曲。ちなみに、「Barack's Groove」のバラクとは、オバマ前大統領のファースト・ネームで、文字通りオバマ前大統領に捧げたオリジナル曲。この曲を冒頭に持ってきたのは、反トランプ大統領という主張かなと想像してしまうね。

2010年「Backatcha」からは、3曲で、M2「Lovely Day」、M4「Expressway」、とM6「Ellie's Theme」。「Lovely Day」は、ビル・ウィザースの有名曲のカバー。 2015年の「I'm Back」(2015)からは、M9「Skip to My Lew」。最近作のアルバム「Blackstreams」(2017)からは、M5「Come on Over」。

ウォルター・ビーズリーの業績を把握するには最適な作品集。スムーズジャズを語るには、押さえておきたいアーティストだ。第1集となっているので、続編が出るのだろう。

2018年1月13日 (土)

Christopher Cross 「Take Me As I Am」(2017)

Takemeasiam

クリストファー・クロスの、デビュー作「Christoper Cross(邦題「南から来た男」)」(1979)は、彼の出世作で、最大のヒット作品、何より今でも色褪せない、AORの、いやポップスの「名作」の一枚だ。残念ながら、彼のその後の作品は、チャート的にはそのデビュー作を超えることは無く、「Walking in Avalon」(1998)を最後に、しばらくは録音作品のリリースも無かった。そして、新曲のスタジオ録音としては、13年ぶりとなる「Doctor Faith」(2011)のリリースは嬉しい「復活」だった。その後も、ライブ録音の「A Night in Paris」(2013)、「Secret Ladder」(2014)と、再び積極的な新作のリリースの連続。もうチャートをにぎわすヒット曲は無いけれど、あのハイトーンボイスが聴けるのは嬉しい限りだ。そして、この新作「Take Me As I Am」は、彼の「新機軸」を聴かせてくれる秀作だ。メジャーなレーベルから離れて、自身のレーベルからのリリースだからか、自由奔放で、リラックス・ムードが伝わって来る。何より、特徴は、従来のボーカル・アルバムと異なる構成だ。いずれの曲も、彼が弾く、伸びのあるフェンダーストラスキャスター・ギターが主役で、加えてピアノ(Eddy Hobizal)やサックス(Andy Suzuki)などのインストが中心の演奏だ。全ての曲で、ボーカルやコーラスは、曲の中盤から現れるという構成で、ボーカル自体の録音も、後方に下がったような控えめのミックスで、演奏の1要素の位置づけになっている。 中でも、M4「Down to The Wire」は、「典型的」な構成で、キャッチーなメロディーは往年のクロスを思わせるソフト・ロックだけれど、ギターや、エレキ・ピアノ、サックスの演奏が中心で、彼のボーカルと混声コーラスさえも、曲の中盤、それも3分の1を過ぎた頃に入ってきて、歌詞も同じフレーズのループなので、インスト作品と言ってもいいぐらいだ。彼のボーカルをたっぷり聴きたいファンにしてみると、少し失望するリスナーもいるかもしれないが、ユニークな演奏作品で、ウエストコーストを思わせる視界の広がる爽快なグルーヴは、従来のクリストファー・クロスの音楽世界と変わらない。復活後の作品としては、ベストな新作だと思う。スムーズジャズ・ファンにもぜひ一聴を勧めたい。

«スムーズなシングル盤

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