2018年10月12日 (金)

Althea Rene 「Unstoppable」(2017)

Arene unstoppableフルート奏者アルティア・ルネは、出身地のデトロイトで、群保安官を10年以上務めたことがあるという異色の経歴の持ち主。とは言え、保安官を志していた訳では無いはず。父親は、モータウンのセッション・ミュージシャンで、サックス奏者だった。その父親の影響があり、フルート奏者を目指したという。2000年のデビュー作品「Flute Talk」以来、5枚の作品をリリースして、今や、スムーズジャズ界の女性フルート奏者としては、第一人者だ。6枚目となるこの新作は、プロデュースや作曲を、ルネ自身と、何人かの注目アーティストとコラボして作り上げた秀作。ルー・レイン、 マーカス・ハンター、ターハン・ヴァンダイク、ニコラス・コール、ダーリック・ハーヴィンといった、いずれも新進気鋭のアーティストの参加が、この作品の要になっている。リン・ラウントゥリー、キエリ・ミヌッチ(スペシャルEFX)、ティム・ボウマン、グレッグ・マニング、などメジャー級のアーティストのゲスト参加も豪華だが、なんといっても、ルネのフルートが、まるでシンガーのような、「歌唱力」と言えるメロディアスなフレージングを繰り出すのが最大の魅力。オリジナル曲の「Unstoppable」や、「Gypsy Soul」、「Now and Forever」など、R&Bムードのコンテンポラリー・ソングは、いずれも佳曲揃い。「What Cha Gonna Do With My Loving」(ステファニー・ミルズ)、「Rain」(シスターズ・ウィズ・ヴォイシス、原曲はジャコ・パストリアス)といったカバー曲のセンスも唸らせる。どの曲も、ライブ的なグルーヴが伝わる演奏陣のアンサンブルが、素晴らしい。特に、「Another Star」(スティーヴィー・ワンダー)の7分超のカバー演奏は、一聴の価値ある、ベスト・トラックだ。今回のレコーディングのオール・スター的メンバー(ルネのフルート、ヴァンダイクのピアノ、ハンターのドラムス、ジェームス・カーターのサックス、など)の演奏は、アドリブの応酬も情熱的で、目の覚めるようなグルーヴには圧倒されること、半端じゃ無い。

2018年9月29日 (土)

Freddy Cole 「My Mood is You」(2018)

Fcole mymoodジャズ・シンガー、フレディ・コールの新作。フレディ・コールは、ナット・キング・コールの実弟。ナットには、アイクとフレディの2人の弟がいる。ナット・キング・コールは、1965年に45才の若さで早逝。8才下の弟アイクも、ピアニストだったが、2001年に73才で鬼籍に入る。ナットの実娘、ナタリー・コールも、2015年に65歳で他界した。偉大な才能の早世はいつの時代も繰り返されるのだろうか。ナットを筆頭に、多くの音楽家を輩出しているコール家の、直系のフレディ・コールは、今も現役のシンガーだ。フレディは、ナットとは12才離れていて、もうすぐ、86才を迎えるはず。キャリアは、優に60年を超える、大ベテランだ。彼の歌声に、ナットの面影を探す向きもいるのかもしれないが、小気味のいいスウィングに乗って、語りかけるような、包容力に満ちた渋い歌声は、フレディーならではの味わいだ。伴奏陣は、いずれもジャズ正統派のミュージシャンで、エレガントでリリカルな演奏が聴きものだ。ジョン・ディ・マルティーノ(p)、ランディ・ナポレオン(g)、エリアス・ベイリー(b)、クワンタン・バクスター(dr)のカルテットは、フレディーの近年作品の常連で、気心が知れた関係に違いない、リラックスした演奏を聴かせてくれる。客演のサックス奏者ジョエル・フラームは、時に「動」的なフレージングを聴かせて、ムーディーなアンサンブルの中で、印象深いアクセントになっている。
アルバムの10曲は、著名曲とは限らず幅広い佳曲が並んでいて、興味を引く選曲だ。「They Didn't Believe Me」はフランク・シナトラ、「Temptation」はビング・クロスビー、の名唱が代表的なスタンダード曲。「My Heart Tells Me」、「The Lonely One」、の2曲は、ナット・キング・コールがレパートリーとしていた曲。特に、「The Lone One」は、ナットのジャズ超名盤「After Midnight」(1957)の中の1曲。ジャズ歌手レナ・ホーンがレパートリーとしていた曲からは3曲、「My Mood Is You」、「I'll Always Leave the Door a Little Open」、「Love Like This Can't Last」。特に、「My Mood Is You」の、自然に語るような歌い方はシビれるし、美的といっていい演奏が極上で、ハイライトな曲だ。「Almost in Love」はエルビス・プレスリーが歌った曲(1968)。注目は、「First Began」だろう。超ヒット・メーカーのバンド、マルーン5のメンバーでもある、PJモートンのソロ作品「Gumbo」(2017)からの曲。若い世代のソウル・アーティストの曲も、フレディー・コールは、スタンダード・ジャズのように歌い上げて、違和感など無く、新鮮で素晴らしい。アルバム最後の「Marie」も、非ジャズの曲で、シンガー・ソング・ライターのランディ・ニューマンのアルバム「Good Old Boys」(1974)の1曲。ランディ・ニューマンを取り上げて、ジャズの解釈で歌うのだから、なんとも粋ではありませんか。
芳醇で味わい深いフレディー・コールのボーカルと、心地いいムード・ジャズ系の演奏。これぞ極上のスムーズ・ミュージックですな、大推薦の作品。

