2023年6月 4日 (日)

Nick Colionne 「Just Like That」(2023)

ギター奏者ニック・コリオーネの12作目のオリジナル・アルバムです。本人は本作品のリリースを見届けることができずに、2022年1月1日に旅立ってしまいました。

本人が考えていた「完成形」なのかは分かりませんが、ファンにはこの遺作はなによりも価値ある贈り物です。

今作のプロデュースはほぼ半数ずつ、マイケル・ブローニングとクリス・デイヴィスが担当しています。楽曲もブローニングとデイヴィスによる新曲が中心ですが、2曲はコリオーネのオリジナル楽曲です。

デイヴィスは生前最後の作品『Finger Painting』(2020)を含めて常連のプロデューサーでしたが、ブローニングとのコラボは初披露になります。

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2023年5月21日 (日)

Terry Wollman 「Surface」(2023)

ロサンゼルスを拠点に活動するテリー・ウルマンはギター奏者であり、作編曲やプロデュースにも手腕を発揮する多才な音楽家です。

バークリー音楽院の編曲科を卒業して、TVや映像音楽の制作や多くのアーティストのサポートにかかわり、プロデュース業ではメリサ・マンチェスターも手がけました。40年を越えるキャリアは、自身のソロ・アルバムに結実して、デビュー作『Bimini』(1988)から8作品をリリースしています。多彩なアレンジを志向した音作りは、豊富な才能の引き出しが裏づけています。

過去作品のゲストに、ジョー・サンプル、アーニー・ワッツ、ジェラルド・アルブライト、マイケル・マクドナルド、ミンディ・エイベア、ケブ・モーといったトップ・ミュージシャンを迎えて、プロデュース志向のサウンドを作り上げてきました。

自らのギターは主にアコースティックを弾きますが、アルバムには必ず入れるオリジナル・ソロ曲ではフィンガーピッキングを多用したフォーキーでクラシカルな味わいのある演奏を披露しています。配信のみのアルバム『Cassini's Last Dance』(2020)は過去曲の再録や新曲を含むギター・ソロ集で、なかなかの秀作でした。

近年はホリデイ・アルバムやベストなど企画作品が続きましたが、本作はオリジナル・アルバムとしては『Buddha’s Ear』(2011)以来になる新作です。

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2023年5月 5日 (金)

Pelle Fridell 「Mellow」(2023)

Mellow

スウェーデン出身のペレ・フリーデルは、デンマークのコペンハーゲンを拠点に活躍するサックス/マルチリード奏者です。キャリアは30年を越えて、ソロ・アルバムはデビュー作『Go Jaz』(2001)から7作品を数えます。

8作目となる本作は、パンデミック期間に書きためたという12のオリジナル曲がおさめられています。

フリーデルは、エネルギッシュなブローが特徴といえる奏者です。デビュー作ではアバンギャルドなフレージングで先進的な印象を残しました。近年の作品『Soul Go Jaz』(2018)は、ソウルフルな熱量が際立つ秀作でした。今作では、浮遊感を漂わせるクールな演奏を披露しています。

キーボード奏者ニコライ・ベンツウォン(Nikolaj Bentzon)をパートナーに迎えて、ほとんどデュオによる演奏が展開されます。シンセ・サウンドのレイヤーや複数のリード楽器などのオーバーダビングを施して、音空間を深める効果も作り出しています。

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2023年4月23日 (日)

Les Sabler 「Flying High」(2023)

Flyinghigh_20230422171901レス・サブラーの新作は、前作『Tranquility』(2021)に引き続きポール・ブラウンのプロデュースによる作品。サポートも、前作と同様にシェーン・テリオ、ルー・レインらの常連チームがつとめています。

楽曲は、ブラウンがテリオやレインらと共作したオリジナル7曲と4つのカヴァー曲が含まれています。今回サブラーは作曲を手がけず、ギター演奏に徹しています。

前作でスポットをあてたヴィンテージ・ギブソンのジョニー・スミス・モデルで、いたるところで聴かせるオクターブ奏法の流麗なパッセージがさえわたります。今回はアコースティック(ガット)・ギターの演奏も3曲で披露して、単音のフレージングが沁みるような好演です。

