2024年10月24日 (木)

Filip Jers 「In The Spirit Of Toots」(2023)

ハーモニカのレジェンド、トゥーツ・シールマンスが94歳の生涯を終えて8年がたちました。そのうちに、敬愛するアーティストによる追悼作品が出るだろうと思っていました。

はたして、シールマンスのオマージュに取り組んだのは同じスウェーデン出身のハーモニカ奏者フィリップ・ヤースです。

ヤースは1986年生まれのアーティストで、本人のホームページの紹介によれば、18歳で2005年ドイツのハーモニカ・コンテストで金賞を受賞、2011年にスウェーデン王立音楽アカデミーを卒業した経歴の持ち主。

現在は、自身のカルテットやソロにセッション参加などの演奏活動に加えて、オンラインでハーモニカ奏法のレッスンも行っています。

本作は、シールマンスのレパートリーを中心に、自身のオリジナル曲も加えた演奏集。共演は、同じスウェーデン出身のピアノ奏者カール・バッゲ(Carl Bagge)がリーダーの、ベースはマーティン・ホッパー、ドラムスはクリス・モンゴメリーによるトリオがつとめています。バッゲ・トリオのリリカルな演奏もききどころです。

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2024年10月13日 (日)

Dan Siegel 「Unity」(2024)

キーボード奏者ダン・シーゲルは、80〜90年代には毎年ほぼ途切れなくアルバムをリリースして、人気を裏づける活躍でした。2000年代に入りペースは落ちたとはいえ、コンスタントに録音作品を発表する活動を続けています。

いまも制作意欲のおとろえを見せない、おそらく70歳をむかえて発表する新作です。全9曲オリジナル曲が並び、シーゲルのピアノ(オルガンも)がゆったりと動きまわる充実作です。

前作『Faraway Places』はコロナ禍でのリモート・セッション作品で、構築的なアレンジメントのサウンドによる良作でした。今作はライブ感もつたわる、リアルなノリを打ちだした本領発揮の演奏集。

リズム・セクションは、デヴィッド・ジンヤード(ベース)とオスカー・シートン(ドラムス)が全曲でつとめていますが、表情豊かなシートンのドラム演奏はすばらしいです。曲ごとに複数のギター奏者、ロブ・ベーコンやアレン・ハインズ、マイク・ミラー、ディーン・パークスら、またブラス・セクション(トム・スコットなど)も加わりますが、いずれもひかえめなサポートでシーゲルの鍵盤演奏をひきたてています。

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2024年9月29日 (日)

Lemek 「Emergence」(2023)

先日、サックス奏者クワンタン・ジェラルド・Wの新作を紹介しましたが、記事でふれたように客演していたギター奏者レーメック(Lemek Yisrael)はジェラルド・Wの息子です。本作は、そのレーメックのソロ・デビュー作品です。

レーメックは、18歳でスムーズジャズ系メジャー・レーベル、トリッピン・リズム・レコードと契約して、本作でデビューをかざりました。

本作には同レーベルを代表するプロデューサー兼アーティスト、クリス・デイヴィス、マイケル・ブローニング、ライアン・ラ・ヴォレット、ニコラス・コールらが曲ごとに、プロデュースから楽曲の提供、演奏・音作りを手がけています。他にもアダム・ホーリーや、父親のクワンタン・ジェラルド・Wも参加しています。

デビュー作にしてトップ級の布陣による舞台で、新人レーメックを盛りあげたアルバムです。クオリティは約束された感がありますが、レーメックの演奏は繊細な音色でナイーヴなおもむきと、臆せず技量を発揮する大胆さもうかがえます。

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2024年9月22日 (日)

Vincent Ingala 「Escape with Me」(2024)

サックス奏者ヴィンセント・インガラは、17歳でデビュー・アルバム『North End Soul』(2010)を発表。その後いままで通算7作品をリリースして、いまやスムーズジャズ界の代表的アーティストです。

初作から曲作りはサックスに加えてほぼ全ての楽器をこなすマルチ・プレイヤー。4歳でドラム演奏を始めて、続いてギター、サックス、ピアノを習得したといいます。サウンドはダンス・テイストのあるポップ路線で、チャート・イン当然のキャッチーな楽曲に作編曲の才能が輝いています。

8作目となる今作もほとんどひとりで作り上げて、一段と洗練度を高めた充実作です。注目は、「Escape With Me」や「Midnight Confession」で披露している鍵盤演奏の曲。チルアウト・ムードの「Midnight Confession」ではサックスも登場しない、いさぎよさです。健康的なダンス・グルーヴの「Ramp It Up」は、R&Bスタイルのギター演奏のかっこよさが必聴です。

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2024年9月 1日 (日)

Quintin Gerard W. 「Broken Promises」(2024)

サックス奏者クワンタン・ジェラルド・Wのソロ新作。ニューオリンズ出身のキャリア30年をこえる演奏家です。自身のプライベート・レーベルから、『Fnkysax』(2004)を初めとして4枚のソロ・アルバムを発表しています。

また、"ファンク・ジャズ・フォーメーション"と自称する5人組ユニット、アンダー・ザ・レイク(UTL)に『People Together』(2007)から参加、現在もメンバーとして活動しています。過去記事で『Your Horizon Too』(2020)を紹介しましたが、その次作『Old Friends, New Grooves』(2021)が最新作です。

UTLでのジェラルド・Wは、圧力強めのフレージングが印象に残りますが、今作のソロ作品ではメロウでアーバン・ムードの楽曲と演奏が際立っています。本作は9曲のオリジナル(共作含む)からなり、マイケル・ブローニング、アダム・ホーリー、ジェリー・スムート(Gerry Smoot)、ジェイコブ・ウェッブらをサポートにむかえています。ギター奏者レーメック(Lemek)が複数の曲でフィーチャーされていますが、レーメックは実息子です。レーメックは、デビュー・アルバム『Emergence』(2023)で注目を集める新鋭アーティストです。

