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2018年2月の記事

2018年2月23日 (金)

Chris Godber 「Momentum」(2018)

Momentum

サックス奏者クリス・ゴッドバーの前作「Starting Over」(2015)は、サックスの音色もサウンドもフレッシュな佳作で、個人的には高感度の高い作品だった。この新作は、洗練されたサウンドに磨きがかかり、成長著しいところを感じさせてくれる秀作だ。前作と同様に、同じバンドで演奏するキャレブ・ミドルトン(key)や、ロウェル・ハーパー(g)らとの演奏も、生き生きとしたアンサンブルで、グッド・バイブレーションを聴かせてくれる。今作のプロデュースは、レイモンド・ダリウス・ジャクソンという人で、ゴッドバーの演奏バンドでもキーボード奏者を務めているようだ。ダリウス・ジャクソンや、キャレブ・ミドルトンらとの共作を含めた全11曲は、なかなかいい曲ばかり。ボーカル曲など無いけれど、いずれもオーソドックスなスタイルのインスト演奏は安心できる内容だ。M1「Momentum」は、冒頭のテナーの音色が艶っぽいところが印象的なキャッチーなスムーズジャズ・ナンバー。ゴッドバーは、テナー、アルト、ソプラノいずれも吹いているけれど、今作ではテナーの音色がなかなかいい感じだ。M6「Sizzle」は、ギター奏者アダム・ホーリーが客演(曲も共作)したハイライト・ナンバー。先行してシングルでも出ていた曲で、自信作だろう。M3「Living Water」は、ボブ・ボールドウィンが参加した曲。ボールドウィンのピアノとユニゾンで奏でるテーマから、彼のピアノのおかげでやっぱり一味違う演奏。M11「Chips'n'Salsa」は、ボッサ・リズムのコンテンポラリー・ジャズ曲。ピアノやリズム・セクションのライブ感のあるスウィングした演奏が光っていて素晴らしい。ゴッドバーのジャージーなフレージングも、巧者なところを聴かせてくれる。ゴッドバーは、「喘息」の持病を持っていながらの、演奏家である。同時に、呼吸ケアのスペシャリストである呼吸治療のセラピストとしても活動しているそうである。喘息に悩んでいる人たちに、勇気を与えたいと言う。この人も尊敬に値するアーティストなのである。

2018年2月11日 (日)

Gary Palmer 「Coast 2 Coast」(2018)

Coast2coast

フロリダで活躍するサックス奏者、ゲーリー・パーマーの2作目のフルアルバムは、アーバン・ソウルのムードに満ち溢れた佳曲ぞろいの秀作だ。パーマーのサックスは、ボーカルならハスキー気味の音色と、ゴスペルを感じる官能的なフレージングが魅力的。ミディアム・スロウが中心の曲は、クワイエット・ストームと形容できるアーバン・サウンドで、スウィート・ソウルや、フィリー・ソウルのムードがたっぷり。パーマーにとってこの作品は、スムーズ・ジャズの著名アーティストとコラボしたところが新機軸で、バラエティに富んだ内容。それでも、トータルなサウンドはまとまりがあって、なかなか素晴らしい作品。コラボしたアーティストは、ポール・ブラウンティム・ワトソンデヴィッド・P・スティーブンス、シンガーのケヴィン・フォスター、日本人ギタリストのKay-Taこと松野啓太、そして、ニルスといった面々。ポール・ブラウンが参加した3曲は、タイトル曲M1「Coast 2 Coast」、ボブ・ボールドウィンのキーボードがフューチャーされたM12「Land of the Sun」、スタンリー・クラークの初期の名曲をカバーしたM9「Lisa」と、いずれもポール・ブラウンらしいキャッチーなサウンドと、パーマーのサックスがかっこいい、必聴の演奏。Kay-Taが参加したM4「Misunderstanding」は、グッとくる「泣き」のソウル・バラード。デヴィッド・P・スティーブンスのM5「One More Time」も、さらに「泣き」のフィリー・ソウル。ニルスが参加したM10「Windsurfer」は、視界の広がる疾走感溢れる演奏。シンガーのケヴィン・フォスターが参加した2曲は、M3「I Can't Get Over You」と、M13「Ask Me to Stay」で、フォスター自身のソロ・アルバムでパーマーが客演した「Love Is Pain」に含まれていた曲。おそらく同じテイクだろう。いずれも、スウィート・ソウル・バラードで、テディ・ペンダーグラス風といった感じかな。

