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2018年9月の記事

2018年9月29日 (土)

Freddy Cole 「My Mood is You」(2018)

Fcole mymoodジャズ・シンガー、フレディ・コールの新作。フレディ・コールは、ナット・キング・コールの実弟。ナットには、アイクとフレディの2人の弟がいる。ナット・キング・コールは、1965年に45才の若さで早逝。8才下の弟アイクも、ピアニストだったが、2001年に73才で鬼籍に入る。ナットの実娘、ナタリー・コールも、2015年に65歳で他界した。偉大な才能の早世はいつの時代も繰り返されるのだろうか。ナットを筆頭に、多くの音楽家を輩出しているコール家の、直系のフレディ・コールは、今も現役のシンガーだ。フレディは、ナットとは12才離れていて、もうすぐ、86才を迎えるはず。キャリアは、優に60年を超える、大ベテランだ。彼の歌声に、ナットの面影を探す向きもいるのかもしれないが、小気味のいいスウィングに乗って、語りかけるような、包容力に満ちた渋い歌声は、フレディーならではの味わいだ。伴奏陣は、いずれもジャズ正統派のミュージシャンで、エレガントでリリカルな演奏が聴きものだ。ジョン・ディ・マルティーノ(p)、ランディ・ナポレオン(g)、エリアス・ベイリー(b)、クワンタン・バクスター(dr)のカルテットは、フレディーの近年作品の常連で、気心が知れた関係に違いない、リラックスした演奏を聴かせてくれる。客演のサックス奏者ジョエル・フラームは、時に「動」的なフレージングを聴かせて、ムーディーなアンサンブルの中で、印象深いアクセントになっている。
アルバムの10曲は、著名曲とは限らず幅広い佳曲が並んでいて、興味を引く選曲だ。「They Didn't Believe Me」はフランク・シナトラ、「Temptation」はビング・クロスビー、の名唱が代表的なスタンダード曲。「My Heart Tells Me」、「The Lonely One」、の2曲は、ナット・キング・コールがレパートリーとしていた曲。特に、「The Lone One」は、ナットのジャズ超名盤「After Midnight」(1957)の中の1曲。ジャズ歌手レナ・ホーンがレパートリーとしていた曲からは3曲、「My Mood Is You」、「I'll Always Leave the Door a Little Open」、「Love Like This Can't Last」。特に、「My Mood Is You」の、自然に語るような歌い方はシビれるし、美的といっていい演奏が極上で、ハイライトな曲だ。「Almost in Love」はエルビス・プレスリーが歌った曲(1968)。注目は、「First Began」だろう。超ヒット・メーカーのバンド、マルーン5のメンバーでもある、PJモートンのソロ作品「Gumbo」(2017)からの曲。若い世代のソウル・アーティストの曲も、フレディー・コールは、スタンダード・ジャズのように歌い上げて、違和感など無く、新鮮で素晴らしい。アルバム最後の「Marie」も、非ジャズの曲で、シンガー・ソング・ライターのランディ・ニューマンのアルバム「Good Old Boys」(1974)の1曲。ランディ・ニューマンを取り上げて、ジャズの解釈で歌うのだから、なんとも粋ではありませんか。
芳醇で味わい深いフレディー・コールのボーカルと、心地いいムード・ジャズ系の演奏。これぞ極上のスムーズ・ミュージックですな、大推薦の作品。

2018年9月21日 (金)

Gerald Albright 「30」(2018)

