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2015年3月の記事

2015年3月29日 (日)

Kirk Whalum 「The Gospel According to Jazz, Chapter IV」(2015)

Gospel

カーク・ウェイラムの、ゴスペル・プロジェクトは「The Gospel According To Jazz」(1998)を始まりに、同じタイトルを名付けた「Chapter 2」(2002)、「Chapter 3」(2010)と継続的に作品をリリースしていて、これが新作でCD2枚分のライブ盤。「Chapter 3」収録の「It’s What I Do」(カーク・ウェイラム共作)は、2011年のグラミー賞ベスト・ゴスペル・ソングに選ばれている。かくも評価が高く、彼のライフワークのようなこのゴスペル・プロジェクトは、そもそもウェイラムの父親は牧師だったという家庭に育ったことに関係しているのだろう。ウェイラムは今やスムーズジャズ界でもビッグネーム。でも、本人は、「インストゥルメンタル・ポップスやR&Bでやっていることは楽しいけれど、それはやりたいことの60%。この(ゴスペル・プロジェクト)演奏ではやりたいことを大胆にやっている。」というようなコメントをしている。ゴスペルと名付けられているけれど、壇上のコーラスで高揚させるようなステレオタイプのそれとは違う。ストレートなジャズもあり、コンテンポラリー・ジャズ、R&B、ポップスと、広範囲なスタイルを、グルーヴのあるバンドを従えたウェイラムの音楽性が感動的なパフォーマンス。ウェイラム自ら語る、コルトレーンや、ジョージ・デューク、ネルソン・マンデラ、それぞれについてのMCも、宗教的なものではなくて、彼の想いが伝わり微笑ましい。ラテン・リズムのM13「Un Amor Supremo」や、4ビート・モード・スタイルのM15「Triage」は、ウェイラムとバンドの奔放なインプロビゼーションが聴き物のストレートなジャズで、彼の最もジャズ的な音楽性が聴ける。スムーズ・ジャズ・ファンとして注目なのは、M18「Sunday’s Best」で、BWB名義での、ノーマン・ブラウンとリック・ブラウンをフューチャーしての演奏。曲は、名ベーシストの故ウェイマン・ティスデイルの作品のカバー(オリジナルは、ティスデイルの「Way Up!」収録曲で、ウェイラム自身も客演していた)。ポップス的な側面も堪能できるのは、名曲のカバー演奏。M2「Let’Em In」は、ご存知、ポール・マッカートニー&ウィングスの「幸せのノック」。ボーカルは弟のケビン・ウェイラムで、彼のスキャットが素晴らしい。M3「Keep On Pushing」はカーティス・メイフィールド。M28「Love Is the Answer」は、トッド・ラングレンの名曲(イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーのバージョンも有名)。ハートに来る演奏は、M8「There」で、ウェイラムが故ジョージ・デュークに捧げた美しいコーラス曲。デュークは、ウェイラムのゴスペル・プロジェクトに始まりから参加していたそうで、思い出を語るMCと、ウェイラムのサックスが切ない。映像作品(DVD)もあるようで、ぜひ観てみたい。

2015年3月26日 (木)

Bickley Rivera 「Breaking the Mold」(2015)

Rivera

スティールパン(もしくはスティールドラム)は、トリニダード・トバゴ共和国の国民楽器。その音色を聴いただけで、カリヴ海に行ったような気分になる。民族楽器の枠を超えて、ジャズやポップスでもポピュラーな楽器で、アーティストも多い。ポップスでは、ビーチボーイズの「Kokomo」(1988)はスティールパンが効果的な名曲の一曲だった。ジャズ界では、モダンジャズのスティールパン奏者ルディー・スミスという人や、フュージョン系ではアンディ・ナレルが有名プレイヤー。パーカション奏者のラルフ・マクドナルドも、トリニダード出身のドラマーであった父親からスティールパンを手ほどきを受けたのがキャリアの始まりという。そのラルフ・マクドナルドが曲作りに関わったグローヴァー・ワシントン・ジュニアの「Just the Two of Us」(1980)は、スティールパン演奏がフューチャーされた名曲。その曲でのスティールパン・プレイヤーはロバート・グリニッジという人で、ラルフ・マクドナルドのソロアルバム「Sound of a Drum」(1976)で、グローヴァーと一緒に客演していた人。さて、そのスティールパンの新鋭女性プレイヤー、ビックレイ・リヴェラの新作がこれ。プロデュースがスティーヴ・オリバーで、参加アーティストは、ウィル・ドナート、トム・シューマン(スパイロ・ジャイラ)、そしてアンディ・ナレルら、スムーズジャズ・アーティストが固めている。スティールパンは、音色だけでカリビアンという感じがいいところでもあり、でも時には鼻に付くところもあるかな。この作品は、そのスティールパンで、あまりカリビアン臭がしない、コンテンポラリーなスムーズジャズのスタイルになったユニークな秀作。M1「Let’s Kick It」は、サックス(ウィル・ドナートかな)とコーラスがフューチャーされたキャッチーなベスト・ソング。M3「Morning Dance」は、ご存知、スパイロ・ジャイラの名曲のカバー演奏で、スティールパンはクールなところが特色。クレジットは無いけれど、エレピはもちろんトム・シューマンだろう。M2「Latin Ride」の曲想とギターは、これは聴いたら分かる、間違いなくスティーヴ・オリバー。ちょっとマイナーなメロディーを、スティールパンで奏でるところが、この作品のオリジナリティなところ。M5「Cool Like Dat」や、M6「Emerald Flow」も同様に、クールでチルアウトな曲想と、スティールパンの組み合わせがなかなかの妙。作品タイトルの「こころ」は、そんな意味かな。

