2018年2月11日 (日)

Gary Palmer 「Coast 2 Coast」(2018)

Coast2coast

フロリダで活躍するサックス奏者、ゲーリー・パーマーの2作目のフルアルバムは、アーバン・ソウルのムードに満ち溢れた佳曲ぞろいの秀作だ。パーマーのサックスは、ボーカルならハスキー気味の音色と、ゴスペルを感じる官能的なフレージングが魅力的。ミディアム・スロウが中心の曲は、クワイエット・ストームと形容できるアーバン・サウンドで、スウィート・ソウルや、フィリー・ソウルのムードがたっぷり。パーマーにとってこの作品は、スムーズ・ジャズの著名アーティストとコラボしたところが新機軸で、バラエティに富んだ内容。それでも、トータルなサウンドはまとまりがあって、なかなか素晴らしい作品。コラボしたアーティストは、ポール・ブラウンティム・ワトソンデヴィッド・P・スティーブンス、シンガーのケヴィン・フォスター、日本人ギタリストのKay-Taこと松野啓太、そして、ニルスといった面々。ポール・ブラウンが参加した3曲は、タイトル曲M1「Coast 2 Coast」、ボブ・ボールドウィンのキーボードがフューチャーされたM12「Land of the Sun」、スタンリー・クラークの初期の名曲をカバーしたM9「Lisa」と、いずれもポール・ブラウンらしいキャッチーなサウンドと、パーマーのサックスがかっこいい、必聴の演奏。Kay-Taが参加したM4「Misunderstanding」は、グッとくる「泣き」のソウル・バラード。デヴィッド・P・スティーブンスのM5「One More Time」も、さらに「泣き」のフィリー・ソウル。ニルスが参加したM10「Windsurfer」は、視界の広がる疾走感溢れる演奏。シンガーのケヴィン・フォスターが参加した2曲は、M3「I Can't Get Over You」と、M13「Ask Me to Stay」で、フォスター自身のソロ・アルバムでパーマーが客演した「Love Is Pain」に含まれていた曲。おそらく同じテイクだろう。いずれも、スウィート・ソウル・バラードで、テディ・ペンダーグラス風といった感じかな。

ちなみに、ゲーリー・パーマーはフロリダ州ラウダーヒルで警察官を務めていたそうで、2010年に引退後も、少年院で要職を務めているという。そんな社会貢献と並行して、音楽活動をしているというから、尊敬すべきサックス奏者なのである。

2018年2月 3日 (土)

「What Is It All But Luminous」 Art Garfunkel 著

Luminous

アート・ガーファンクルの自身による伝記である。半生を振り返った伝記だが、音楽活動の解説より、彼自身の生活や内面の考察に比重を傾けて書いた、「私的」な内容の伝記である。学生時代のポール・サイモンとの出会いや、トム&ジェリーのデビュー、S&Gの成功、映画俳優としての活躍、ソロアルバムの制作、S&Gの再結成、といった彼のプロフェッショナルな功績については、時間的なつながりにとらわれず、フラッシュバックのように語っている。彼の偉大な音楽的成功さえも、アメリカ大陸やヨーロッパのハイキング横断といった私的な活動や、家族のことと並列して、すべてを人生のエピソードとして、内省的な考察を焦点に語られる。