2018年9月21日 (金)

Gerald Albright 「30」(2018)

Galbright 30ジェラルド・アルブライトの新作は、デビューから30年を記念して、ずばり「30」と名付けられた作品。87年のデビュー作品「Just Between Us」から数えて、19作品目(共演企画ものやライブ、ベストなどの6作品を含む)。その過去作品から、選りすぐった8曲を新しく演奏した内容で、新曲1曲と、ボーナストラック1曲を加えた全10曲(全てアルブライトの作曲)。過去作品の再演とはいえ、古さなど微塵も感じられない、アップデートされたアレンジは比類ない上質感とグルーヴにあふれている。近年作の「Slam Dunk」(2014)、「G」(2016)で披露してきた、縦横無尽のサックスはもちろん、ホーン・セクション、ベースの多重録音ワンマン・プレイが、さらに磨きがかかったサウンドだ。
87年のデビューアルバム「Just Between Us」からは、タイトル曲と「Come Back To Me」の、2曲を再演。「Come Back To Me」では、実娘のセリーナ・アルブライトがボーカルで参加している。
88年の2作目「Bermuda Nights」からは、タイトル曲。91年のライブ盤「Live at Birdland West」から、「Bossa of Nova」。この曲のスタジオ録音は、今回が初めてかも知れない。95年の「Giving Myself to You」からは、「Chips N' Salsa」。97年の「Live to Love」から、「Sooki Sooki」。2004年の「Kickin' It Up」から、「4 On the Floor」を、同曲のボーナス・トラックと2バージョン。ボーナスの方は、ギター奏者リッキー・ワットフォードをフューチャーしたトラックだ。2006年の「New Beginnings」からは、タイトル曲。そして、おそらく、新曲だろう「Road to Peace」は、ミディアム・テンポのバラードで、サックスとピアノのゴスペル・テイストの演奏が聴きもの。
アルブライトの「ベスト・オブ」的な選曲で、キャリアを振り返るという回帰的なコンセプトではあっても、最高にコンテンポラリーなサウンド・デザインで作り上げたところが秀逸。スムーズジャズの第一人者であることを証明する秀作だ。

2018年9月12日 (水)

Darryl Williams 「Here To Stay」(2017)

