カテゴリー「ボーカル」の記事

2017年1月29日 (日)

Rumer 「This Girl's In Love」(2016)

Rumerbacharach

ルーマーの新作は、バート・バカラックとハル・デヴィッド作品のカバー集。ルーマーの繊細な歌声はもちろん、オーケストレーションの世界観に魅了される秀作。オーケストレーションとプロデュースは、ロブ・シアックバリの手による。シアックバリは、ディオンヌ・ワーウィックのプロデューサーや、バカラック自身のバンドのアレンジャーやキーボード奏者を務めた人。ルーマーとは、「Into Colour」(2014)、「B-Sides & Rarities」(2015)に続くプロデュース作品。ルーマーのパートナーでもある。シアックバリこそ、バカラック・サウンドを知り尽くした現代の表現者だろう。弦や管の情緒的なオーケストレーションは、バカラックの黄金時代を蘇らせる王道のポップス・オーケストラ。アレンジの中核となるのは、しっとりとしたピアノ演奏で、M1「The Look of Love」や、M7「Land of Make Believe」などで聞けるピアノ・フレーズが印象に残る。取り上げている曲のオリジナルは、ほとんどがディオンヌ・ワーウィックが60年代後半に歌った曲。M2「The Balance Of Nature」、M9「Walk On By」などのワーウィックの名唄曲も、ルーマーの透明感ある歌声で新鮮な趣き。ルーマーは、カレン・カーペンターの再来とも評価されるけれど、M5「Close To You」のスローなテンポで丁寧に歌い込む歌声は、カレンとは重ならない。落ち着いたピアノの演奏と相まって、ルーマーらしい名唄のベスト・チューン。アルバムを通して統一感のあるサウンドと、ルーマーのささやくような歌声をリアルに記録した録音も素晴らしい。

2016年8月27日 (土)

Stephen Bishop 「blueprint」(2016)

Blueprint

スティーヴン・ビショップの前作「Be Here Then」(2014)は、企画盤などを除けばおよそ20年ぶりのスタジオ作品で、長いこと待たされたファンとしては狂喜のカムバックだった。その後も、新録ライブ作品「Stephen Bishop Live」や、1989年の作品「Bowling in Paris」の再編リマスター盤の再発、アンドリュー・ゴールドの作品カバー「Thank You for Being a Friend」など、あの長い沈黙を忘れるような、積極的なリリースが続いて嬉しい限り。そしてこの新作フルアルバム「blueprint」も、スティーヴン・ビショップらしいナイーヴな歌声と楽曲の並んだ珠玉の作品集。収められたほとんどの楽曲は、以前にデモ集などで発表していたもので、今回すべて新たなアレンジで新録音されている。アルバムタイトルは、かつての「青写真=Blueprint」の作品集というわけ。旧作品といっても、初期の作品だろう、かつての名曲を思い起こして、聴き込むごとに愛着の深まる佳作が並んでいる。M3「Ultralove」は、ナイーヴなメロディーがヒット性を感じるバラード。少し不安定にも聞こえるファルセットの歌声も、これもビショップらしい曲。M10「Someone Like You」も、かつての名曲「Looking for the Right One」を思わせる、切なく美しいバラード。同様に、M7「Before Nightfall」や、M12「Blue Window」など、傾向としては、「おはこ」のラブ・バラードだけれど、聴くたびに心をつかまれる珠玉の楽曲。注目は、M9「Holy Mother」で、エリック・クラプトンとの共作品。オリジナルはクラプトンの「August」(1986)に収録されている。この曲は、オペラ歌手ルチアーノ・パヴァロッティが、クラプトンを迎えて1996年のコンサート「War Child」で歌ったことでも有名。ビショップ自演の録音はこのトラックが初出のはず。クラプトンや、パヴァロッティのバージョンはゴスペルのクラッシックのようだけれど、ビショップが歌うと彼らしいメロディーラインが際立って、この曲はやっぱりスティーヴン・ビショップの作品だと再認識。同様に、珍しいトラックは、60年代オールディーズをカバーしたM1「everyone’s gone to the moon」。オリジナルは、ジョナサン・キングの1965年のヒット曲。ビショップのオリジナル曲のようにも聴こえて、彼の原点なのかな。最後に、アップテンポに編曲された、おなじみの「It Might Be You」も入っているけれど、このヒット曲さえ、少し違和感を感じるぐらい、他の12曲で充実している作品。