散文的な文章スタイル、メタファー的な引用を交えた「詩」で表現される文章の連続は、正直言って、オーソドックスな伝記のスタイルと(かなり)異なり、読みやすいとは言えないが、そういったユニークな表現方法からして、アートの人間性がうかがえる。かつての恋人の女優ローリー・バードの自死や、父親や兄弟の死、ポール・サイモンの実母の死去、マイク・ニコルズの死去、といった知人の死去と、一方で、妻のキャサリン・セルマックと、2人の息子への家族愛。彼の半生のストーリーとしては、その「対比」が印象的だ。
シンガーとしてのアートのファンとしては、断片的ではあるが、興味深い解説が読めて、嬉しい。彼が膨大な数の書籍を読みこなす読書家であること。今まで、およそ1200冊(!)を読みこなして、感動した書籍の150冊のリストを載せている。この伝記の「文章力」も、彼の非凡な読書量が裏付けなのだ。彼のiPodに入れている楽曲のリストも披露している。そこには、アート自身の曲はもちろん、ジェイムス・テイラー、スティーヴン・ビショップジミー・ウェッブ、といった、彼のアルバムではお馴染みのアーティストの曲が並んでいる。アートは、練習としてジェイムス・テーラーの歌を好んで歌うそうだ。近年は、2年間ほど、「声を失い」歌えなくなったこと苦境についても語っているけれど、そんなに悲観的ではなかった印象で、なんとも彼らしい。80年代後半に、ポール・マッカトニーや、ジョージ・ハリソンと、私的な交流機会もあったとか。トム&ジェリーのヒット曲「Hey Schoolgirl」は、エヴァリー・ブラザースの「Hey Doll Baby」に対抗して作り上げたとか。人生における25の功績リスト、というのもあって、1位はセルマックと結婚して2子を儲けたこと、2位が「明日に架ける橋」。ソロアルバムでは「Breakaway」や、出演映画では「愛の狩人」(マイク・ニコルズ監督の1971年作品)をトップランクにあげている。
彼の人生を変えた25の音楽レコードというリストもある。1位は、エンリコ・カルーソー(オペラ歌手)のオペラ「真珠採り」(ビゼー作曲)のアリア。2位は、アンドリュー・シスターズの「ラムとコカコーラ」(1945)。ナット・キング・コールや、ビング・クロスビー、サム・クック、ジョニー・マティス、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ジョーン・バエズに、チェット・ベイカー、が並んでいる。
稀代のシンガーであり、スターであるアート・ガーファンクルだが、彼のレゾンデートルは、アーティストというより、「家族人」であり「人間」であることを告白している伝記なのだ。彼の書く文章と詩も、歌うこと以上に、重要な自己表現なのだろう。とは言え、願わくば、今度は、新しいアルバムで、シンガーとしての「歌声」を聴かせて欲しい。

2018年1月27日 (土)

Walter Beasley 「The Best of Walter Beasley: The Affable Years, Vol.1」(2018)

Affable

サックス奏者ウォルター・ビーズリーは、30年のキャリアを有する、20枚以上のソロ作品を出しているスムーズジャズ界有数のプレイヤーである。サックスのみならず、シンガーでもあり、バークリー音楽大学でプロフェッサーも務める教育者でもある。彼のスタイルは、メロウでチルアウトなR&Bテイストのサウンドに、クールな音色のサックスが特徴。グローバー・ワシントン・ジュニアのフォロワーとして形容されることが多いけれど、ポスト・グローバーとして90年代の初期作品から、今につながるスムーズジャズのスタイルを作り上げたアーティストだ。新作はベスト集で、自身のレコード・レーベル「Affable」からの近年作品を中心にセレクトされている。全11曲の内、(おそらく)新曲1曲と、残りの10曲は、過去の6枚のアルバムからセレクトという構成。 新曲は、M8「Late Night Lover」で、R&Bシンガー、ラヒーム・デヴォーンのボーカルをフューチャーしたソウル・ナンバー。ビーズリーのサックスは、歌伴に徹して目立たないけれど、しぶーいフレージングがかっこいい。

2003年のアルバム「Go with the Flow」からは、アルバムタイトル曲のM3「Go with the Flow」を収録。セレクト曲の中では一番古いトラックだけれど、クールなサックスとサウンドは違和感が無い。

2007年の「Ready for Love」からは、2曲で、M7「La Nina」と、「Be Thankful」。 「Be Thankful」は、ビーズリーのボーカルが冴えるカバー曲。オリジナル曲は「Be Thankful For What You've Got」という曲で、フィリー系ソウル・シンガーのウィリアム・デボーンのデビュー曲であり、1974年のヒット曲。ビーズリーのボーカルが、ソウルフルでしぶーい歌声。2010年のライブ・アルバム「In the Groove」でも、演っていたお気に入りの曲のようだ。ちなみに、イギリスの女性歌手ルーマーも、「Love Is the Answer」(2015)でカバーしていた曲で、ルーマーの歌声で洗練されたバージョンだった。スウィートソウルの隠れた名曲かな。

2009年のアルバム「Free You Mind」からは、M1「Barack's Groove」、とM11「She Can't Help It」の2曲。ちなみに、「Barack's Groove」のバラクとは、オバマ前大統領のファースト・ネームで、文字通りオバマ前大統領に捧げたオリジナル曲。この曲を冒頭に持ってきたのは、反トランプ大統領という主張かなと想像してしまうね。