オリジナル曲の「Over The Top」に「Moonlight」や「New Bossa」など、いずれも都会的で洗練されたメロディーとキャッチーなフックが秀逸で、近年ブラウンらが手がけたなかでもベスト級の佳曲が並びます。

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2023年4月 8日 (土)

Michael Broening 「Never Too Late」(2023)

本作は、プロデューサーとして活躍著しいマイケル・ブローニングの初ソロ・アルバムです。

ロサンゼルス出身のブローニングは、アリゾナ州フェニックス市郊外に自身のスタジオをかまえて活動する音楽家です。キーボード奏者であり作編曲家およびプロデューサーとして、キャリアは20年を超えます。

この人のクレジットは以前から多くの作品で目にしていたので、ただものではないなと注目していました。過去に紹介した作品では、シンディ・ブラッドリーの『The Little Things』(2019)やレブロンの『Undeniable』(2019)は、ほとんどブローニングの作曲/演奏/プロデュースによる秀作で、洗練された音楽性が記憶に焼きついています。

その2作に限らず、プロデューサーとしての仕事は、マリオン・メドウズを皮切りに、スティーヴ・オリバー、マイケル・リントン、ティム・ボウマン、リン・ラウントゥリー、アルティア・ルネ、ランディ・スコット、ゲリー・オーナーら他数々のアーティストを手がけています。

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2023年3月26日 (日)

The 3 Keys 「We 3 Keys」(2023)

本作は3人のキーボード奏者、ボブ・ボールドウィン、ゲイル・ジョンソン、フィル・デイヴィスによる、ザ・スリー・キーズ(The 3 Keys)と名乗るユニットの初アルバムです。

ニューヨーク出身のボールドウィンは、本サイトでも過去作を何度か紹介してきましたが、言うまでもなくスムーズジャズを代表するアーティストのひとり。

フィラデルフィア出身のジョンソンも、ジャズ・イン・ピンクの作品や近年作『Joy!』で実証済みの実力派です。

デイヴィスはアトランタ出身の音楽家で、ボニー・ジェイムスやジョージ・ハワード、アル・ジャロウ、ウォルター・ビーズリー、ノーマン・ブラウンらと共演や楽曲提供で活躍してきた人。ソロでは『Philosophy』(2008)など数作を発表しています。地元の音楽教育にも従事していて、アトランタにあるクラーク大学音楽学部の副教授を務めているようです。

3人が奏でる鍵盤楽器、ピアノからエレキピアノ(フェンダーローズ)にモーグなどのシンセサイザーが自由に交錯して、”クワイエット・ストーム”でメロウな音楽世界が展開します。白熱するようなインタープレイは飛び出しませんが、リラックスした中にもグルーヴが共鳴する秀作です。

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2023年3月12日 (日)

Hermine Deurloo 「Splendor Takes」(2023)

Splendortakes

ジャズ・ハーモニカのレジェンド、トゥーツ・シールマンスの亡きあと、後継者のポジションを競うように実力派のハーモニカ奏者が活躍しています。

スイスのグレゴア・マレ(Gregoire Maret)、イタリアのジョゼッペ・ミリチ(Giuseppe Milici)、フランス出身でニューヨークで活動するイヴォニック・プレン(Yvpmmocl Prene)らは、いずれも新作のたびにチェックを入れる人たちです。

ちなみに、ミリチの近作はエンニオ・モリコーネ楽曲集『Plays Ennio Morricone』(2021)。プレンの最新作『Listen!』(2023)は、オリジナル曲とマイルス・デイビスやシナトラのレパートリーも取り上げたジャズ・コンボでの演奏集。

さて、アムステルダム出身の女性ハーモニカ奏者ハーマイネ・デューローも、注目したいアーティストです。

デビュー作『Crazy Clock』(2005)から5枚のソロ作品を発表しているキャリアの持ち主。近年の『Riverbeast』(2019)は半数が自身のオリジナル曲で、ドラム奏者スティーヴ・ガッドも参加した力作でした。当時のツアーの様子はYouTubeで発表されています。