2016年4月17日 (日)

Thierry Condor 「So Close」(2016)

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ティエリー・コンドルの新作は、前作「Stuff Like That」の続編と言ってもいい、もろに、80年代の西海岸サウンドの秀作。前作でも感激したけれど、コンドルの中性的なボーカルといい、懐かしいサウンドといい、AORファンなら歓喜するに違いない。幾つかのカバー曲では、TOTOやシカゴなど、あの頃のAORサウンドを思い起こす懐かしさはもちろん。それ以上に、何とも新しさを感じるグッド・ミュージック。前作同様、プロデュースはウーズ・ウィーゼンダンガーで、この作品のサウンド・クオリティの高さは、彼によるもの。コンドルともに、スイスで活動していて、この作品が作られたというのも興味深い。 M1「Heart to Heart」は、おなじみケニー・ロギンスのヒット曲。これぞAORのクラシックと言っていい名曲。コンドルの爽快な歌声がかっこいい。 M3「Deeper Than The Night」は、オリビア・ニュートン・ジョンが歌った邦題「愛の炎」。コンドルが歌えば、最高にキャッチーなAORチューン。フュージョンファンには懐かしい、聴いたらすぐに分かるサックス奏者のトム・スコットの演奏が聴けるのも涙もの。M8「So Close」は、ディズニー映画「Enchanted(魔法にかけられて)」の挿入歌のカバー。コンドルの魅力的なボーカルと、TOTOを彷彿とするサウンドが最高。M9「Music Prayer For Peace」は、オリジナルはアーニー・ワッツの曲で、クインシー・ジョーンズがプロデュースしたアルバム「Musican」(1985)に入っているフュージョンの名曲。オリジナルのボーカルはフィル・ペリーだった。コンドルのカバー・バージョンは、彼のボーカルに加えて、Gサックスのサックス客演がかっこいい必聴曲。その他、オリジナルらしい、M3「Love Will Rise and Fall」、M6「Hard To Say Goodbye」にしても、まるでAORのクラシック曲のようだ。収録曲12曲(1曲はバージョン違い)、すべての曲を聴けば、コンドルのボーカルと、AORの色褪せない魅力に感激するすばらしい作品。

2015年6月20日 (土)

Shaun Escoffery 「In the Red Room」(2014)

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今年のグラミー賞で最優秀新人賞他3部門を受賞した話題のシンガーといえば、サム・スミス。新人ながら、楽曲といい、歌唱力といい、評価に値する素晴らしいアーティスト。サム・スミスもいいけれど、一方で、あまり、日本のメディアでは、取り上げられないアーティスト、同じ英国のシンガー、ショウン・エスコフェリーを紹介したい。ファルセットを多用した歌い方に共通点はあるけれど、ショウンはキャリア豊富な、骨太のソウル・シンガー。マーヴィン・ゲイを彷彿する、伝統的なソウル・シンガーの継承者。彼の、7年振りの新作「In the Red Room」は、ノリのいいダンス・ミュージックにあらず、チャートを賑わすポップス路線でもないけれど、メッセージと歌のパワーが振動する素晴らしい作品。M1「Nature’s Call」、M2「Perfect Love Affair」、M3「Nobody Knows」、M6「People」、と並ぶキャッチーな佳曲が特に素晴らしい。M7「Do U Remember」やM12「By Your Side」のゴスペル・ムードの曲では、まさにマーヴィン・ゲイを思わせる。M11「Get Over」は、ビートフルなR&Bナンバーで、終始聞かせてくれるファルセット・ボーカルに圧倒されて、サム・スミスとの比較なんて、申し訳ない。

2015年4月12日 (日)

Diana Krall 「Wallflower」(2015)