2010年「Backatcha」からは、3曲で、M2「Lovely Day」、M4「Expressway」、とM6「Ellie's Theme」。「Lovely Day」は、ビル・ウィザースの有名曲のカバー。 2015年の「I'm Back」(2015)からは、M9「Skip to My Lew」。最近作のアルバム「Blackstreams」(2017)からは、M5「Come on Over」。

ウォルター・ビーズリーの業績を把握するには最適な作品集。スムーズジャズを語るには、押さえておきたいアーティストだ。第1集となっているので、続編が出るのだろう。

2018年1月13日 (土)

Christopher Cross 「Take Me As I Am」(2017)

Takemeasiam

クリストファー・クロスの、デビュー作「Christoper Cross(邦題「南から来た男」)」(1979)は、彼の出世作で、最大のヒット作品、何より今でも色褪せない、AORの、いやポップスの「名作」の一枚だ。残念ながら、彼のその後の作品は、チャート的にはそのデビュー作を超えることは無く、「Walking in Avalon」(1998)を最後に、しばらくは録音作品のリリースも無かった。そして、新曲のスタジオ録音としては、13年ぶりとなる「Doctor Faith」(2011)のリリースは嬉しい「復活」だった。その後も、ライブ録音の「A Night in Paris」(2013)、「Secret Ladder」(2014)と、再び積極的な新作のリリースの連続。もうチャートをにぎわすヒット曲は無いけれど、あのハイトーンボイスが聴けるのは嬉しい限りだ。そして、この新作「Take Me As I Am」は、彼の「新機軸」を聴かせてくれる秀作だ。メジャーなレーベルから離れて、自身のレーベルからのリリースだからか、自由奔放で、リラックス・ムードが伝わって来る。何より、特徴は、従来のボーカル・アルバムと異なる構成だ。いずれの曲も、彼が弾く、伸びのあるフェンダーストラスキャスター・ギターが主役で、加えてピアノ(Eddy Hobizal)やサックス(Andy Suzuki)などのインストが中心の演奏だ。全ての曲で、ボーカルやコーラスは、曲の中盤から現れるという構成で、ボーカル自体の録音も、後方に下がったような控えめのミックスで、演奏の1要素の位置づけになっている。 中でも、M4「Down to The Wire」は、「典型的」な構成で、キャッチーなメロディーは往年のクロスを思わせるソフト・ロックだけれど、ギターや、エレキ・ピアノ、サックスの演奏が中心で、彼のボーカルと混声コーラスさえも、曲の中盤、それも3分の1を過ぎた頃に入ってきて、歌詞も同じフレーズのループなので、インスト作品と言ってもいいぐらいだ。彼のボーカルをたっぷり聴きたいファンにしてみると、少し失望するリスナーもいるかもしれないが、ユニークな演奏作品で、ウエストコーストを思わせる視界の広がる爽快なグルーヴは、従来のクリストファー・クロスの音楽世界と変わらない。復活後の作品としては、ベストな新作だと思う。スムーズジャズ・ファンにもぜひ一聴を勧めたい。

2018年1月 7日 (日)

スムーズなシングル盤

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リリース間近の新作フル・アルバムに先行する、新曲シングル3枚。いずれも、アルバムが待ち遠しくなるパワー・チューンだ。

ブライアン・カルバートソンの「Colors of Love」は、彼の18枚目となる新作の同名アルバムからの新曲。新作アルバムは、ヴァレンタイン・デイに発売されるという、Loveをテーマにしたロマンティックな作品らしい。ファンキーなカルバートソンと打って変わり、この新曲は、美メロのフレージングが胸キュン路線のカルバートソン。

デイヴ・ブラッドショウ・ジュニアの新曲「Flipside」も、同名フル・アルバムに先行してのリリース。彼らしいソウルフルなピアノが爽快なナンバー。オルガンやホーン・セクションを配したアレンジが、ファンキーな曲。

トランペット奏者リン・ラウントゥリーの新曲「Pass The Groove」は、新作アルバム「Stronger Still」からの先行リリース。ワンツーワンツーのダンシング・ビートのループに乗って、ラウントゥリーのトランペットがファンキーに響き渡る。名曲「ライズ」(ハーブ・アルパート)の「現代版」の趣きを思わせるグルーヴが、かっこいい。