ちなみに、ゲーリー・パーマーはフロリダ州ラウダーヒルで警察官を務めていたそうで、2010年に引退後も、少年院で要職を務めているという。そんな社会貢献と並行して、音楽活動をしているというから、尊敬すべきサックス奏者なのである。

2018年2月 3日 (土)

『What Is It All But Luminous』Art Garfunkel 著(2017)

Luminous

アート・ガーファンクルの自身による伝記である。半生を振り返った伝記だが、音楽活動の解説より、彼自身の生活や内面の考察に比重を傾けて書いた、「私的」な内容の伝記である。学生時代のポール・サイモンとの出会いや、トム&ジェリーのデビュー、S&Gの成功、映画俳優としての活躍、ソロアルバムの制作、S&Gの再結成、といった彼のプロフェッショナルな功績については、時間的なつながりにとらわれず、フラッシュバックのように語っている。彼の偉大な音楽的成功さえも、アメリカ大陸やヨーロッパのハイキング横断といった私的な活動や、家族のことと並列して、すべてを人生のエピソードとして、内省的な考察を焦点に語られる。

散文的な文章スタイル、メタファー的な引用を交えた「詩」で表現される文章の連続は、正直言って、オーソドックスな伝記のスタイルと(かなり)異なり、読みやすいとは言えないが、そういったユニークな表現方法からして、アートの人間性がうかがえる。かつての恋人の女優ローリー・バードの自死や、父親や兄弟の死、ポール・サイモンの実母の死去、マイク・ニコルズの死去、といった知人の死去と、一方で、妻のキャサリン・セルマックと、2人の息子への家族愛。彼の半生のストーリーとしては、その「対比」が印象的だ。
シンガーとしてのアートのファンとしては、断片的ではあるが、興味深い解説が読めて、嬉しい。彼が膨大な数の書籍を読みこなす読書家であること。今まで、およそ1200冊(!)を読みこなして、感動した書籍の150冊のリストを載せている。この伝記の「文章力」も、彼の非凡な読書量が裏付けなのだ。彼のiPodに入れている楽曲のリストも披露している。そこには、アート自身の曲はもちろん、ジェイムス・テイラー、スティーヴン・ビショップジミー・ウェッブ、といった、彼のアルバムではお馴染みのアーティストの曲が並んでいる。アートは、練習としてジェイムス・テーラーの歌を好んで歌うそうだ。近年は、2年間ほど、「声を失い」歌えなくなったこと苦境についても語っているけれど、そんなに悲観的ではなかった印象で、なんとも彼らしい。80年代後半に、ポール・マッカトニーや、ジョージ・ハリソンと、私的な交流機会もあったとか。トム&ジェリーのヒット曲「Hey Schoolgirl」は、エヴァリー・ブラザースの「Hey Doll Baby」に対抗して作り上げたとか。人生における25の功績リスト、というのもあって、1位はセルマックと結婚して2子を儲けたこと、2位が「明日に架ける橋」。ソロアルバムでは「Breakaway」や、出演映画では「愛の狩人」(マイク・ニコルズ監督の1971年作品)をトップランクにあげている。
彼の人生を変えた25の音楽レコードというリストもある。1位は、エンリコ・カルーソー(オペラ歌手)のオペラ「真珠採り」(ビゼー作曲)のアリア。2位は、アンドリュー・シスターズの「ラムとコカコーラ」(1945)。ナット・キング・コールや、ビング・クロスビー、サム・クック、ジョニー・マティス、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ジョーン・バエズに、チェット・ベイカー、が並んでいる。
稀代のシンガーであり、スターであるアート・ガーファンクルだが、彼のレゾンデートルは、アーティストというより、「家族人」であり「人間」であることを告白している伝記なのだ。彼の書く文章と詩も、歌うこと以上に、重要な自己表現なのだろう。とは言え、願わくば、今度は、新しいアルバムで、シンガーとしての「歌声」を聴かせて欲しい。

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  • スムーズジャズは、最高のコンテンポラリーミュージック。ググっとくるアーティストのバイブレーションを、リアルタイムで聴きたい。独断で選んだスムース系の新譜を紹介します。Since 2011。UGASAI
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