Dwilliams hereベース奏者ダリル・ウィリアムズは、名だたるスムーズ・ジャズ・アーティストから引っ張りだこのセッション・ミュージシャンだ。共演や客演したアーティストは、ジェラルド・アルブライト、ユージ・グルーヴ、マイケル・リントン、リック・ブラウン、ポール・ブラウン、ジェフ・ローバーなどなど、枚挙にいとまがない。最近では、ニルスの新作「Play」の大半の曲でも、ベース奏者としてクレジットされていた。
サンディエゴ出身のウィリアムズは、10代からベース演奏を始めて、ジャズやR&Bのバンドやサポートで演奏経験を積んできた人。2007年には、ソロのデビュー・アルバム「That Was Then」をリリース。この「Here To Say」が、10年ぶり2枚目のソロ・アルバム。共同プロデュースは、ユージ・グルーヴ。ゲストのアーティストは、ユージ・グルーヴはもちろん、ポール・ブラウン、ジェフ・ローバー、マイケル・リントン、ジョナサン・フリッツェン、ポール・ブラウン、という豪華なメンバー。今までのサポート・ミュージシャンとしての貢献を証明するような、客演のメンバーだ。10曲中2曲を除いて、ウィリアムズ自身のペンによる楽曲。メロウで、アーバン・ムードの楽曲の数々は、ウィリアムズの作曲の才能にも唸るばかりだ。
アルバム・タイトル曲「Here To Stay」は、ユージ・グルーヴが客演した、キャッチーなハイライト・トラック。グルーヴのソプラノと、ウィリアムズのベースがユニゾンで奏でるフレージングが、メロウな佳曲。「Do You Remember」は、マイケル・リントンが客演したビート・チューン。パワフルなリントンにリンクするような、ウィリアムズのチョッパーがパワフルだ。「Now and Never」は、ジョナサン・フリッツェンのピアノとユニゾンするバラード曲で、チルアウトなムードがたまらない。「How Long Has It Been」は、ギターのように奏でる奏法と、スラップ奏法の二刀流(ダビング)の重量級ベースが印象的な曲。客演は、ジェフ・ローバーのエレピとマーカス・アンダーソンのサックス。「Turn Up」は、ピアノ奏者スコット・ウィルキー客演の曲。軽快なピアノと骨太のベースが、対照的だけれど、上質なグルーヴに溢れている。
アルバムを通して、都会的でクワイエット・ストームなムードが堪能できる秀作。ベース奏者としては、自己のプレイはむしろ奥ゆかしくて、全体の曲とサウンド作りの才能が光る作品。

2018年9月 3日 (月)

ポール・サイモンの評伝 ②:邦訳されている評伝

ロバート・ヒルバーン著の最新評伝『Paul Simon:The Life』は、残念ながら、まだ邦訳出版されていない。ポール・サイモンやサイモン&ガーファンクルの評伝で、過去に邦訳されているものもいくつかある。ヒルバーンの評伝でも、「参考文献」にリストアップされている評伝で、日本語で読めるのがこの3冊。

Psimon book2『ポール・サイモン』(パトリック・ハンフリーズ著、野間けい子訳、音楽之友社、88年)は、『The Boy in the Bubble; A Biography of Paul Simon』(by Patrick Humphries、1988)の訳本。今から30年前の著作で、時系列的には「グレイスランド」(1986)に至るまでの評伝となっている(「The Boy in the Bubble」は「グレイスランド」の収録曲名)。著者のパトリック・ハンフリーズは、ポップスやロックのアーティストを対象にした多くの評伝を著している、英国在住の音楽ライター。彼が著した評伝には、ビートルズ、エルビス・プレスリー、トム・ウェイツ、フェアポート・コンベンション、リチャード・トンプソン、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ニック・ドレイク、など多数。近年も、ロニー・ドネガン(ロック誕生前50年代のスキッフルのアーティスト)の評伝を出している。

この評伝は、当時の社会背景や、音楽業界の潮流の解説に比重をおいて、ポールの半生を追跡している。ポールのアルバムごとの収録作品を、著者の考察で分析しているところが特色。エピソードとしては、「グレイスランド」にまつわるくだりが本書のハイライトになっている。80年の国連決議で、南アフリカへのボイコット政策に、芸術、音楽、スポーツなども含まれることなり、音楽業界も翻弄されて行く。ポールの「グレイスランド」にまつわる活動も、「非難」を受けながらも、南アの音楽を取り入れたその音楽性への評価と、ポールの音楽家としての革新的な姿勢が語られるところが、読みどころ。