Krall

多方面で絶賛されている、ダイアナ・クラールの新作。70年代中心のヒット・ポップスを歌ったカバー集で、選曲もいいし、デヴィッド・フォスターのアレンジ、クラールのボーカル、と3拍子が揃った素晴らしい内容の秀作。何といっても、フォスターのオーケストレーションが素晴らしい。個性の強い名曲のオリジナル・バージョンのムードをそのままに、ストリング中心のオーケストレーションで表現したアレンジメントはまるでマジックのよう。10CCの名曲「I’m Not In Love」は、オリジナルの「シート・オブ・サウンド」が、ストリングスやピアノで表現されて、かつ室内楽のような品位もある解釈で仕上げた感動のバージョン。クラールのボーカルは、低音の魅力が輝いている。スローテンポでストリングスをバックに歌う「Superstar」は鳥肌ものだし、「Don’t Dream It’s Over」の囁くような低音の導入部、「I Can’t Tell You Why」のハスキーな歌い方、それぞれほとんどフェイクせずにオリジナルメロディーを忠実に歌うところも、かえって枯れたところも持ち合わせた、巧者なヴォーカリストであることを聴かせてくれる。取り上げている選曲もいい。イーグルスに、ギルバート・オサリバン、ジム・クロウチ、エルトン・ジョン、ボブ・ディラン、カーペンターズに、なんとクラウデッド・ハウスと来るんだから、もう涙もの。ベビーブーマーが青春時代を過ごした黄金ポップスで、久しぶりに出会った旧友ような懐かしさと感傷を、思わずにいられない。クラールも、1964年生まれだから、リアル・タイムに思い出のある曲の数々なのかもしれない。クラールは、「When I Look In Your Eyes」(1999)や、大ヒットした「The Look of Love」(2001)、傑作ライブ盤「Live In Paris」(2001)など、スタンダードを歌う、正統派ジャズ・ボーカリストだし、ピアニストとしても巧者。今回のポップス・カバー集は、意外な企画のようだけれど、実は、クラールは以前から、同時代ポップスをカバーしていて、それぞれ光った録音を残している。「Live In Paris」(2002)では、弾き語りで歌ったアンコール曲、彼女の同郷カナダ出身のジョニ・ミッチェルの「A Case of You」が何といっても素晴らしい。同じアルバムの最後に入っている、この曲だけがスタジオ録音の、ビリー・ジョエルの「素顔のままで(Just the Way You Are)」は、マイケル・ブレッカーのサックス演奏も必聴の素晴らしいカバー。「Quiet Nights」(2009)では、ビー・ジーズの「傷心の日々(How Can You Mend a Broken Heart)」と、ディオンヌ・ワーウィックで有名な「Walk On By」。クラールがエルヴィス・コステロと結婚した後に作った、「The Girl in the Other Room」(2004)には、ジョニ・ミッチェルの「Black Crow」、トム・ウェイツの「Temptation」、コステロの「Almost Blue」。その7曲を集めたら、”Another Wallflower”といった趣の、いいコンピレーションになるはず。ところで、今回の作品に、ポール・マッカートニーの未発表曲「If I Take You Home Tonight」が収録されていて、話題だけれど、クラールは以前に、ポールと共演している縁があってのことだろう。ポール・マッカートニーが、ジャズ・スタンダードをカバーした「Kisses on the Bottom」(2012)では、クラールと彼女のバンドが録音に参加していたから。ポールはそのアルバム用に3曲を書き下ろして録音したらしい。その時のアウト・テイクがこの曲。マッカートニーの曲というだけで話題だけれど、個人的には、他のカバー作品の方が秀逸だ。今度は、クラールのピアノ演奏をフューチャーして、スムーズ・ジャズの作品を作って欲しいなあ。

2014年12月14日 (日)

Eric Nolan 「Mood Swing」(2014)

