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2018年2月 3日 (土)

『What Is It All But Luminous』Art Garfunkel 著(2017)

Luminous

アート・ガーファンクルの自身による伝記である。半生を振り返った伝記だが、音楽活動の解説より、彼自身の生活や内面の考察に比重を傾けて書いた、「私的」な内容の伝記である。学生時代のポール・サイモンとの出会いや、トム&ジェリーのデビュー、S&Gの成功、映画俳優としての活躍、ソロアルバムの制作、S&Gの再結成、といった彼のプロフェッショナルな功績については、時間的なつながりにとらわれず、フラッシュバックのように語っている。彼の偉大な音楽的成功さえも、アメリカ大陸やヨーロッパのハイキング横断といった私的な活動や、家族のことと並列して、すべてを人生のエピソードとして、内省的な考察を焦点に語られる。

散文的な文章スタイル、メタファー的な引用を交えた「詩」で表現される文章の連続は、正直言って、オーソドックスな伝記のスタイルと(かなり)異なり、読みやすいとは言えないが、そういったユニークな表現方法からして、アートの人間性がうかがえる。かつての恋人の女優ローリー・バードの自死や、父親や兄弟の死、ポール・サイモンの実母の死去、マイク・ニコルズの死去、といった知人の死去と、一方で、妻のキャサリン・セルマックと、2人の息子への家族愛。彼の半生のストーリーとしては、その「対比」が印象的だ。

シンガーとしてのアートのファンとしては、断片的ではあるが、興味深い解説が読めて、嬉しい。彼が膨大な数の書籍を読みこなす読書家であること。今まで、およそ1200冊(!)を読みこなして、感動した書籍の150冊のリストを載せている。この伝記の「文章力」も、彼の非凡な読書量が裏付けなのだ。彼のiPodに入れている楽曲のリストも披露している。そこには、アート自身の曲はもちろん、ジェイムス・テイラー、スティーヴン・ビショップジミー・ウェッブ、といった、彼のアルバムではお馴染みのアーティストの曲が並んでいる。アートは、練習としてジェイムス・テーラーの歌を好んで歌うそうだ。近年は、2年間ほど、「声を失い」歌えなくなったこと苦境についても語っているけれど、そんなに悲観的ではなかった印象で、なんとも彼らしい。

80年代後半に、ポール・マッカトニーや、ジョージ・ハリソンと、私的な交流機会もあったとか。トム&ジェリーのヒット曲「Hey Schoolgirl」は、エヴァリー・ブラザースの「Hey Doll Baby」に対抗して作り上げたとか。人生における25の功績リスト、というのもあって、1位はセルマックと結婚して2子を儲けたこと、2位が「明日に架ける橋」。ソロアルバムでは「Breakaway」や、出演映画では「愛の狩人」(マイク・ニコルズ監督の1971年作品)をトップランクにあげている。

彼の人生を変えた25の音楽レコードというリストもある。1位は、エンリコ・カルーソー(オペラ歌手)のオペラ「真珠採り」(ビゼー作曲)のアリア。2位は、アンドリュー・シスターズの「ラムとコカコーラ」(1945)。ナット・キング・コールや、ビング・クロスビー、サム・クック、ジョニー・マティス、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ジョーン・バエズに、チェット・ベイカー、が並んでいる。

稀代のシンガーであり、スターであるアート・ガーファンクルだが、彼のレゾンデートルは、アーティストというより、「家族人」であり「人間」であることを告白している伝記なのだ。彼の書く文章と詩も、歌うこと以上に、重要な自己表現なのだろう。とは言え、願わくば、今度は、新しいアルバムで、シンガーとしての「歌声」を聴かせて欲しい。

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