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2023年2月26日 (日)

Jamhunters 「Climate」(2023)

Climate_coverコペンハーゲンを拠点に活動するジャムハンターズは、ピーター・ミカエル(キーボード)とラース・ファビアンセン(ギター)のふたりによる2006年にデビューしたスムーズジャズ・ユニットです。

以前当サイトで紹介した3作目の『Driftin'』(2011)は、軽快で洗練されたサウンドの秀作でした。その後、『Colortones』(2016)とスタジオ・ライブの『Nightclub』 (2017)をリリースしています。この新作は6年ぶりのオリジナル・アルバムです。

コンセプト・アルバムを意図した構成が魅力を引き立てています。「天候」をテーマにした全8曲(ミカエルとファビアンセンの共作)は、各曲の30秒前後の短いプレリュードから始まります。鳥や波音などのSEを交えたプレリュードにセンスの良さが光ります。

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2023年2月12日 (日)

Jason Jackson 「All In」(2022)

Jasonjaksonallinジェイソン・ジャクソンは、米国はフィラデルフィア郊外の都市ウィルミントン出身の新鋭サックス奏者です。公表されている略歴によると、米国海軍の所属ミュージシャンとして演奏活動に従事して、のちに横須賀をベースとする第七艦隊の軍楽隊(フリート・バンド)に所属しました。横須賀には3年間在住していたそうです。退役後はソロ活動を初めて、ギター奏者アダム・ホーリーのプロデュースでデビュー作『Movin’ On』(2021)をリリースしています。

ダンサブルなビートに乗せて、エネルギッシュにブローするスタイルが持ち味です。キャッチーなリフを強調するフレージングで、スムーズジャズ系直球のサウンドを聴かせてくれます。

ソロ第2作となる本作も、アダム・ホーリーがプロデュースを務めています。楽曲は、ジャクソンとホーリーの共作によるオリジナル曲が中心です。ゲストには、スムーズジャズ界のトップ級アーティストを曲ごとに並べた構成はホーリーの手腕でしょう。ジノ・ロザリア(ピアノ)キエリ・ミヌッチ(ギター)エリック・マリエンサル(サックス)ジョナサン・フリッツェン(ピアノ)らがフィーチャーされてソロを披露しますが、負けじと対するジャクソンの熱い吹奏に引きつけられます。

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2023年1月28日 (土)

第65回(2023)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品 ②

【23/2/6付追記:受賞作はスナーキー・パピーです(下記★印)スナーキー・パピーの受賞は、第63回グラミー賞での『Live At The Royal Albert Hall』に続いて、通算5回目となります。】

過日の記事に続いて、残りのノミネート2作品を紹介します。

⚫︎『Jacob's Ladder』Brad Mehldau

 ジャズ・ピアノ奏者ブラッド・メルドーの本作は、ジャズの範疇にはおさまらないユニークなソロ作品です。
注目は、プログレッシブ・ロックの選曲です。「Jacob's Ladder」と「Tom Sawyer」は、カナダのバンド、ラッシュの楽曲。「Cogs in Cogs」は、イギリスのバンド、ジェントル・ジャイアントの曲。どちらも70年代から80年代初めに活躍したプログレッシブ・ロック系バンドの代表曲です。

メルドーはピアノに加えて各種シンセサイザーを演奏しています。シンセによるバロック的なソロ演奏もありますが、ボーカルやギターを交えて尖ったプログレッシブ・ロック・サウンドを組み立てています。イエスの「Starship Trooper」の一部や、現役プログレ/メタル・バンド、ペリフェリー(Periphery)の楽曲「Racecar」も構成に取り上げています。

メルドーのオリジナル曲「Herr und Knecht」では、ドイツ語の歌(叫び)が入りジャーマン・ヘヴィメタルな様相です。

メルドーのプログレッシブ・ロックへのオマージュといえる秀作です。

 

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«Yellowjackets 「Parallel Motion」(2022)