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スムーズ・ジャズではないけれど、最近ハマっているのが、このエリック・ノーランの新作。エリック・ノーランは、フルネームをエリック・ノーラン・グラント、1995年からオージェイズのメンバー。そもそもオージェイズは、1958年結成のグループで、オリジナル・メンバーはエディ・レヴァートとウォルター・ウィリアムズ、の二人。長い変遷を経て、メンバーもかなり変わっているけれど、今は、そのオリジナル・メンバーの二人(二人とも70歳!)と、ノーランで現役活動しているらしい。そのノーランの新作ソロ・アルバムがこれ。オージェイズを形容したらいいのか、オールド・スクールなソウル・ボーカルの秀作。サウンドを作っているプレイヤーやバックグラウンドはわからないけれど、ノーランのスウィートなボーカルは若々しいし、なんともスムーズなムード。オールド・スクール的なソウルだけれど、最高に心地いい好盤。ハイライトは、7分に及ぶM1「Do My Thang」。ソウル・パーティーのようなクールなMCの始まり、ファンキーなコーラスやサウンドをバックに歌う、ノーランのボーカルがかっこいい。7分があっと言う間のヴァイブレーション。この曲だけでも、スムーズ・ジャズ・ファンに聞いてほしい。M2「Reminds Me」も、スウィート・ソウルな秀曲。どこか懐かしくて、新しい、美メロのボーカルにうっとりします。M8「Give Her Your Love」は、オージェイズのウオルター・ウィリアムズがゲストでデュエットした曲。少しかすれた声のほうが、ウィリアムズ。古さなんて感じない、なんともスウィートなソウル・コーラス。M9「When You Cry」は、バラード曲。何十年も歌ってきたキャリアで、ナチュラルに歌いこなすファルセット・ボーカルが、いやあ、たまりません。

2014年2月23日 (日)

Lisa Stansfield 「Seven」(2014)

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リサ・スタンスフィールドといえば、最大のヒット曲「All Around the World」(1989)が印象的で、その後も聴き続けている訳ではないけれど、彼女のようなUK出身の「ブルーアイド・ソウル」のシンガーがなぜか好みである。90年代のディスコブームでは、日本でもかなり人気があって、それ以降、女優もしていたようだが、作品もしばらく出てなかったのでニュースも伝わってこなかった。忘れた頃に久しぶりにこの嬉しい新作。アルバムとしては、前作「The Moment」(2004)以来、およそ10年振り、オリジナル作品としては7枚目の新作で、タイトルも「Seven」。 先行シングルで出ていたM1「Can’t Dance」は、90年代を思わせるちょっとレトロなディスコ調チューン。ピッキング・ギターや、タイトなドラムス、ブラス・セクションのサウンドが、どこかマイケル・ジャクソンを思わせてかっこいい。そのはず、この曲のドラムスは、マイケルの作品で叩いていたジョン・ロビンソン(!)。M7「The Rain」や、M8「Conversation」はストリングスが入る劇場型の曲だが、スタンスフィールドの唄い方は、ちょっとオーバー・パワーで聞き苦しい。この人は、やっぱりR&Bビートのダンスチューンが似合う。M9「Carry On」は、ストリングが入った、ちょっとモータウンっぽい、ヒット性のキャッチーな曲で、スタンスフィールドの「復活」にふさわしいガツンとくる作品。M10「Love Can」も、アシッドなテイストのメロディーと、ストリングの組み合わせがクールなアレンジで、力を抜いたスタンスフィールドの歌がアルバム中一番ファンキーな曲。プロデュースは、スタンスフィールドの夫のイアン・デヴェニーで、曲もほとんどをスタンスフィールドと共作。パワフルなストリングスを取り入れながら、ソウルでファンキーなサウンドは豪華だし、久しぶりのスタンスフィールドの歌もブランクを感じない。今の歌姫アデルの成功に刺激されたのかな、アデルの生まれた年(1988)のすぐ次の年に、スタンスフィールドがデビューアルバム「Affection」をリリースしているわけで、比べたら失礼だね。

2014年1月26日 (日)

Stephen Bishop 「Be Here Then」(2014)