Galbright 30ジェラルド・アルブライトの新作は、デビューから30年を記念して、ずばり「30」と名付けられた作品。87年のデビュー作品「Just Between Us」から数えて、19作品目(共演企画ものやライブ、ベストなどの6作品を含む)。その過去作品から、選りすぐった8曲を新しく演奏した内容で、新曲1曲と、ボーナストラック1曲を加えた全10曲(全てアルブライトの作曲)。過去作品の再演とはいえ、古さなど微塵も感じられない、アップデートされたアレンジは比類ない上質感とグルーヴにあふれている。近年作の「Slam Dunk」(2014)、「G」(2016)で披露してきた、縦横無尽のサックスはもちろん、ホーン・セクション、ベースの多重録音ワンマン・プレイが、さらに磨きがかかったサウンドだ。
87年のデビューアルバム「Just Between Us」からは、タイトル曲と「Come Back To Me」の、2曲を再演。「Come Back To Me」では、実娘のセリーナ・アルブライトがボーカルで参加している。
88年の2作目「Bermuda Nights」からは、タイトル曲。91年のライブ盤「Live at Birdland West」から、「Bossa of Nova」。この曲のスタジオ録音は、今回が初めてかも知れない。95年の「Giving Myself to You」からは、「Chips N' Salsa」。97年の「Live to Love」から、「Sooki Sooki」。2004年の「Kickin' It Up」から、「4 On the Floor」を、同曲のボーナス・トラックと2バージョン。ボーナスの方は、ギター奏者リッキー・ワットフォードをフューチャーしたトラックだ。2006年の「New Beginnings」からは、タイトル曲。そして、おそらく、新曲だろう「Road to Peace」は、ミディアム・テンポのバラードで、サックスとピアノのゴスペル・テイストの演奏が聴きもの。
アルブライトの「ベスト・オブ」的な選曲で、キャリアを振り返るという回帰的なコンセプトではあっても、最高にコンテンポラリーなサウンド・デザインで作り上げたところが秀逸。スムーズジャズの第一人者であることを証明する秀作だ。

2018年9月12日 (水)

Darryl Williams 「Here To Stay」(2017)

Dwilliams hereベース奏者ダリル・ウィリアムズは、名だたるスムーズ・ジャズ・アーティストから引っ張りだこのセッション・ミュージシャンだ。共演や客演したアーティストは、ジェラルド・アルブライト、ユージ・グルーヴ、マイケル・リントン、リック・ブラウン、ポール・ブラウン、ジェフ・ローバーなどなど、枚挙にいとまがない。最近では、ニルスの新作「Play」の大半の曲でも、ベース奏者としてクレジットされていた。
サンディエゴ出身のウィリアムズは、10代からベース演奏を始めて、ジャズやR&Bのバンドやサポートで演奏経験を積んできた人。2007年には、ソロのデビュー・アルバム「That Was Then」をリリース。この「Here To Say」が、10年ぶり2枚目のソロ・アルバム。共同プロデュースは、ユージ・グルーヴ。ゲストのアーティストは、ユージ・グルーヴはもちろん、ポール・ブラウン、ジェフ・ローバー、マイケル・リントン、ジョナサン・フリッツェン、ポール・ブラウン、という豪華なメンバー。今までのサポート・ミュージシャンとしての貢献を証明するような、客演のメンバーだ。10曲中2曲を除いて、ウィリアムズ自身のペンによる楽曲。メロウで、アーバン・ムードの楽曲の数々は、ウィリアムズの作曲の才能にも唸るばかりだ。
アルバム・タイトル曲「Here To Stay」は、ユージ・グルーヴが客演した、キャッチーなハイライト・トラック。グルーヴのソプラノと、ウィリアムズのベースがユニゾンで奏でるフレージングが、メロウな佳曲。「Do You Remember」は、マイケル・リントンが客演したビート・チューン。パワフルなリントンにリンクするような、ウィリアムズのチョッパーがパワフルだ。「Now and Never」は、ジョナサン・フリッツェンのピアノとユニゾンするバラード曲で、チルアウトなムードがたまらない。「How Long Has It Been」は、ギターのように奏でる奏法と、スラップ奏法の二刀流(ダビング)の重量級ベースが印象的な曲。客演は、ジェフ・ローバーのエレピとマーカス・アンダーソンのサックス。「Turn Up」は、ピアノ奏者スコット・ウィルキー客演の曲。軽快なピアノと骨太のベースが、対照的だけれど、上質なグルーヴに溢れている。
アルバムを通して、都会的でクワイエット・ストームなムードが堪能できる秀作。ベース奏者としては、自己のプレイはむしろ奥ゆかしくて、全体の曲とサウンド作りの才能が光る作品。

2018年9月 3日 (月)