著者は、この本の先だつ5年前に、『Bookends; The Simon and Garfunkel Story』(1982)という、サイモン&ガーファンクルの評伝を著している。邦訳は、『サイモン&ガーファンクル・ストーリー』(パンプキン・エディターズ訳、CBSソニー出版、83年)。これは、S&G2人を対象に、1981年のセントラル・パーク・コンサートまでを追った評伝。2人のアルバムや曲に対する、著者の批評は、辛口の「酷評」も目立ち、やや鼻白んでしまう。このS&Gの評伝は、5年後のポール・サイモン評伝の「下敷き」になった本。

S G book2他には、『サイモンとガーファンクル 旧友』(ジョゼフ・モレラ/パトリシア・バーレイ共著、福島英美香訳、音楽之友社、93年)という本もある。『Simon and Garfunkel: Old Friends: A Dual Biography』(by Joseph Morelia and Patricia Barey、1991)の訳本で、サイモンとガーファンクル2人のトム&ジェリーの時代から、90年に至るまでの評伝。

デュオの時代から、後年のソロや復活コンサートに至るまでの軌跡は周知の内容だが、いわゆる芸能情報的なゴシップ情報を満載に記録している。ポールとアートの、特にスターとなってからの、それぞれの結婚、離婚、女性関係、ドラッグ体験、関係者の実名を挙げてのトリビア情報量は圧巻。著者は、2人の創り出した名作や復活劇の裏に回って、潜在的な確執の関係や、私生活の波風を掘り下げる。ゴシップ的な情報量は驚かせられるほど満載だが、ミーハー的興味に終始していて、やや辟易するが。著者のジョゼフ・モレラは、米国のエンターテイメント情報誌「バラエティ」の元記者というから、芸能情報満載というのもうなずける。

翻訳評伝ではないが、日本の『サイモン&ガーファンクル全曲解説』(佐藤実著、アルテスパブリッシング、09年)は、「解説書」として稀有な良書である。S&Gデュオ作品から、ソロ作品、ベスト盤や映像作品に至るまで、全曲を網羅した解説書。作品ごとの背景の説明にとどまらず、詞や曲の専門的な分析に踏み込んでいて、著者の研究心には唸るばかりだ。ここまでの緻密な内容の、サイモン&ガーファンクルの「研究書」は、欧米にも無いだろう。ファンにとってのバイブルといっても過言ではない。書籍は絶版のようだが、電子書籍版がある。

2018年8月27日 (月)

Nils 「Play」(2018)

Nils Playギター奏者ニルスの新作は、前作「Alley Cat」(2015)に続いて、クオリティを高めた秀作。ニルスのスリリングなギターが快走して、タイトなリズムやホーン・セクションと作るグルーヴは爽快だ。共作を含むオリジナル10曲はいずれも佳曲ばかりで、ニルスの作曲センスが光る。コンテンポラリーなR&Bスタイルの曲が際立っていて、今回多くの曲に参加しているジョニー・ブリット(ボーカル、キーボード、トランペット)の登用がハマっている。
「Coast to Coast」は、ハイライトなキャッチー・ナンバー。キレが良くて、セクシーなところも聴かせるニルスの魅力が発揮された曲。「Sway」は、ジョニー・ブリットのクールなトランペットが印象的な、スロウ・バラード。ニルスの、ブルージーなプレイも光っている。「Straight Down the Line」は、ホーン・セクションが盛り上がるファンキーなナンバー。キーボード奏者フィリップ・セスが客演。「Play It」は、ニルスとキーボード奏者ネイト・ハラシムが共作した、アタックのあるメロディが魅力の曲。ネイト・ハラシムも客演しているタイトなアンサンブルが聴きどころ。「California」は、サックス奏者スティーヴ・コールが客演した曲。コールのサックスが爽快だ。アルバム最後の曲「Fire of My Heart」は、新しい作風を感じさせる美しい曲。賛歌のように歌い上げるコーラスが印象的。ドラムスは、セッションドラマーとして有名な、サイモン・フィリップス。ドラマチックな、ドラミングに注目。
カバー曲は、「We Got Love」(ベイビーフェイス)と「Careless Whisper」(ワム!)の2曲。「Careless Whisper」といえば、例のサックス・ソロだが、ここではブランドン・ウィリスが聴かせてくれる。いずれも有名曲のカバーで存在感があるが、オリジナル曲だけでトップ級の作品。