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スティーヴン・ビショップの新作は、スタジオ録音のフルアルバムとしては7年振り。といっても、前作「Romance In Rio」(2008)は、「On And On」などのセルフカバーをボサノバ風にまとめた企画盤だったし、その前の作品「Yardwork」(2003)も、アンプラグドなセルフカバー集だった。その2作を除くと、「Blue Guitars」(1994)以来の、およそ20年振りの新曲フルアルバムということになる。デビュー・アルバム「Careless」(1976)から、「Bish」(1978)、「Red Cab to Manhattan」(1980)の3作品は、AORの名作といってもいいぐらいの、すばらしい作品だった。その後、映画「トッツイー」の主題歌「It Might Be You」(1983)が大ヒット(この作品は彼の作品ではなく、デイヴ・グルーシンの作曲。でも、ビショップ自身、最大のヒット曲)。映画「ホワイト・ナイツ」の挿入唄で、フィル・コリンズとマリリン・マーティンが唄った「Separate Lives」(1986)はビショップの書き下ろしのすばらしい曲だった。その後、数枚のアルバムや、デモ集やライブ盤など、セルフカバー集など、出していたけれど、90年代からはこれといった作品も見られなかった。メジャーレーベルとの契約の問題や、失恋などがあったとか、の話は伝わってきたけれど、ついぞ長いことフルアフバムが出なかった。この新作は、メジャーレーベルからではなく、自己のレーベルから出した、インディーズ作品。音楽業界のことは分からないが、いろいろあっての作品なんだろう。ビショップの作品は、ほとんどがラヴソング。ポップで明るい曲、「On and On」や、「Save It for a Rainy Day」「Everybody Need Love」「Send A Little Love My Way」などは、そういったポップ路線の名曲。方や、ナイーヴな心情を唄ったバラードがこの人の真骨頂で、アート・ガーファンクルが唄った「Looking For The Right One」や、「Red Cab To Manhattan」、「Madge」、「Separate Lives」などこそ名曲中の名曲。この新作でも、久しぶりのビショップの唄声は、さすがに少し年をとったかな、くぐもった感じがするけれど、昔と変わらない。とびきりのヒット曲になりそうな曲はないが、いずれも聴くごとに味の出る珠玉の10曲。やっぱりこの人はバラードで、M6「Vacant」は、それこそガーファンクルに唄ってもらいたい佳作だし、M9「Loveless」、M10「Love Is You」も、ビショップの過去のバラード作品を思わせるいい曲。M4「Make It Last」、M5「Promise Me the World」、M2「Rescue You」は、2003年のデモ集や、「Yardwork」に入っていた曲で、この新作で形を整えての発表だ。ビショップも62才だけど、これからもっと新曲を出して欲しいなあ。

2014年1月 1日 (水)

Thierry Condor 「Stuff Like That」(2013)

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スイスのシンガー、ティエリー・コンドルの新作は、80年代の西海岸ポップスをオマージュした、あの時代を彷彿とする作品だ。最近は、新しいAORもあまり聴けなくなったからといって、ノスタルジックというのではなく、このアルバムは生き生きとしたサウンドで、ピュアなAORなのが驚きであり嬉しい。なにしろ、コンドルのボーカルが、中性的というか、ちょっと女性的で、透明感のある中高音も伸び良くて、これは、AORにピッタリの声で、唄もうまい。ジャケットのフツーのオジさん風貌から(失礼)は、意外だけれど。プロデューサーは、ウーズ・ウィーゼンダンガーという人で、デイブ・コーズやジェフ・ローバーとも共演している人で、この作品のクオリティの高さは彼の手腕によるものだろう。全12曲のほとんどが、80年代90年代のカバーで、選曲は隠れた名曲も並んでなかなかニクい。AORファンなら、歓喜するに違いない。

