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2018年7月の記事

2018年7月29日 (日)

ポール・サイモンの音楽人生を振り返る必読の評伝、『Paul Simon : The Life』by Robert Hilburn(2018)

Psimon bookthelifeポール・サイモンは、今年の2月に、演奏ツアーからの「引退」を発表した。5月から始まった全米や欧州をまわるツアーは、「Homeward Bound - The Farewell Tour」と名付けられ、文字どうりの引退ツアーとなっている。大掛かりなツアーは辞めても、「小規模なパフォーマンス」や、レコーディングの音楽活動は続けるようで、安心だが。音楽活動は60年にも及び、色あせない名曲の数々と、華々しい実績を積み重ねてきて、今年には77歳を迎える。本書は、その引退表明に合わせたように、タイミング良く出版された、そのポール・サイモンの評伝である。その名曲の数々に魅了されて来たファンにとって、読む価値のある良書だ。

著者は、ポップス音楽評論家のロバート・ヒルバーン。ロサンゼルス・タイムズ紙で30年以上に渡り、ポップスの評論を担当したキャリアの持ち主。他に、ジョニー・キャッシュについての評伝などの著作がある。本書は、ポール自身が承諾したという、「公式」と言ってもいい評伝だ。著者による、ポール自身への直接インタビューは、3年間を費やし、信頼関係の上に書かれた労作である。加えて、家族や友人、関係者への取材や、膨大なメディア記録の掘り起こしを通して、冷静に事実関係に基づいて描いた著者のストーリーテリングに、引き込まれて読了した。

本書は、ポールの音楽キャリアを、少年時代から時系列に振り返ることで展開するが、著者の意図は、ポールの人間性を描き出すことにある。アート・ガーファンクルとの友情と確執、私生活での度重なる別れや離婚、常に求めてきた家族愛。商業的な成功に隠れた失敗の数々を通して、浮き彫りにする。生活や創作活動苦心しても、ポールの人生は「ソング・ライティング」を中心に回っている。著者は、ポールの名曲の歌詞のいくつかを、効果的に文中に挿入する。その詩的で文学的な歌詞は、まるで私小説のようで、その時々のポールの心象風景であることを、再認識させてくれる。

ポールは、10代から音楽ビジネスに携わってきた。父親のルー・サイモンは、プロのベース奏者であった。「ヘイ、スクールガール」(58年)を発売する際の契約は、ポールとアートが未成年でもあったから、ルーが交渉に当たり、レコーディングでは自らベースを弾いている。10代から音楽ビジネスについて多くのことを学んだ事は、ポールの音楽キャリアの礎になっている。ポールは早くから自分の楽曲のロイヤリティや権利を獲得する契約を結んでいたという。50年代から60年代の音楽業界では稀なことで、その時代では「先駆的なソングライター」でもあった。このエピソードは、お金への執着心というより、自分の楽曲に対する愛情と、ビジネスセンスを表して、印象的だ。その後も、ポールは、音楽の追求と同様に、アルバムのセールスやコンサートの収益にも専心した。大手レーベルのコロンビアから、ワーナー・ブラザースに移籍後、不発の作品が続いた時には、音楽的な評価より「必ずセールスの挽回をしてみせる」と経営陣に約束したという。音楽的な関心はまだしも、セールスまでに責任を表明するようなアーティストは、当時は「稀有な」存在であった。ポールは、偉大な音楽家であると同時に、音楽ビジネスのプロフェッショナルなのだ。

ポールは、「時の流れに」(75年)や、「グレースランド」(86年)など、いずれもグラミー賞受賞に輝き、セールスにおいても大成功を収める。アフリカやブラジル音楽を取り入れた手法は、革新的な功績である。そんな輝かしい業績や名声に隠れて、いくつかの失敗的な局面や、批判に曝された出来事も本書は丁寧に描いている。ポールが主演して作った映画「ワントリック・ポニー」(80年)。サイモン&ガーファンクルの復活作となるはずが、最終的にポールの意思でソロ作品としてリリースした「ハーツ・アンド・ボーンズ」(83年)。いずれも、業界評価や商業的には、失敗となった作品だ。南アフリカのミュージシャンを登用して作った「グレースランド」も、当時、アパルトヘイト政策の南アフリカ政府の支援に繋がると誤解を招き、音楽以外の世論から非難されたりもした。ポール自身が私費まで投じたブロードウェイ・ミュージカルの「ケープマン」(97年)に至っては、大酷評を受けて、わずか3ヶ月で打切りとなった。業界の酷評に気を病み、築いた名声を心配して、新たな曲作りのスランプに落ちいるなどのエピソードは、ポールの人間性を浮き彫りにする、読みどころになっている。