2018年8月20日 (月)

Steve Oliver 「Illuminate」(2018)

Soliver illuminateスティーヴ・オリバーの新作は、久しぶりのインストゥルメンタル作品。「World Citizen」(2012)の後、「Best of...so far」(2014)はベスト・アルバム(2曲の新曲入り)だったし、その後の「Pictures & Frames」(2016)は全曲が自身の歌声による、歌詞付きソング、いわゆる歌もののボーカル・アルバムだったので、新曲のインストゥルメンタル・アルバムとしては6年ぶりの新作だ。オリバーは、過去作品でも、必ず数曲はボーカル・ソングを入れていて、シンガーとしても「二刀流」の才能の持ち主。だが、今作はその歌ものを「封印」して、全11曲演奏オンリーの意欲作となった。内容も、文句なしのベスト級だ。
オリバーのトレード・マークである、色彩感豊かなギター・シンセや、ポップな歌詞無しヴォーカリーズ、などを多用したサウンドはいっそう磨きが掛かり、スピード感溢れるギター・フレージングも冴え渡る曲ばかり。サポート・ミュージシャンも巧者揃いで、隙のないグルーヴが堪能できる。特に、半数を占める曲で脇を固めている、ジミー・ハスリップ(ベース)、ジョエル・テイラー(ドラムス)、による鉄板のリズム隊は重量級。フィリピン出身のジャズ・ピアノ奏者タテン・カティンディグの流麗なフレージングも必聴。ゲストのサックス奏者も多彩で、ウェール・ラーソン、ネルソン・ランジェル、チェース・ウナ、ビリーレイ・シェパード、がそれぞれ曲により登場する。18才でデビューしたチェース・ウナはデビュー作「On The Chase」(2017)を、ビリーレイ・シェパードのデビュー作「Silk」(2017)を、それぞれオリバーがプロデュースを手掛けている。
1曲目「Full Tilt」は、スピード感のあるキャッチーな曲。サックスは、ウェール・ラーソン。オリバーの、ギターとヴォーカリーズの爽快感、これこそオリバーの「十八番」のような曲。アルバム・タイトル曲「Illuminate」も、爽快な曲想を奏でる流麗なギターと、リリカルなピアノが活躍する演奏。シングルになっている「Vamonosu」は、キャッチーなラテン調のハイライト曲。サックスは、チェース・ハナ。「Circles」は、コンテンポラリー・ジャズのアンサンブルが秀逸なベスト・トラック。ハスリップ、テイラーのリズム隊に、サックスはネルソン・ランジェル、ピアノはカティンディグ。オリバーのギターは、正統派のジャズ・アプローチを披露する。「Hidden Sun」も、オリバーに、ハスリップ、テイラー、カティンディグによる鉄板のアンサンブル。コンテンポラリー・ジャズの、リリカルでクールなグルーヴが聴くほどに味わいを感じる演奏。「City of Lightning」は、メランコリーなメロディの曲。ビリーレイ・シェパードのサックス、オリバーのアコギとヴォーカリーズ、がブレンドするサウンドが美しい。
前作「Pictures & Frames」は、全曲がボーカル曲だったので、まさかシンガーに「転身」かなと心配したけれど。今作品は、オリバーのギター奏者およびマルチなサウンド・クリエーターとしての実力を遺憾なく発揮した内容に、大安心。

2018年8月13日 (月)

Brian Simpson 「Something About You」(2018)