ポール・サイモンの評伝 ②:邦訳されている評伝

ロバート・ヒルバーン著の最新評伝『Paul Simon:The Life』は、残念ながら、まだ邦訳出版されていない。ポール・サイモンやサイモン&ガーファンクルの評伝で、過去に邦訳されているものもいくつかある。ヒルバーンの評伝でも、「参考文献」にリストアップされている評伝で、日本語で読めるのがこの3冊。

Psimon book2『ポール・サイモン』(パトリック・ハンフリーズ著、野間けい子訳、音楽之友社、88年)は、『The Boy in the Bubble; A Biography of Paul Simon』(by Patrick Humphries、1988)の訳本。今から30年前の著作で、時系列的には「グレイスランド」(1986)に至るまでの評伝となっている(「The Boy in the Bubble」は「グレイスランド」の収録曲名)。著者のパトリック・ハンフリーズは、ポップスやロックのアーティストを対象にした多くの評伝を著している、英国在住の音楽ライター。彼が著した評伝には、ビートルズ、エルビス・プレスリー、トム・ウェイツ、フェアポート・コンベンション、リチャード・トンプソン、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ニック・ドレイク、など多数。近年も、ロニー・ドネガン(ロック誕生前50年代のスキッフルのアーティスト)の評伝を出している。

この評伝は、当時の社会背景や、音楽業界の潮流の解説に比重をおいて、ポールの半生を追跡している。ポールのアルバムごとの収録作品を、著者の考察で分析しているところが特色。エピソードとしては、「グレイスランド」にまつわるくだりが本書のハイライトになっている。80年の国連決議で、南アフリカへのボイコット政策に、芸術、音楽、スポーツなども含まれることなり、音楽業界も翻弄されて行く。ポールの「グレイスランド」にまつわる活動も、「非難」を受けながらも、南アの音楽を取り入れたその音楽性への評価と、ポールの音楽家としての革新的な姿勢が語られるところが、読みどころ。

著者は、この本の先だつ5年前に、『Bookends; The Simon and Garfunkel Story』(1982)という、サイモン&ガーファンクルの評伝を著している。邦訳は、『サイモン&ガーファンクル・ストーリー』(パンプキン・エディターズ訳、CBSソニー出版、83年)。これは、S&G2人を対象に、1981年のセントラル・パーク・コンサートまでを追った評伝。2人のアルバムや曲に対する、著者の批評は、辛口の「酷評」も目立ち、やや鼻白んでしまう。このS&Gの評伝は、5年後のポール・サイモン評伝の「下敷き」になった本。

S G book2他には、『サイモンとガーファンクル 旧友』(ジョゼフ・モレラ/パトリシア・バーレイ共著、福島英美香訳、音楽之友社、93年)という本もある。『Simon and Garfunkel: Old Friends: A Dual Biography』(by Joseph Morelia and Patricia Barey、1991)の訳本で、サイモンとガーファンクル2人のトム&ジェリーの時代から、90年に至るまでの評伝。

デュオの時代から、後年のソロや復活コンサートに至るまでの軌跡は周知の内容だが、いわゆる芸能情報的なゴシップ情報を満載に記録している。ポールとアートの、特にスターとなってからの、それぞれの結婚、離婚、女性関係、ドラッグ体験、関係者の実名を挙げてのトリビア情報量は圧巻。著者は、2人の創り出した名作や復活劇の裏に回って、潜在的な確執の関係や、私生活の波風を掘り下げる。ゴシップ的な情報量は驚かせられるほど満載だが、ミーハー的興味に終始していて、やや辟易するが。著者のジョゼフ・モレラは、米国のエンターテイメント情報誌「バラエティ」の元記者というから、芸能情報満載というのもうなずける。

翻訳評伝ではないが、日本の『サイモン&ガーファンクル全曲解説』(佐藤実著、アルテスパブリッシング、09年)は、「解説書」として稀有な良書である。S&Gデュオ作品から、ソロ作品、ベスト盤や映像作品に至るまで、全曲を網羅した解説書。作品ごとの背景の説明にとどまらず、詞や曲の専門的な分析に踏み込んでいて、著者の研究心には唸るばかりだ。ここまでの緻密な内容の、サイモン&ガーファンクルの「研究書」は、欧米にも無いだろう。ファンにとってのバイブルといっても過言ではない。書籍は絶版のようだが、電子書籍版がある。

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