2017年12月31日 (日)

2017年のスムーズジャズ・ソング15+2曲

Prototype 今年のスムーズジャズから、オススメの15と、外せなかった2曲。

① 「Fast Lane」
ピーセス・オヴ・ア・ドリームの「Just Funkin' Around」から、スピード感が抜群の曲で、疾走するサックスが聴きもの。このサックス奏者はトニー・ワトソン・ジュニアという人で、ピーセス・オヴ・ア・ドリームの近年作品を固める準メンバー的な人。
② 「Let's Take It Back」
ナジーの「Poetry In Motion」から、1曲だけのインコグニートとのコラボ曲。今度は、ブルーイのプロデュースでフル・アルバムを作って欲しいなあ。
③ 「Cruising Kunio Hway」
パトリック・ヤンダールの「A Journey Home」から。視界が広がるメロディーと、繊細なテレキャスターの音色が心地いい。
④ 「You Are」
ティム・ボウマンの「Into the Blue」から。エラン・トロットマンのサックスを迎えての、スウィート・ソウルなメロウ・バラードに酔わされます。
⑤ 「Going Out」
ジュリアン・ヴァーンの「Bona Fide」から。この曲のサックスもエラン・トロットマンで、こういうソウル・バラードのサックスにはこの人が欠かせない。
⑥ 「Main Street」
ジャッキーム・ジョイナーの「Main Street Beat」からの、タイトル曲。オーバーダビングされたサックスのアンサンブルが印象的で、グルーヴ全開のキャッチー・ソング。
⑦ 「Backseat Drivers」
マーカス・アンダーソンの「Limited Edition」から。こちらも、ワンマン・アンサンブルのサックスが豪快なビート・チューン。ギターの客演は、アダム・ホーリー。マーカス・アンダーソンの新作は、オリ・シルクやピーター・ホワイトも客演している「This is Christmas」。アンダーソンらしい、ヒップでメロウなクリスマス・アルバムです。
⑧ 「Heartburn」
ヴァレリー・ステファノフの「New Beginnings」から。エメルギッシュなピアノとサックスが印象的な、パワー・チューン。サックスは、Andrey Chumutという人で、スカイタウン・レコードからソロ作品を録音中のようで、来年注目したいアーティスト。
⑨ 「Liberated」
ノーマン・ブラウンの「Let It Go」から、BWB名義のトラック。BWBの3人のグルーヴには、さすがに身が乗り出します。
⑩ 「Category A」
シンディ・ブラッドリーの「Natural」から。クリス・スタンドリングとコラボした曲。スタンドリング独特のアシッドなサウンドに、ブラッドリーのトランペットがクールに響き渡る。
⑪ 「Lifecycle」
ネイザン・イーストの「Reverence」から。今年、チャック・ローブさんが他界された。フォープレイの活動はどうなるのかな、そちらも心配。
⑫ 「Tick Tock」
ボニー・ジェイムスの「Honestly」から。スロウなリズミに、セクシーなジェイムスのサックスの音色が極上です。
⑬ 「So Strong」
リック・ブラウンの新作「Around The Horn」から。今年は、BWBの3人のソロ作品がいずれも際立っていた。来年は、BWBの新作が聴けるかな。
⑭ 「Baby Coffee」
マイケルJトーマスの新作「Driven」から。サックスは元より、マイケル・ジャクソンを思わせる歌声と歌唱力にびっくり。アーバン・コンテンポラリーな内容も素晴らしい作品。
⑮ 「Been Around the World」
ブライアン・カルバートソンの「Funk!」から。カルバートソンの新作「Colors of Love」は、来年2月にリリース予定。ファンクとは打って変わり、ロマンティックな内容のようで、待ち遠しい。
⑯ 「Groove On」
ユージ・グルーヴの新作「Groove On」から。新作をリリースするたびに、クオリティが高くなるユージ・グルーヴ。絶対に聴き逃せない人。
⑰ 「The Badness」
ジェフ・ローバー・フュージョンの「Prototype」から。新メンバーのアンディ・スニッツアーが入っても、エッジでスリリングなグルーヴは健在。ノミネートされている、グラミー賞に、ぜひ輝いて欲しい。

2017年12月25日 (月)

Euge Groove 「Groove On」(2017)