Bsimpson somethingaboutyouブライアン・シンプソンの新作。シャナキー・レコードと契約した最初のアルバム「South Beach」(2010)から数えて、同レーベルから早くも5作目の作品。通算では、8枚目のソロ作品。「South Beach」以前というと、デビュー・アルバム「Closer Still」(1995)の後、「It's All Good」(2005)、「Above the Clouds」(2007)と、12年の間にわずか3作品のリリースだったから、近年の意欲的なリリースは、嬉しい限りだ。この新作も、シンプソンのピアノ・スタイルを高めた素晴らしい内容。今や、彼がスムーズジャズの領域で、間違いなくトップ・アーティストであることを証明する作品だ。
前作「Persuasion」(2016)は、スティーヴ・オリバーとの共作が「新機軸」だったけれど、今作もそのオリバーとのコラボを進化させた作品。全10曲中、オリバーとの共作は7曲。オリバーは、ギターの演奏はしていないが、楽曲の共作と、プログラミング演奏、共同プロデュースで関与している。残り3曲は、これも常連のオリバー・ウェンデル(キーボード)をサポートに迎えての作品となっている。
タイトル曲「Something About You」は、キャッチーなメロディーの佳曲。コーラスを配した色彩感豊かなサウンドは、スティーヴ・オリバーの手腕。「タメた」ステップを踏むかのような、ピアノ・フレージングは、シンプソンならではの美しい演奏。「Morning Samba」は、サンバのリズムに乗って、踊るようなシンプソンのフレージングが心地良い。「Mojave」は、ゲストのギター奏者ヤーロン・レヴィーのアコースティック・ギターと、シンプソンのピアノとのインタープレイが聴きもので、フェード・アウトするのが残念。「Irresistible」はチルアウトなムードの曲で、こちらでもレヴィーがゲストで演奏している。フラメンコ・スタイルのギターと、シンプソンのメランコリーなフレージングに引き込まれる演奏。「Chemistry」は、ゲストのトランペット奏者ロン・キングとの「会話」がブルージーな演奏。ロン・キングは、最後の曲「The Rainbow」でも演奏していて、こちらはミュート奏法で、ジャージーなムードのバラード曲。
今作品は、シンプソンのピアノを際立たせて、統一したムードに彩られている。ほとんど全曲のサポート・ミュージシャンが共通しているのが要因だろう。ギター(Darrell Crooks)、ベース(Alex Al)、パーカッション(Ramon Yslas)による、サポート隊の「いい仕事」は必聴だ。ドラムスがいないというのも興味深いところ。プログラム系の音色が主体になっている曲でも、ベースのオーガニックなグルーヴ感が、「隠し味」のように印象的だ。

2018年8月 6日 (月)

Dave Muse 「Forgotten Journey」(2018)

Dmuse forgottenjourneyフルート奏者デイヴ・ミューズの「Firefall Revisited」は、彼が在籍していた「ファイアーフォール」時代の曲を再演して、ダイナミックなフルート演奏を披露した秀作だった。スタジオ録音のソロ作品としては、30年超ぶりという長いブランクを経ての3作目だったが、早くも、この新作がリリース。今回は、1曲のカバー演奏(レイ・チャールズの「Unchain My Heart」)を除いて、他全9曲はオリジナル曲で占められた意欲作。フルート演奏も、さらにパワーアップしたところを聴かせてくれる力作だ。プロデュースは、前作にも参加していた、キーボード奏者ロン・ラインハートとの共同制作。ほとんどの曲も、ミューズと共作している。ラインハートは、スムーズジャズ系のサポート・ミュージシャンで、リック・ブラウン、リチャード・エリオット、ピーター・ホワイトらと共演している。最近では、リック・ブラウンの「Around the Horn」のタイトル曲の共作者として、キーボード演奏でも参加していた。
タイトル曲の「Forgotten Journey」で始まる、パワフルなフルート演奏にガツンとやられるはずだ。ピアノのジャージーなフレージングや、タイトなリズム・セクション、アルバムを通して聴けるソリッドなアンサンブルが集約されたハイライト曲だ。「Over the Horizon」も、ラテン・ビートがヒート・アップするグルーヴがたまらない。「Love Will Find a Way」は、アコースティック・ピアノから始まるメランコリーなポップ・チューン。アンニュイな女性コーラスが美しい。「Que Sabor」は、ソロを取るギター奏者ジョージ・ガルシアという人の作曲。ホーン・セクションやピアノがファンキーな、ラテン・リズムの曲。エネルギッシュなフルートも印象的。「Twilight Delight」は、ファンクなダンシング・チューンで、ビートに乗るミューズのフルートが冴え渡る。
熱いラテン・ビートに、ポップなフレージングとグルーヴィーなアンサンブル。かつてのソフト・ロックのテイストも味わえる、素晴らしい作品だ。
ところで、ファイヤーフォールは、現在、全米で再結成ツアーを行っている。オリジナル・メンバーのマーク・アンデス(ベース)、ジョック・バートリー(ギター)と、もちろんデイヴ・ミューズも参加している。ファイヤーフォール名義としては久しぶりとなる、スタジオ録音のシングル「Nature's Way」もリリースしたばかり。その曲は、マーク・アンデスが、ファイヤーフォールの前に在籍したバンド「スピリット」時代の曲(オリジナルは1970年)の再演。ティモシー・B・シュミット(イーグルス)、ジョン・マクフィー(ドゥービーブラザーズ)も、レコーディングに客演している。ツアーでは、ファイアーフォール時代の曲に加えて、スピリット、マーシャル・タッカー・バンド(かつてミューズが在籍していた)のレパートリーも演奏しているという。もしかすると、アルバムをリリースするのかもしれない。