2015年3月23日 (月)

Kenny G 「Brazilian Nights」(2015)

Kennyg ケニーGの新作は、ボサノバ作品集。心地よいサウンドはいつも通りだけれど、実は、意欲的な内容なので注目。まず、ボサノバ作品集というのも、ケニーにとっては初めての企画らしい。ボサノバの名曲カバー曲が5曲、加えて、その名曲に劣らず秀作なオリジナルが5曲。ソプラノ・サックスがケニーのトレードマークだけれど、この作品では、ソプラノは2曲だけ。残りは、テナーとアルトを吹いていて、サックス奏者としての力量を発揮している。カバー曲は、ポール・デスモンド、キャノンボール・アダレイ、スタン・ゲッツ、といった60年代のサックス奏者のジャイアンツの名演5曲を取り上げている。いずれも名作の「ボサノバ集」を残した巨匠だから、ジャズ・サックス奏者にとっては、「ボサノバ集」というのが、ひとつの「勲章」なのかもしれない。「ボーカルとの共演」や、「ストリングスとの共演」というのも、「名作」が多いから、いずれケニーもチャレンジするかな。そんなサックスのヴァチュオーゾ達と、その名盤へのオマージュを込めて、そして、ケニー自身のサックス奏者としての意欲をあらわす作品となっている。M1「Bossa Antigua」は、ポール・デスモンドの同名アルバム(1964)から。ケニーは、デスモンドと同じアルトを吹いての演奏。キーを高くしているのかな、ケニーはデスモンドより抜けのいい音色で爽快な演奏。でも、曲の構成は、デスモンドのオリジナルそのままの感じ。M2「Corcovado」とM8「Clouds」は、キャノンボール・アダレイの「Cannonball's Bossa Nova」(1962)での演奏が、これも下敷きになっていて、ケニーはキャノンボールに倣ってテナーの演奏。M6「Menina Moca」は、スタン・ゲッツの「Stan Gets with Guest Artist Laurindo Almeida」(1963)での演奏が下敷き。ゲッツのセクシーな音色に比べると、ケニーは清潔感のある音色。オリジナルでは、ゲッツの情熱的なスタッカートが印象的で、ケニーも負けずとスタッカートを聴かせるけれど、ソフトに聴かせるところがケニーの持ち味。このカバー4曲、オリジナルを下敷きにした構成は、ストレート・ジャズ・ファンからは厳しい批評が出るかもしれない。でも、スムーズなムードはベスト級だから、堅いことは言いっこなし。オリジナル曲では、M3「Bossa Real」とM10「Summer Love」の2曲でソプラノを聴かせてくれる。爽やかなメロディーの「Summer Love」での、「こぶし」というか、ビブラートの音色は、やっぱりこの人らしい。M4「Brazilian Nights」は、沁みるようなメロディーと音色が素晴らしいベスト・ソング。この作品は、間違いなくケニーの代表作になるはず。

2015年3月15日 (日)

Paula Atherton 「Ear Candy」(2015)