Grroveon

このユージ・グルーヴの新作を聴かずに、今年のベストを選んだのはちょっと不覚であった。この作品は、「超」が付くほどのベスト級だったのだから。艶やかで、時に情熱的なサックスは、さらに磨きのかかった音色。アルバムのほとんどがスローやミディアム・テンポの曲で、そのリラックスしたグルーヴの包容力には参ってしまう。キャッチーなメロディの連続は、ハートに暖かく響いてくる。全11曲、すべて聞き逃せない完成度の作品だ。ゲストプレイヤーは、ピーター・ホワイトや、ボーカルのリンゼイ・ウェブスターが参加しているが、全ての曲で、ほぼ同じリズム・セクションで演奏されていて、統一感のある音質とグルーヴでまとまっている。M1「Sonnet XI」は、ソプラノを吹いているアルバム中2曲のうちの1曲。リリカルで、明るい音色がこの人のソプラノの魅力。M2「Groove On」は、彼らしいダンス・ビートのハイライト・チューン。メランコリーなメロディを、伸びやかなテナーの歌い上げにグッと来ます。M4「The Healing」は、タイトル通りの、癒されるスロウ・バラード。ボーカルのようで、それ以上の、テナーの音色に癒されます。M7「Last Call」は、ブルースだけれど、そこは彼らしい洗練されたメロディーがフックの都会的なブルース。ハモンドオルガン(B3)が入るサウンドが印象的。ほとんどの曲で、このハモンドオルガンが入るのも、今作の特徴だろう。「Groove On」のイントロやバックサンドでもハモンドオルガンが使われていて、どこか「ロック」なサウンドが懐かしく効果的だ。M9「Always Love You」は、リンゼイ・ウェブスターがボーカルの歌モノ。クレジットは、グルーヴとウェブスターの共作の、メロディアスなバラード。ウェブスターのオーバーダビングのコーラスが印象的な、上質なポップ・バラード。グルーヴの歌伴も、もちろん最高です。今年の締めくくりの、イチ押しの作品です。

2017年12月24日 (日)

2017年のベスト3+1

Aroundthehorn Joyner Newbeginning Lovecovers

今年聴いた作品の中から、例によって「独断的」に選んだベスト3と次点の作品。

① 「Around the Horn」 Rick Braun

リック・ブラウンの作品は、アーバンなアレンジと、流麗なブラウンのペット・サウンドが、全曲に渡ってメロウに響き渡る傑作。前作「Can You Feel It」(2014)は、ビート全開のファンキーな作品だったけれど、今作はちょっとレイドバック気味のソウルフルでカッコいいブラウンが堪能できる。サウンドの要は、ほぼ半数の曲に参加している、ジョン・ストッダート。彼が、曲の共作、キーボード演奏、ボーカル、プロデュースを担当したコラボが大正解。ストッダートは、ゴスペル系R&Bシンガーで、自身のソロ作品や、カーク・ウェイラムとの共演で注目される人。ストッダートの、ネオ・ソウル・フレーバーと、ブラウンのクールなペット・サウンドが、ブレンドされた極上のミュージック。タイトル曲は、ゲストのティル・ブレナーとインタープレイが鳥肌もののベスト・トラック。名作級のベスト作品。

② 「Main Street Beat」 Jackiem Joyner

ジャッキーム・ジョイナーの作品は、彼のパワフルなサックスが、「全開」する秀作。ほとんどの曲は、彼のバンド・メンバーが固めた演奏で、フレッシュな躍動感で溢れている。ジャスティン・ティンバレイクや、ブルーノ・マースのヒット曲のカバー演奏も名演だが、ジョイナーのオリジナル曲はキャッチーな曲ばかりで、作曲の才能の素晴らしいこと。M1「Main Street」のポップ・チューンから、M6「Southside Boulevard」や、M11「Get Down Street」のスピード溢れるファンキーなビート・ナンバーも最高。スムーズジャズは、こうでなきゃあ、というベスト作品。

③ 「New Beginnings」 Valeriy Stepanov

ロシアはイルクーツク出身という、キーボード奏者ヴァレリー・ステファノフの作品。ギター奏者ユーナムが、自身のレーベル「スカイタウン・レコード」からデビューさせた、新人アーティストだ。パワフルかつテクも聴かせるピアノと、フェンダーのポップなフレージング、おそらく彼自身のペンのよる曲やアレンジは、どの曲もキャッチーなフックに満ちて素晴らしい内容。これからの活躍が大いに期待できる大型新人の登場だ。