アート・ガーファンクルとの「関係」も、それ無くしてポールの人生は語れない。2人の関係に「確執」があることは、以前から周知のことである。2人が16才でデビューした「トム&ジェリー」の時から、その「確執」は始まっていたと、著者は明かす。「トム&ジェリー」と並行して、ポールは「トゥルー・テイラー」という芸名で、ソロ・デビューするのだが、そのことを、アートは裏切りと受け取ったという。後年、アートが俳優として映画出演に傾倒することで、「サイモンとガーファンクル」の解散に繋がり、何度かの再結成でも、周囲は2人の関係に「危険な状況」を見ていたという。とは言え、70才に至るまで、何度となく、2人は再結成してステージに立っているのだが。そんな出来事の繰り返しは、確執といっても、「友人」であるからこその、少年同志のナイーブな「関係性」を感じてしまうのだが。

「彼がたとえ作曲に興味を無くすことになったとしても、作曲の方がいつも彼に興味を持っている。」ポールの友人トーマス・フリードマンの言葉を、著者は記している。ポール・サイモンの、ソング・ライターとしてのレゾンデートルを言い得て妙である。

さて、ポールは、新作のスタジオアルバム「In The Blue Light」を、9月にリリースする予定だ。過去の楽曲を、新しいアプローチで録り直した作品だという。本書の読了後だから、なおさらに余韻を味わってその新作を聴きたい。

2018年7月22日 (日)

Rob Zinn 「Walk The Walk」(2018)

Bzinn walkthewalkトランペット奏者ロブ・ジンの新作は、前作のデビュー作「Yesterday Again」(2016)に続く2枚目。今作は、ポール・ブラウンが全面的にプロデュースに関わった秀作。ポール・ブラウンのスタジオ「Funky Joint」で収録されたという全10曲。ほとんどがジン自身とブラウンの共作の曲で、都会的で洗練されたメロディーラインの連続の充実した内容。ポール・ブラウンらしい、アクのないR&Bサウンドのデザインがかっこいいし、落ち着いたバンド・サウンドが、ロブ・ジンのフレージングを際立ている。

タイトル曲のM1「Walk The Walk」と、M2「Wherever You Are」は、いずれもサックス奏者アンドリュー・ニューがゲスト参加した演奏曲。ファンキーな「Walk The Walk」も、AORのスロウ・バラードような「Wherever You Are」も、二人のスリリングなインタープレイが必聴のハイライト曲。ジンがフリューゲル・ホーンを吹く、M3「Journey of the Heart」は、ソフトな音色のフレージングが包容力を感じさせる。M6「Never Gonna Give up on You」は、ポール・ブラウン「おはこ」のファンキー・フレージングのギターと、ジンのトランペットとの掛け合いが活き活きとしていて、上質なポップスと言っていいグッと来る曲。M8「Summer Nights」は、サックス奏者マイケル・パウロが客演した演奏。こちらの二人のアンサンブルも聞き逃せない、キャッチーな曲。M10「Could It Be You」は、ブラウンのメロウでファンキーなフレージングと、まるで歌手が唄うかのようなジンのトランペットが、インタープレイする、AOR的な雰囲気が魅力的な曲。

ポール・ブラウンのプロデューサーとしての手腕が発揮された作品、とは言え、この洗練されたクールなトランペットの主役は、ロブ・ジンだ。今後注目に値するアーティストに違いない。

2018年7月15日 (日)

Phil Denny 「Align」(2018)

Pdenny alignサックス奏者フィル・デニーの新作。デビュー・アルバム「Crossover」(2012)にしてベスト級の作品だったし、その後、「The Messenger」(2013)、「Upswing」(2015)と、コンスタントに秀作をリリース。フレッシュでキャッチーなサウンドが、作品ごとに磨きがかかる、期待の新世代アーティストだ。この新作も、全11曲、外れ曲なしの、成長を感じさせる秀作。