2018年7月29日 (日)

ポール・サイモンの音楽人生を振り返る必読の評伝、『Paul Simon : The Life』by Robert Hilburn(2018)

Psimon bookthelifeポール・サイモンは、今年の2月に、演奏ツアーからの「引退」を発表した。5月から始まった全米や欧州をまわるツアーは、「Homeward Bound - The Farewell Tour」と名付けられ、文字どうりの引退ツアーとなっている。大掛かりなツアーは辞めても、「小規模なパフォーマンス」や、レコーディングの音楽活動は続けるようで、安心だが。音楽活動は60年にも及び、色あせない名曲の数々と、華々しい実績を積み重ねてきて、今年には77歳を迎える。本書は、その引退表明に合わせたように、タイミング良く出版された、そのポール・サイモンの評伝である。その名曲の数々に魅了されて来たファンにとって、読む価値のある良書だ。

著者は、ポップス音楽評論家のロバート・ヒルバーン。ロサンゼルス・タイムズ紙で30年以上に渡り、ポップスの評論を担当したキャリアの持ち主。他に、ジョニー・キャッシュについての評伝などの著作がある。本書は、ポール自身が承諾したという、「公式」と言ってもいい評伝だ。著者による、ポール自身への直接インタビューは、3年間を費やし、信頼関係の上に書かれた労作である。加えて、家族や友人、関係者への取材や、膨大なメディア記録の掘り起こしを通して、冷静に事実関係に基づいて描いた著者のストーリーテリングに、引き込まれて読了した。

本書は、ポールの音楽キャリアを、少年時代から時系列に振り返ることで展開するが、著者の意図は、ポールの人間性を描き出すことにある。アート・ガーファンクルとの友情と確執、私生活での度重なる別れや離婚、常に求めてきた家族愛。商業的な成功に隠れた失敗の数々を通して、浮き彫りにする。生活や創作活動苦心しても、ポールの人生は「ソング・ライティング」を中心に回っている。著者は、ポールの名曲の歌詞のいくつかを、効果的に文中に挿入する。その詩的で文学的な歌詞は、まるで私小説のようで、その時々のポールの心象風景であることを、再認識させてくれる。

ポールは、10代から音楽ビジネスに携わってきた。父親のルー・サイモンは、プロのベース奏者であった。「ヘイ、スクールガール」(58年)を発売する際の契約は、ポールとアートが未成年でもあったから、ルーが交渉に当たり、レコーディングでは自らベースを弾いている。10代から音楽ビジネスについて多くのことを学んだ事は、ポールの音楽キャリアの礎になっている。ポールは早くから自分の楽曲のロイヤリティや権利を獲得する契約を結んでいたという。50年代から60年代の音楽業界では稀なことで、その時代では「先駆的なソングライター」でもあった。このエピソードは、お金への執着心というより、自分の楽曲に対する愛情と、ビジネスセンスを表して、印象的だ。その後も、ポールは、音楽の追求と同様に、アルバムのセールスやコンサートの収益にも専心した。大手レーベルのコロンビアから、ワーナー・ブラザースに移籍後、不発の作品が続いた時には、音楽的な評価より「必ずセールスの挽回をしてみせる」と経営陣に約束したという。音楽的な関心はまだしも、セールスまでに責任を表明するようなアーティストは、当時は「稀有な」存在であった。ポールは、偉大な音楽家であると同時に、音楽ビジネスのプロフェッショナルなのだ。