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2024年8月18日 (日)

あのサックスは誰だ(6)

1. グレン・フライ:「The One You Love」 (1982)

70年代のロック・シーンをけん引したレジェンド・バンド、イーグルスは1982年5月に解散を公式発表します(10年後には再結成しますが)。フライはその発表を待っていたように初ソロ・アルバム『No Fun Aloud』をリリース。

この曲はそのソロ・アルバムからのヒット曲。モータウンのソウル・バラードを思わせて、ムードを盛りあげるサックスが印象的です。

オリジナルLPにはふたりのサックス奏者、アーニー・ワッツとジム・ホーン(Jim Horn)がクレジットされています。イントロから大部分のサックス伴奏はワッツで、なぜかエンディング途中から入りフェイドアウトするのはホーンのようです。

ちなみに、イーグルスの同僚メンバーだったドン・フェルダーは自伝(邦訳『天国と地獄〜イーグルスという人生』)で、フライのソロ・アルバムについて、「イーグルス・サウンドからデトロイト・リズム&ブルースのルーツへとイメージ・チェンジ」した作品だとコメントしています。すこし皮肉まじりに感じるのは、自伝ではメンバー間の長年にわたる確執をしんらつに明かしていて、特にフライとは長年の絶交期間もあり冷めた関係がつづいていたからでしょうか。

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2024年8月11日 (日)

Bill Petry 「Close Your Eyes」(2024)

N/Aベルリン出身のトランペット奏者ビル・ピトリは、ベルリン芸術大学が設立したジャズ専門校ジャズ・インスティテュート・ベルリンでイギリスのジャズ・トランペット奏者ジェラルド・プレゼンサー(Gerard Presencer)を師とあおぎ奏法を学んだといいます。また、トランペット奏者ティル・ブレナーは、ピトリの学生時代からその才能に注目して応援してきたそうです。

本作はピトリのデビュー作で、ブレナーがプロデュースをつとめています。ピアノ(Christian Von Der Goltz)、ベース(Olaf Cashimir)、ドラムス(Tobias Backhaus)によるオーソドックスなジャズ・コンボを従えて有名曲のカバー全12曲をバラード・スタイルで演奏、デビュー作にして円熟したフレージングに感銘する秀作です。

ピトリの奏音は清々しく、原曲を尊重したピュアなフレージングで忘れがたい印象を残します。静かに並走するリズム隊と、ストレスフリーな好演を展開します。

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2024年7月29日 (月)

U-Nam 「Sunshine of Mine」(2023)

ユーナムの新作は、どこを切ってもお馴染みのギター・サウンドがますます円熟味を聴かせる作品。

デビュー以来、精力的な作品リリースで80年代のダンスやファンク/ソウルに回帰したサウンドはこの人の揺るぎない路線になりました。今作でもカバー曲は80年代から、バリー・ホワイトの有名曲「It's Only Love」とジョン・ルシアンの隠れた名曲「Come with Me to Rio」という選曲にこだわりが発揮されています。

一方従来の路線からすると、今作はすこしプライベートな味わいも感じられます。タイトル曲「Sunshine of Mine」は、メロウなフュージョン・タイプの曲で、ユーナムの演奏もソフトでハートフルなムード。ネット情報によると、自身の6歳の息子にささげた曲なのだとか。どうりでアンセム的なハッピー・ムードに納得します。スロー・バラード曲「Little Dreamer」も、同じく子息への愛情を思わせる曲。

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2024年7月25日 (木)

Oli Silk 「In Real Life」(2024)

オリ・シルクの新作は、前作『6』から4年ぶりのオリジナル10曲からなるスタジオ・アルバム。

近年作で常連のマーク・ハイメス(ギター)を中心に、ベースのオレフォ・オラキュー(Orefo Orakwue)やドラムスのウェストリー・ジョセフ(Westley Joseph)らがサポートを固めた秀作。特にハイメスは全曲に参加していて要の存在です。

ゲストは、イリヤ・セーロフ(トランペット)、カール・コックス(サックス)といった新人に、ゲリー・オーナー(サックス)、キム・スコット(フルート)、マーカス・アンダーソン(サックス)といったお馴染みのベテラン勢が加わります。

2曲の歌ものにセッション・シンガーとしてのキャリアを有するふたりの女性ボーカリスト、レベッカ・ジェイド(「Looking Glass」)とシャノン・ピアソン(「In Real Life」)を迎えています。

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2024年6月28日 (金)

Blake Aaron 「Love and Rhythm」(2024)

N/Aスムーズジャズ系のトップ級ギター奏者のなかで、ノーマン・ブラウンを筆頭にニルスやアダム・ホーリー、ユー・ナムらは、テクニックもさることながらシャッフルなビートにポップなフレージングとグルーヴィーなリフをくりだすゴールデン・スタイルが共通のアーティスト。そして忘れてはいけないのがもうひとり、ブレーク・アーロンです。

ブレーク・アーロンの7枚目となる新作は、前作『Color and Passion』(2020)以降に発表したシングル曲に新曲を加えたアルバム。既発表のシングル6曲のほとんども、若干ですが尺が長めのトラックで終盤のフレージングが長めに収録されています。

プロデュースはアーロン自身に加えて、アダム・ホーリーやグレッグ・マニングが曲ごとに手がけて、演奏にはデヴィッド・マンのホーン・セクション、エリック・ヴァレンタイン(ドラム)、メル・ブラウン(ベース)ジミー・レイド(サックス)ドナルド・ハイズ(サックス)らスムーズジャズ・セッションで人気の面子が参加しています。

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