M1.「Blue Looks Good On You」
ソング・ライター、トム・スノウの作品。未発表曲なのか、新曲なのか、いい曲。のっけから、TOTOあたりを彷彿とする西海岸サウンドで、ワクワクする。
M2.「Lucky Man」
デイブ・コーズのアルバム「Luck Man」(1993)収録曲。オリジナルのボーカルは、チャールズ・ペティグリュー。プロデューサーのウィーゼンダンガーは、コーズのアルバム「The Dance」(1999)にゲストで参加している。
M3.「Lazy Nina」
グレッグ・フィリンゲインズのアルバム「Pulse」(1984)に入っている曲。ドナルド・フェイゲンの作品だが、スティーリー・ダンか、フェイゲンのバージョンは無いようだ。
M4.「Memories」
ライターのクレジットは、デイヴィッド・バトウ、ドナルド・J・フリーマン。 ザ・テンプテーションズ「A Song for You」(1975)収録に同名曲があり、ライターも同じなのだが、このアルバムのこの曲は違うように聴こえるのだが(?)。演奏に、ジェイ・グレイドン(ギター)が参加していて、ギターもコーラスも、80年代のウェストコースト・ソフト・ロック。
M5.「Where is the love」
オリジナルは、ラルフ・マクドナルドのアルバム「Sound Of A Drum」(1976)に入っている、バカラックを思わせる名曲。マクドナルドはパーカッション奏者だけれど、なんといっても、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの「Just the Two of Us」を共作した人で、素晴らしいメロディー・メーカー。
M6.「Lonely Weekend」
イエロー・ジャケッツの「Samurai Samba」(1985)収録曲。ボビー・コールドウェルがボーカル。
M7.「If I Could Hold On To Love」
ケニー・ロジャースが、アルバム「They Don’t Make Them Like They Used To」(1986)で唄った、スティーブ・ルカサーとランディ・グッドラムの共作。TOTOを思い出してしまう、美しいバラード。
M8.「All I Know」
ライター・クレジットは、スコット・クロスと、ピーター・ロバーツ。先行シングルで出ていた曲。コンドルのオリジナルかな?スコット・クロスは、ボビー・コールドウェルの「Stuck On You」や、「Cry」「Without You」など、コードウェルと共作が多い。この曲も、ボビー・コールドウェル風の都会的バラード。コールドウェルより、透明感のあるボーカルがいいなあ。
M9.「Lite Me Up」
ハービー・ハンコックの「Lite Me Up」(1982)のタイトル曲。ロッド・テンパートンが唄った。
M10.「We Will Dance」
クリスチャン・ミュージック・シンガー、スティーブン・カーティス・チャップマンのアルバム「All About Love」(2003)に入っている曲。チャップマンの自作曲。イエロージャケッツのラッセル・フェランテのピアノだけで唄う美しいバラード。
M11.「Is It You」
リー・リトナーの「Rit」(1981)に入っている、エリック・タッグが唄ったAORの隠れた名曲。
M12.「Malibu」
この曲もリー・リトナー。リトナーのアルバム「Color Rit」(1989)で、フィル・ペリーが唄った曲。

2013年12月 8日 (日)

Jamie Cullum 「Momentum」(2013)

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ジェイミー・カラムは、ブルー・アイド・ソウルなその唄声が魅力だし、ピアノ・マンとして、ビーバップやスウィングも弾きこなすピアノ・プレイも大きな魅力。ポップな曲もやれば、ジャズのコンボからビック・バンドまでこなしてしまうクロスオーバーなアーティスト。小柄で少年のような風貌は、見る度に、マイケル・J・フォックスを思い出してしまう。ずっと追いかけている訳ではないけれど、「Everlasting Love」(2004)や、「Mind Trick」(2005)の、ポップなヒット曲はヘビー・ローテーションだったし、映画「グラントリノ」の主題歌の、ピアノ弾き語りのソウルフルなバラードも感動的だった。「Twentysomething」(2004)のように、ジャズやR&Bを下敷きにした、アダルトオリエンテッドで、ボーカルに加えて、たっぷりジャージーなピアノも披露してくれるのがこの人の持ち味、というのが個人的な評価。さて、この6枚目のアルバムは4年ぶりの新作。もう、固定的なジャズ路線から大きく飛躍して、音楽性バラエティな曲が満載で、この人の才能の大きさを感じるアルバムだ。のっけから、ポップス路線で始まるM1「The Same Things」や、続くM2「Edge of Something」は、マイナーなメロディーやアレンジと、ソウルフルなボーカルが、どこか、あのアデルを思い出してしまうのは、「ねらい」なのかな。実際、プロデューサーに、アデルの「19」を手がけたジム・アビスが参加している。M3「Everything You Didn’t Do」も、ドウ・ワップを新しく解釈したような曲調で、これもヒットねらいかな。UKラッパーのルーツ・マヌーヴァをゲストに迎えたM5「Love For $sle」は、新境地のヒップな曲だが、ジェイミーのエレキ・ピアノのアドリブに耳が引きつけられる。M6「Pure Imagination」は、「グラントリノ」のような雰囲気を持った曲で、個人的にはこういう曲が、ジェイミーの魅力だと感じられて、このアルバムの中でも光っている曲。彼のピアノも美しいベスト・トラック。M10「Save Your Soul」も、同様のムードを持った佳曲だし、最後の曲M12「You’re Not the Only One」は、ビリー・ジョエルのような、ドラマティックな雰囲気のポップ・チューンだ。その2曲は、傑作「Mind Trick」を共作した兄弟のベン・カラムとの共作。いつか、ピアノ・トリオのジャズ・アルバムを作って欲しいなあ。

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