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2019年6月 9日 (日)

Jimmy Webb 「SlipCover」(2019)

Slipcover ジミー・ウェッブの新作は、彼のピアノ・ソロ演奏による異色のアルバムです。アメリカやイギリスのポップス名曲10曲と、セルフカバー1曲を演奏しています。今までも、ウェッブの作品にはピアノ弾き語りによる曲は多かったが、歌無しでピアノ演奏だけの作品集とは嬉しい驚きです。演奏曲の多くは70年代のポップス名曲で、それぞれの作者へ敬意を込めた選曲となっているようです。

自身の曲「The Moon Is A Harsh Mistress」に加えて、ブライアン・ウィルソンの「God Only Knows」、ランディ・ニューマンの「Marie」、ジョニ・ミッチェルの「A Case of You」、ポール・サイモンの「Old Friends」、ビルー・ジョエルの「Lullaby (Goodnight, My Angel)」、スティービー・ワンダーの「All In Love Is Fair」、ポール・マッカートニーの「Let It Be」といった、あらためての説明は不要の名曲の数々です。ちょっとレアな選曲は「Pretty  Ballerina」でしょうか。これは60年代後半のポップ・グループ、ザ・レフト・バンク(The Left Banke)の1966年の曲。インド音階を思わせるユニークなメロディーが印象的です。

 

白眉な演奏は、ローリングストーンズの「Moonlite Mile」のカバー。原曲は『Sticky Fingers』(71年)に入っていた曲で、東洋風(日本風?)の一風変わった印象の曲でした。ウェッブの編曲は、モダンで華麗なバラードに転じて美しくメロウな演奏です。また、ウォーレン・ジボンの「Accidentally Like a Martyr」も素晴らしい。そもそもジボンのオリジナル(78年のアルバム『Exitable Boy』所収曲)は、ウェッブの曲想に通じるような曲で、まるで自身の楽曲を演奏しているような趣きです。

ウェッブはこのCDのライナーノーツで、彼のピアノ・スタイルのルーツとして、60年代から80年代に活躍したカントリー系ピアノ奏者フロイド・クレーマー(1933-1997)の名前を挙げています。クレーマーは、「スリップ・ノート」と呼ばれる奏法で有名なレジェンドです。セッション奏者としても、エルビス・プレスリーやブレンダ・リーなどレコーディングに参加しています。プレスリーの「ハートブレイクホテル」の演奏メンバーでもありました。チェット・アトキンスらとチームを組んで、ナッシュビルの重要セッツション・ミュージシャンとして活躍した人です。

クレーマーのソロ曲「Last Date」(60年)は、「スリップ・ノート」と呼ぶ奏法の代表曲です。コードを弾くのに、装飾音をスラーしてコードにつなげる、といった説明になるでしょうか。カントリー音楽では、従来からギターではチェット・アトキンスやスライド・ギターで良く聴かれる、半音スラーする奏法が伝統的ですが、それをピアノに応用したといえます。その装飾音の効果で、アタックのあるコード奏法にさらにドラマチックな臨場感が生まれています。

この作品は、ウェッブが思い入れのあるポップス曲をピアノで演奏するという、プライベートな世界観だがとても味わい深い作品になっています。選曲の顔ぶれも興味深いですが、ウェッブのピアノ・スタイルがまさにフロイド・クレーマーを彷彿として、そのルーツに合点がいきます。ジャズやブルースのピアノの系譜とは異なる、カントリー音楽を背景とする「スリップ・ノート」奏法の特色を、ウェッブがピアノ奏者として披露した貴重な作品です。

クレーマーは、ソロ奏者としてアルバムだけでも、97年に没するまで70枚を超える作品を残しています。カントリーだけでなく、ポップスの名曲も数多く演奏していますが、ウェッブの代表曲「マッカサー・パーク」と「フェニックスへの道」のカバー演奏は必聴でしょう。

余談ですが、クレーマーの実孫はジェイソン・コールマン(Jason Coleman)というピアノ奏者です。偉大な祖父のスリップ・ノート奏法を継承して演奏活動を行なっています。何枚かのCD作品も出していて、クレーマーの代表曲「Last Date」などの、いわば「純血」カバー演奏が聴けます。

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