ポールは、「時の流れに」(75年)や、「グレースランド」(86年)など、いずれもグラミー賞受賞に輝き、セールスにおいても大成功を収める。アフリカやブラジル音楽を取り入れた手法は、革新的な功績である。そんな輝かしい業績や名声に隠れて、いくつかの失敗的な局面や、批判に曝された出来事も本書は丁寧に描いている。ポールが主演して作った映画「ワントリック・ポニー」(80年)。サイモン&ガーファンクルの復活作となるはずが、最終的にポールの意思でソロ作品としてリリースした「ハーツ・アンド・ボーンズ」(83年)。いずれも、業界評価や商業的には、失敗となった作品だ。南アフリカのミュージシャンを登用して作った「グレースランド」も、当時、アパルトヘイト政策の南アフリカ政府の支援に繋がると誤解を招き、音楽以外の世論から非難されたりもした。ポール自身が私費まで投じたブロードウェイ・ミュージカルの「ケープマン」(97年)に至っては、大酷評を受けて、わずか3ヶ月で打切りとなった。業界の酷評に気を病み、築いた名声を心配して、新たな曲作りのスランプに落ちいるなどのエピソードは、ポールの人間性を浮き彫りにする、読みどころになっている。

アート・ガーファンクルとの「関係」も、それ無くしてポールの人生は語れない。2人の関係に「確執」があることは、以前から周知のことである。2人が16才でデビューした「トム&ジェリー」の時から、その「確執」は始まっていたと、著者は明かす。「トム&ジェリー」と並行して、ポールは「トゥルー・テイラー」という芸名で、ソロ・デビューするのだが、そのことを、アートは裏切りと受け取ったという。後年、アートが俳優として映画出演に傾倒することで、「サイモンとガーファンクル」の解散に繋がり、何度かの再結成でも、周囲は2人の関係に「危険な状況」を見ていたという。とは言え、70才に至るまで、何度となく、2人は再結成してステージに立っているのだが。そんな出来事の繰り返しは、確執といっても、「友人」であるからこその、少年同志のナイーブな「関係性」を感じてしまうのだが。

「彼がたとえ作曲に興味を無くすことになったとしても、作曲の方がいつも彼に興味を持っている。」ポールの友人トーマス・フリードマンの言葉を、著者は記している。ポール・サイモンの、ソング・ライターとしてのレゾンデートルを言い得て妙である。

さて、ポールは、新作のスタジオアルバム「In The Blue Light」を、9月にリリースする予定だ。過去の楽曲を、新しいアプローチで録り直した作品だという。本書の読了後だから、なおさらに余韻を味わってその新作を聴きたい。

«Rob Zinn 「Walk The Walk」(2018)

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  • スムーズジャズは、最高のコンテンポラリーミュージック。ググっとくるアーティストのバイブレーションを、リアルタイムで聴きたい。独断で選んだスムース系の新譜を紹介します。Since 2011。UGASAI
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2015 Top Recommend (click)

  • Bob Boldwin「MelloWonder」
  • Brian Simpson 「Out of a Dream」
  • Jonathan Fritzen 「Fritzenized」

2014 Top Recommend (click )

  • Greg Manning 「Dance With You」
  • Rick Braun 「Can You Feel It」
  • Michael Lington 「Soul Appeal」
  • Ed Barker 「Simple Truth」

2013 Top Recommend (click)

  • Jeff Golub 「Train Keeps a Rolling」
  • Oli Silk 「Razor Sharp Brit」
  • Patrick Yandall 「Soul Grind」
  • Boney James 「The Beat」

2012 Top Recommend (click)

  • Euge Groove 「House of Groove」
  • Paul Brown 「The Funky Joint」
  • Chris Standring 「Electric Wonderland」
  • Vincent Ingala 「Can't Stop Now」
  • Phil Denny 「Crossover」