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2018年9月 3日 (月)

ポール・サイモンの評伝 ②:邦訳されている評伝

ロバート・ヒルバーン著の最新評伝『Paul Simon:The Life』は、残念ながら、まだ邦訳出版されていない。ポール・サイモンやサイモン&ガーファンクルの評伝で、過去に邦訳されているものもいくつかある。ヒルバーンの評伝でも、「参考文献」にリストアップされている評伝で、日本語で読めるのがこの3冊。

Psimon book2『ポール・サイモン』(パトリック・ハンフリーズ著、野間けい子訳、音楽之友社、88年)は、『The Boy in the Bubble; A Biography of Paul Simon』(by Patrick Humphries、1988)の訳本。今から30年前の著作で、時系列的には「グレイスランド」(1986)に至るまでの評伝となっている(「The Boy in the Bubble」は「グレイスランド」の収録曲名)。著者のパトリック・ハンフリーズは、ポップスやロックのアーティストを対象にした多くの評伝を著している、英国在住の音楽ライター。彼が著した評伝には、ビートルズ、エルビス・プレスリー、トム・ウェイツ、フェアポート・コンベンション、リチャード・トンプソン、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ニック・ドレイク、など多数。近年も、ロニー・ドネガン(ロック誕生前50年代のスキッフルのアーティスト)の評伝を出している。

この評伝は、当時の社会背景や、音楽業界の潮流の解説に比重をおいて、ポールの半生を追跡している。ポールのアルバムごとの収録作品を、著者の考察で分析しているところが特色。エピソードとしては、「グレイスランド」にまつわるくだりが本書のハイライトになっている。80年の国連決議で、南アフリカへのボイコット政策に、芸術、音楽、スポーツなども含まれることなり、音楽業界も翻弄されて行く。ポールの「グレイスランド」にまつわる活動も、「非難」を受けながらも、南アの音楽を取り入れたその音楽性への評価と、ポールの音楽家としての革新的な姿勢が語られるところが、読みどころ。

著者は、この本の先だつ5年前に、『Bookends; The Simon and Garfunkel Story』(1982)という、サイモン&ガーファンクルの評伝を著している。邦訳は、『サイモン&ガーファンクル・ストーリー』(パンプキン・エディターズ訳、CBSソニー出版、83年)。これは、S&G2人を対象に、1981年のセントラル・パーク・コンサートまでを追った評伝。2人のアルバムや曲に対する、著者の批評は、辛口の「酷評」も目立ち、やや鼻白んでしまう。このS&Gの評伝は、5年後のポール・サイモン評伝の「下敷き」になった本。

S G book2他には、『サイモンとガーファンクル 旧友』(ジョゼフ・モレラ/パトリシア・バーレイ共著、福島英美香訳、音楽之友社、93年)という本もある。『Simon and Garfunkel: Old Friends: A Dual Biography』(by Joseph Morelia and Patricia Barey、1991)の訳本で、サイモンとガーファンクル2人のトム&ジェリーの時代から、90年に至るまでの評伝。

デュオの時代から、後年のソロや復活コンサートに至るまでの軌跡は周知の内容だが、いわゆる芸能情報的なゴシップ情報を満載に記録している。ポールとアートの、特にスターとなってからの、それぞれの結婚、離婚、女性関係、ドラッグ体験、関係者の実名を挙げてのトリビア情報量は圧巻。著者は、2人の創り出した名作や復活劇の裏に回って、潜在的な確執の関係や、私生活の波風を掘り下げる。ゴシップ的な情報量は驚かせられるほど満載だが、ミーハー的興味に終始していて、やや辟易するが。著者のジョゼフ・モレラは、米国のエンターテイメント情報誌「バラエティ」の元記者というから、芸能情報満載というのもうなずける。

翻訳評伝ではないが、日本の『サイモン&ガーファンクル全曲解説』(佐藤実著、アルテスパブリッシング、09年)は、「解説書」として稀有な良書である。S&Gデュオ作品から、ソロ作品、ベスト盤や映像作品に至るまで、全曲を網羅した解説書。作品ごとの背景の説明にとどまらず、詞や曲の専門的な分析に踏み込んでいて、著者の研究心には唸るばかりだ。ここまでの緻密な内容の、サイモン&ガーファンクルの「研究書」は、欧米にも無いだろう。ファンにとってのバイブルといっても過言ではない。書籍は絶版のようだが、電子書籍版がある。

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