M1「Switch Up」は、ファンキーなビートがキャッチーで、こういうグルーヴがこの人らしい、ハイライト曲。M2「Feel Alright」は、ポップなメロディが秀逸な、ヘビロテ間違いなしの曲。ギターの客演は、デヴィッド・P・スティーヴンス。オーバーダビングしたサックスの音色が、新鮮な方向を感じる佳曲。M5「Brio Bounce」も、ファンキー路線のビート・チューンで、この曲でも、オーバーダビングしたサックスが印象的で、スピード感があふれる曲。この人は、基本的にはテナーの奏者だけれど、曲によってソプラノ・サックスも吹くことがある。今作では、M6「Solux」で、ソプラノを吹いている。ミディアム・スロウなバラード曲で、後半の、テナーも絡めたオーバーダビングの盛り上がりが聴きどころ。この曲のギター客演は、アダム・ホーリー。ソウルフルな2人のインタープレイがスリリング。M8「Align」でも、ソプラノを吹いてのバラード曲。リリカルに奏でるソプラノのフレージングが、今作での新境地を感じさせる曲。M9「Honey Step」は、冒頭からテナーのソリッドな音色が、オーバーダビング多用のアルバム中では、かえって新鮮に聴こえるビート・チューン。M11「Kinda Wanna」は、グルーヴ全開の爽快な曲。ダビングを多用したホーン・サウンドがパワフルで、アルバムの締めくくりに相応しいラスト曲。

次回の作品は、ライブ録音のように、もっとソリッドなサックスのパフォーマンスを聴いてみたい。

2018年7月 2日 (月)

Dee Brown 「Remembering You」(2018)

Rememberingyou

アメリカ中西部ミシガン州のデトロイトを基点に活躍する、ギター奏者ディー・ブラウンの新作。スムーズジャズ専門レーベルの「インナーヴィジョン・レコーズ」から、前作「Brown Sugar, Honey-Coated Love」(2014)に続く、2枚目のフル・アルバム。この人のギター奏法は、一聴して分かる「ジョージ・ベンソン」フォロワーだ。大御所ノーマン・ブラウンは元より、ティム・ボウマンや、ニック・コリオーネ、ポール・ブラウン、ユー・ナム、ロニー・スミス、などなど、「ベンソン・スタイル」の系譜を受け継ぐギター奏者は、スムーズジャズ界のメインストリームだ。いかに、ジョージ・ベンソンの影響が偉大かは、そのフォロワーの活躍が証明している。さて、ディー・ブラウン。いずれの曲も、R&B味のスウィート・メロディーに乗って、この人のギターのパッセージとサウンドが繰り出すグルーヴに、ググッと引き込まれる好盤。全11曲いずれもキャッチーな曲ばかり、中でもハイライトはシングルが先行していたM2「Hey Baby」だろう。急逝したという、彼の亡きフィアンセに捧げた曲だという。そのフィアンセは、前作のアルバムやシングルでも、バック・コーラスを担当していた人。「Hey Baby」のイントロで聴けるヴォイスは、フィアンセ本人のもの。という訳で、少しメランコリックなメロディーが心に残るけれど、ファンキーなギターのフレージングや、サックスとのインタープレイのヴァイヴレーションは、むしろ明るくてキャッチーに響き渡る佳曲。M1「I Want You Too」は、スキャットとギター・パッセージのユニゾンが、まさにベンソン風なファンキーでノリのいい曲。繰り出すオクターブや速弾きパッセージが素晴らしい。M10「Beauty Within」も、ボーカルとギターのジャジーなユニゾンが印象的な、スウィート・メロディーのミディアム・バラード。ギターとボーカル(本人だろう)のユニゾンは、ベンソン風と形容する必要なしの、ブラウンらしいスタイルと言っていい佳曲だ。ジョージ・ベンソンと言えば、ギターは日本が誇るアイバニーズのGBモデルだが、ディー・ブラウンの弾くギターは、アメリカのイーストマンというギター。イーストマンは、ヴァイオリンやチェロを創業とするハンド・メイドのメーカー。ロビー・ロバートソン(ザ・バンド)や、リッチー・フューレイ(バッファロー・スプリングフィールド)、リチャード・トンプソン(フェアポート・コンヴェンション)など、ロック、ジャズ、カントリーなどの音楽界で愛好するアーティストが多いギター。ブラウンの使用しているイーストマンのセミアコは、ソフトな音色が特徴的。ミディアムやスロウで奏でるヒューマンな音色は美しい。ラストのバラード曲M11「Remembering You」は、亡きフィアンセのストーリーを知ってしまった以上は、そのフレージングと音色に、ことさらに包容力を感じて、引き込まれてしまうなあ。

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  • スムーズジャズは、最高のコンテンポラリーミュージック。ググっとくるアーティストのバイブレーションを、リアルタイムで聴きたい。独断で選んだスムース系の新譜を紹介します。Since 2011。UGASAI
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