④「#lovecovers」Kirk Whalum

次点は、カーク・ウェイラムのカバー作品集。全曲ボーカル入りだし、啓示的テーマの曲の数々は、ゴスペルかクリスチャン・ミュージックの範疇でもあり、ということで次点にランク。とは言え、ウェイラムの演奏はベスト級で、今年もっとも心動かされた作品だ。彼のライフワークである「The Gospel According to Jazz」シリーズのスタジオ録音による完成盤と言ってもいい。ワイナンズ・ファミリーなどゴスペル界のメジャー・アーティストの参加も豪華だけれど、ウェイラムのサックスは、歌うがごとく清々として、感涙的でさえある。偉大なアーティストを偲んだような「Tomorrow」は、MC入りの演出も秀逸で、感動のハイライト・チューンだ。ホイットニー・ヒューストン名演のヒット曲「I Will Always Love You」を始めとして、全曲でウェイラムのサックス・フレージングの覚めるような美しさに、感動しまくり、何度リピート・プレイしたことか。

その他、今年の秀作の数々。

リック・ブラウンとカーク・ウェイラムの盟友でありBWB組のノーマン・ブラウンによる「Let It Go」は、もちろん傑作で、ベスト3に入れるか悩んだ作品。

ギター奏者ティム・ボウマンの久しぶりのフル・アルバム、「Into the Blue」は、メロディアスなギター旋律と、ポップな曲満載の作品。

マイケル・J・トーマスの「Driven」は、彼のボーカルが新鮮で、AOR的な明るさに魅了された作品。

JTプロジェクトの「Another Chance」や、ピーセス・オブ・ア・ドリームの「Just Funkin' Around」は、バンド・アンサンブルのリアル・グルーヴに酔える演奏作品。

マーカス・アンダーソンの「Limited Edition」は、彼らしいヒップなダンス・グルーヴが全開した快作。

さて、年末の「恒例」の、「Sound of The Breez」のマスター「洋楽のソムリエ」さんとの共同企画、お互いのベスト作品の発表も、今年で5年目です。「洋楽のソムリエ」さんによる、ベスト作品は下記になりました。今年は初めて、重なるアルバムがなく、異なるセレクションになりました。(「Sound of The Breeze」のサイトにも掲載されていますので、ご覧になって下さい。)

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「Sound of The Breeze」から

Reverence Poetry_najee Letitgo_2

2017年 Best Smooth Jazz Albums

1位 『Reverence 』 Nathan East

しっかり練られた構成と収録曲ひとつひとつのクオリティの高さが群を抜いていた。緻密でありながらこれだけ骨太なアルバムは、スムーズ・ジャズでは珍しいのではないだろうか。随所に見られる、Earth,Wind & Fire など先人に対するリスペクトにも好感が持てる。スティービー作品のカバー、「Higher Ground 」は、当サイトが認定した上半期におけるベスト・ダンス曲のひとつだ。ニッキ・ヤノフスキーをフィーチャーした「The Mood I’m In 」は、こじゃれている。なお、米国のスムーズ・ジャズ専門局のオンエア回数では、上半期に長期にわたって1位を続けていたアルバムでもある。内容のみならず人気でも他を圧倒した結果の1位は、文句なしだろう。

2位 『Poetry In Motion 』 Najee

ナジーは、筆者がアルバムが出るたびに購入して聴いているアーティストのひとりだ。しかし、彼のアルバムを” 年間ベスト” として推したことはなかった。今回このアルバムを第2位に選んだのは、これまで以上に「抜群の心地よさ」があったからである。聴いていると知らぬ間にアルバム全体を聴き終えていて、また初めから聴きたくなる。そんなアルバムなのだ。エリック・ロバーソンをゲストに迎えた「Is It The Way 」など歌が入ったものも素晴らしい。インコグニートをフィーチャーした「Let’s Take It Back」は、当サイトが選ぶ年間ベスト・ダンス曲 15 作品の第13 位だ。