Earcandy

サックス奏者、ポーラ・アサートンの4作目になる新作は、モーリス・ホワイトが設立した「カリンバ・ミュージック」からのリリース。カリンバ・ミュージックからは、グレッグ・マニングに次ぐスムーズ・ジャズ系アーティストの作品で、今後、カリンバ・ミュージックがスムーズ・ジャズの強力なレーベルになるだろうか、期待したい。アサートンのサックスは、比較的パワー・ブローな奏者。フルートも吹くし、歌も唄うのだけれど、いずれもファンキーなグルーヴが魅力。外見もフォトジェニックな美人だけど、サックスは、オーソドックスなジャズ・フレージングもきちんと聴かせてきくれるところは本格派。ニューヨーク出身で、10代からサックスを勉強しているというから当然かな。さて、この作品は、まず疾走感のあるギターのコード・ストロークがドゥービーブラザースを思わせるイントロで始まる、M1「Pocket Full of Funk」は、題名通りのファンキーなビート・ナンバーで、リピート間違いなしのグッとくる曲。全曲、ホーン・セクション、オルガン、タイトなリズム・セクションを配したサポート・サウンドはヴィヴィッドで、パワフルなアサートンのサックスが爽快。M2「Without You」では、フィリー・ソウル的なスウィート・メロディーを唄うボーカルを披露していてカッコイイ。他2曲でもソウルフルなボーカルを披露している。M4「Between You & Me」は、ホーン・アンサンブルを主役にしたファンク・ジャズ・ナンバーで、アサートンのジャズの力量を見せてくれる。ハモるトランペットは、おそらくシンディ・ブラッドリーかな。M6「Carnivale」は、カリビアンなラテン・チューンで、フルートを吹いている。フルートでも情熱的なフレージングを聴かせてくれる。全10曲(1曲はボーカル曲のインスト・バージョン)の作曲すべて、アサートンの自作曲か共作で、いずれもキャッチーで魅力的な楽曲。メロディー・メイカーとしての才能も素晴らしい。

2015年3月 8日 (日)

Brian Simpson 「Out of a Dream」(2015)

Simpson

ブライアン・シンプソンの新作は、彼ならではのピアノとサウンドが、爽快感のボルテージを上げてくれる秀作。シンプソンは、お気に入りのピアニストだけれど、通算で5枚のソロアルバムだけだから、最も新作が待ち焦がしいアーティスト。前作「Just What You Need」(2013)から、2年未満での新作とはなんとも嬉しい。彼のピアノはシンプルで爽快なメロディーが魅力、ソフィティケートなアドリブ・フレージングも、フュージョンやコンテンポラリー・ジャズの伝統性があって、簡単なフレーズを繰り返すありきたりなスムーズジャズとは格が違う。M1「One of a Kind」は、視界が思いっきり広がるようなサックス(グレース・ケリー)と、スピード感もあって流れるようなシンプソンのピアノが、浮遊感を体験させてくれるナイス・チューン。M5「Just One Wish」は、ピアノのコードを使ったシンプルなテーマ・メロディーが、これぞブライアン・シンプソンなベスト・トラック。ミッド・テンポのタイトなリズム(ドラムスが素晴らしい)の中で、浮遊するノーマン・ブラウン(ギター)のソロ、オクターブのフレーズを入れるところは聴きものだし、後半の、ギターとシンプソンとピアノの掛け合いがグッと来てしまうのに、フェードアウトはくやしいなあ。M3「When I say Your Name」は、メランコリックなメロディーのバラードで、共演しているのはデイブ・コーズ(サックス)、この人が吹くと演奏が断然と光るんだからさすが。M6「San Lorenzo」は、マーク・アントワン(ギター)が参加したスローサンバの曲で、シンプソンのフェンダーがリリカル。中盤に、フェンダーからアコースティック・ピアノにチェンジする箇所が鳥肌モノ。アントワンのスウイングするギターもカッコイイ。ジョナサン・フリッツエンが共作共演したのはM9「Her Eyes」で、プログラムされたバック・サウンドがいかにもフリッツエンらしくて、そこにシンプソンの枯れたピアノが乗る魅力的なバラード。ブライアン・シンプソンの作品の中では、個人的には「Above The Clouds」(2007)がロング・タイム・ベストだけれど、この新作も勝るとも劣らない彼のベスト級作品で、もちろん今年のベスト級候補。

2015年3月 1日 (日)

Marion Meadows 「Soul Traveler」(2015)

Marion

最近のスムーズ・ジャズの「同質化」傾向は、ちょっと不満。数人の売れっ子プロデューサーが目立つし、同じ面子のメジャー・プレイヤーがゲストで参加し合ったり、相変わらずのチルアウトのサウンドもどうだろう。そんな中で、マリオン・メドウズは、オリジナリティーを感じるメジャー・アーティスト。この彼のソロ13作目の新作は、彼のソプラノ・サックスがいつにもまして哀愁的に響き渡る秀作。ソプラノ・サックスで、我が道を行くような、彼の姿勢がいいなあ。今回の作品、前作でも参加していたカルロ・ペニージという人(ギター奏者)が、全曲を、マリオン・メドウズと共作している。プロデュースも共同しているから、この人の影響が大きいのだろう。メランコリックなメロディーは、聴くほど味が出る秀逸な曲ばかりで素晴らしい。ゲストとのインタープレイも注目。M1「Celebration Road」は、ラテン・ナンバーで、ナジーがフルートを吹く。M2「Magic Men」は、エラン・トロットマンのサックスが情熱的。M7「Mother Earth」は、アップ・テンポのフラメンコで、中盤からヒップ・ホップのラップが絡むのが、異質だけれど印象的な曲。前作「Whisper」の延長線にあるけれど、ラテンやフラメンコのメロディーやサウンドの統一感が、前作以上に進化した完成度の高い作品。

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