3位 『Let It Go 』 Norman Brown

『Poetry In Motion 』と、どちらを上位にするか散々迷った。曲の多彩さという点でいえば、むしろこちらだろう。心地よさに加え、「ジャズしている」感覚も充分だ。このアルバムも、歌物がアクセントになっている。今回、2位、3位ともレコード会社はShanachieだ。となれば、アルバムに歌物を収録するのは、会社の方針でもあろうか? 総崩れになっているR&B分野のファンに手を差し伸べられるのは、今やこんなタイプのスムーズ・ジャズかも知れない。

<一年を振り返って>

今年は「次点」を認定しなかった。しかし、ぎりぎりで飛び込んで来たユージ・グルーヴの新アルバム『Groove On 』は、充分ベスト3に値する作品だ。彼のアルバムには、心地よいグルーヴで酔わせる作品が必ず入っていて期待を裏切ることがない。 さて、グラミーの「Best Contemporary Instrumental Album 部門」に、ジェフ・ローバー・フュージョンの『Prototype 』がノミネートされた。「ごきげんだね! 」と称賛に値する作品である。しかし、この手のものは1980年代から存在する。グラミーのアカデミーが意味する” Contemporary “ とは、なんなのだろう? グラミー賞の同部門が、決してわれわれが想定するスムーズ・ジャズを対象にしたものではないことを非常に残念に、また嘆かわしく思う。

なお、ここ数年で感じるのは、音楽シーンでのR&B の凋落だ。今やその欠けた部分をカバーしているのは、スムーズ・ジャズではないだろうか。当サイトが選んだ今年のベスト・アルバム三作品 は、図らずもそんな作品が並んだ。 来年は、キーボーディストによる作品に期待したいと思う。

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「Sound of The Breeze」のベスト3作品は、いずれもトップランクのクオリティで、今年を代表するアルバムであること大賛成だ。来年も、多くの良質作品に出会えるのを期待しています。

2012年のベスト作品

2013年のベスト作品

2017年12月10日 (日)

第60回グラミー賞ノミネート作品

Whatif Spirit Mountroyal Prototype Badhombre

第60回グラミー賞のノミネート作品が発表された。「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」の候補作品は、この5作品。近年、この部門は、コンテンポラリー・ミュージックの多様な演奏作品から選ばれているが、異なるジャンルのハイライト的なセレクションで、それを同じ土俵で評価するのもどうなのかなあ。そして、とても残念なことに、スムーズジャズは「無視」されているがごとく、良作が選ばれることも無くて、ファンとしては腹が立つところ。だが、まあ、認めないなら、勝手にしろや、という感じですなあ。

① 「What If」 The Jerry Douglas Band

ジェリー・ダグラスは、ブルーグラスやカントリーで用いられる通称ドブロと呼ばれるスライド・ギターの名手。14度のグラミー受賞歴を誇り、カントリーに限らずジャンルを越えてアメリカン・ミュージックに影響を与える大物アーティスト。自己名義のバンドのこの作品は、ブルーグラスを下敷きに、ジャズやロックをブレンドして、独自の音楽世界を発揮した意欲作。「Cavebop」は、典型的なブルーグラスと、ジャズが融合したような、クロスオーバーな演奏だし、タイトル曲「What If」の、繊細なフレージングのスライド・ギターの演奏は、ドラマチックで素晴らしい。

② 「Spirit」 Alex Han

アレックス・ハンは、マーカス・ミラーのバンドで活躍する、新鋭のサックス奏者。第58回のグラミー賞ノミネート作品、マーカス・ミラーの「Afrodeezia」(2015)にも参加している。この「Spirit」は、マーカス・ミラーがプロデュースした彼のデビュー作品。タイトル曲の、ハンの静謐なサックスが美しい。未来志向のコンテンポラリー・ジャズの秀作。

③ 「Mount Royal」 Julian Lage & Chris Eldridge

ジュリアン・レイジは、ジャズ・ギター奏者で、わずか15歳で、ゲイリー・バートンのバンド参加でデビューした、ジャズ界の新鋭。片や、クリス・エルドリッジは、ブルーグラスのバンド、パンチブラザーズのギタリスト。パンチ・ブラザーズと言えば、マンドリン奏者クリス・シーリが率いるスーパー・バンドで、ブルーグラスに留まらない多様な音楽世界が魅力のバンド。その二人が共演というだけでも、話題の作品。2人のアコギによるデュオ演奏は、数曲で歌も入るが、ブルーグラスやトラッド・フォークなどをベースにした、大らかなアメリカン・ルーツ・ミュージック。

④ 「Prototype」 Jeff Lorber Fusion

われらが、ジェフ・ローバー・フュージョンの新作。かつて「Hacienda」(2013)が、2014年の56回グラミー賞にノミネートされたこともある。この作品は、ジェフ・ローバーとジミー・ハスリップに、新サックス奏者としてアンディ・スニッツアーを迎えた、「新生」ジェフ・ローバー・フュージョンとしての新作。アンディ・スニッツアーも、違和感なく溶け込んでいるけれど、個人的には、かつてのサックス奏者エリック・マリエンサルがいた「Galaxy」(2012)や、「Hacienda」の、スリル全開なバイヴレーションには及ばないような気がするけれど。

⑤ 「Bad Hombre」 Antonio Sanchez

アントニオ・サンチェスは、ゲイリー・バートン、パット・メセニーや、チック・コリアなどと共演してきた、メキシコ出身のドラマー。アカデミー賞作品の映画「バードマン」のオリジナルスコアを作曲した人。この作品は、彼のソロ・ドラミングによるインプロビゼーションが圧巻な作品。前衛的であり、内省的でもあるが、映像作品のような感動の伝わる鬼才に溢れる作品。

①はブルーグラス、②はコンテンポラリー・ジャズ、③はフォークのフォーマット、④はフュージョン、⑤は前衛的作品、とは言え、いずれもジャンルではくくれない意欲作。かように異なる音楽性の秀作から、ベストを選ぶ基準が分からないが、独断的には、「本命」は①かな。ブルーグラスにジャズやロックを融合させて、伝統的なフォーマットを超えようとする、パッションの伝わる演奏に心を動かされる傑作。グラミー賞の発表は、2018年1月28日です。

第59回グラミー賞ノミネート作品

第58回グラミー賞ノミネート作品

第57回グラミー賞ノミネート作品

第56回グラミー賞ノミネート作品

第55回グラミー賞ノミネート作品

第54回グラミー賞ノミネート作品

2017年12月 9日 (土)

Pieces of a Dream 「Just Funkin' Around」(2017)

Funkin_around

この数ヶ月、ヘビー・ローテーションになって、飽きもせず聴いているのが、このピーセス・オブ・ア・ドリームの新作。タイトル通り、ファンクのバイブレーションが堪能できる傑作。ライブ録音的な演奏で、リアル感溢れるビートにガツンと来ること間違いなし。バンド結成以来のメンバー、ジェームス・ロイド(キーボード)とカーティス・ハーモン(ドラムス)に加えて、サックスのトニー・ワトソン・ジュニア、ベースがデビッド・ダイソン、ギターのランディ・ボーリング、この5人のアンサンブルによる演奏。クワイエット・ストーム的でメロウなスタイルが、このユニットの看板ではあるけれど、それが「静的」としたら、この新作は、骨太なグルーヴが発揮された、「動的」な代表作になりそうな秀作。「ファンク」は、最近のスムーズジャズのキー・ワード。ブライアン・カルバートソンはディープでダンス的なアプローチ、ジェフ・ローバーはハード・フュージョン。このピーセス・オブ・ア・ドリームは、彼らの原点フィラデルフィア・ソウルを下敷きにした洗練されたファンクというところかな。M1「Right Back Atcha」、M2「Just Funkin' Around」、M3「Shaken, Not Stirred」は、そんなファンク・グルーヴに浸れる怒涛の3曲。ジェームス・ロイドのスウィングするキーボードや、最近作品では常連のサポート・メンバーであるトニー・ワトソン・ジュニアのフレッシュなサックス・プレイ、それぞれのフレージングとパワフルなリズム・アンサンブルが爽快。M5「Fast Lane」は、この曲はシンセのオーバーダブを駆使した演奏で、ジェームス・ロイドらしいキャッチーなメロディーの、ヘビロテ間違いなしのポップ・チューン。カーティス・ハーモンの縦横無尽なドラミングが、リアルに録音されているところも、この作品の聴き処です。

«Najee 「Poetry In Motion」(2017)

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  • スムーズジャズは、最高のコンテンポラリーミュージック。ググっとくるアーティストのバイブレーションを、リアルタイムで聴きたい。独断で選んだスムース系の新譜を紹介します。Since 2011。UGASAI
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