カテゴリー「ボーカル」の26件の記事

2024年3月17日 (日)

Marc Jordan 「Waiting For The Sun To Rise」(2023)

カナダのマーク・ジョーダンはキャリア40年を超えて、76歳の今も現役のシンガー・ソング・ライターです。70年代後半に人気をあつめたAOR系アーティストのひとりとして注目されました。デビュー作『Mannequin』(1978)や2作目『Blue Desert』(1979)はAOR時代を代表する必聴盤でしょう。

初期の西海岸サウンドの方向性は、以降は時代をへてロックからカントリー色に傾いても数々の良作につながり、時にはジャズ寄りのアプローチも聴かせるなど幅広い音楽性で歌作りをつづけています。

近年は、70歳をむかえて発表した『Both Sides』(2019)はポップスやスタンダードを取りあげて円熟したボーカリストの妙を発揮した作品でした。直後の『He Sang She Sang』(2022)では奥さまのエイミー・スカイと組んで王道的なデュエットで光るハーモニーを聴かせてくれました。

ちなみに『He Sang She Sang』は、カナダのグラミー賞とたとえられるジュノー賞の2022年度アダルト・コンテンポラリー・アルバム部門のノミネート作品に選ばれています(受賞はマイケル・ブーブレ『Higher』でしたが)。

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2022年9月25日 (日)

スターたちとの交遊録が面白すぎるスティーヴン・ビショップの自伝:『On And Off: An Autobiography』by Stephen Bishop(2022)

Img_4060個人的に、デビュー作以来愛聴してやまない、シンガーソングライターのスティーヴン・ビショップが初めての自伝を書き下ろしました。

いくつかの短文をあつめた章と、少し長い文章が交互に並んでいます。短文には連番がふってあり、およそ80のコラムからなっています。それぞれのエピソードは、主題も時系列もランダムでコラージュするような構成が個性的です。

サンディエゴでの少年時代、ステップ・ファザー(継父)との確執、下積みから始まる音楽業界での経験、代表的なアルバムや曲にまつわるエピソード、曲作りの流儀など、ナイーヴな心情も交えながらユーモアを絶やさないことばで語ります。

ユニークなのが、数々のセレブについての記述です。友人として交流のあるエリック・クラプトンやフィル・コリンズにはじまり、ホイットニー・ヒューストン、マイケル・ジャクソン、ケニー・ランキン、ポール・サイモン、ジェーン・フォンダ、スティーヴ・マーティン、ドナ・サマー、ジミー・ウェッブ、ランディ・ニューマン、バート・バカラックなどなど、ひろく音楽/映画業界のおよそ40人は下らないスター級有名人が登場します。

広い交友関係に加えて、自虐ネタや突飛な失敗談などたわいのないトピックスも多く、いわく「それだけのことなんだけど」とむすびます。ユーモアにあふれた語り口は、寸劇を読むような面白さです。

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2019年11月10日 (日)

Stephen Bishop 「We’ll Talk About It Later In The Car」(2019)

スティーヴン・ビショップは、長い沈黙を破って『Be Here Then』(14年)をリリースした後、ライブ盤やオリジナル・アルバム『blueprint』(16年)を続けて出すなど活発なカムバックを果たしたようだ。そんな復活を裏付けるように新作アルバムが出た。

ところで、ビショップは映画の主題歌や挿入歌を多く提供している。それらも優れた楽曲やヒット曲も多く、オリジナル・アルバムとはまた別の魅力がある。

ビショップがボーカルを担当した映画『Tootsie』(82年)の「It Might Be You」(作詞はアランとマリリン・バーグマン夫妻、作曲はデイブ・グルーシン)は、映画と共にヒットして代表曲になった。ビショップの作曲による「Separate Lives」(映画『White Nights』85年)はフィル・コリンズとマリリン・マーチンのデュエットで大ヒットした曲。ビショップの自作でボーカルも務めた「Somewhere In Between」(『The China Syndrome』79年)や、「One Love」(『Unfaithful Yours』84年)、「If Love Takes Away」(『Summer Lovers』82年)など、他多数の楽曲を残している。

オリジナル・アルバムの発表が途絶えていた期間、映画主題歌からも遠ざかっていたが、去年久しぶりに映画音楽の主題歌も発表した。

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2018年9月29日 (土)

Freddy Cole 「My Mood is You」(2018)

ジャズ・シンガー、フレディ・コールの新作。フレディ・コールは、ナット・キング・コールの実弟。ナットには、アイクとフレディの2人の弟がいる。ナット・キング・コールは、1965年に45才の若さで早逝。8才下の弟アイクも、ピアニストだったが、2001年に73才で鬼籍に入る。ナットの実娘、ナタリー・コールも、2015年に65歳で他界した。偉大な才能の早世はいつの時代も繰り返されるのだろうか。

ナットを筆頭に、多くの音楽家を輩出しているコール家の、直系のフレディ・コールは、今も現役のシンガーだ。フレディは、ナットとは12才離れていて、もうすぐ、86才を迎えるはず。キャリアは、優に60年を超える、大ベテランだ。彼の歌声に、ナットの面影を探す向きもいるのかもしれないが、小気味のいいスウィングに乗って、語りかけるような、包容力に満ちた渋い歌声は、フレディーならではの味わいだ。

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2018年6月12日 (火)

Michael Franks 「The Music In My Head」(2018)と、マイケル作品のカバー集

マイケル・フランクスの新作は、前作「Time Together」(2011 )以来、7年ぶり、通算19枚目のオリジナル作品。73歳になるマイケルだが、その歌声には年齢の衰えは感じられない。デビュー当時からのウィスパー・ボイスは健在で、枯れたと言うより円熟度が増した歌声に魅了される。

全て新曲の10曲からなる新作は、いつも通りのスタイルが、安心して浸れるマイケルの音楽世界だ。前作はもちろん、過去作品からの延長にある、ジャズやボサノバを下敷きとしたサウンドのフォーマットは鉄板のごとく変わらない。参加しているミュージシャンも、チャック・ローブ、ジミー・ハスリップ、デヴィッド・スピノザなど、マイケルとは長年に渡る仲間たちが固めていて、殊更にリラックスしたムードを作っている。

とりわけて、チャック・ローブが客演した、M1「As Long As We’re Both Together」は、必聴の1曲だ。去年早逝した、ギター奏者チャック・ローブは、長年に渡りマイケルの作品に欠かせない盟友だった。このトラックは、チャックがプロデュースして、ギター演奏をした、最後の曲となってしまった。ボッサのリズムに、流れるようなフレーズを奏でる、チャックのソフトなギターの美しいこと。

M5「To Spend The Day With You」は、女性ジャズ・ピアノ奏者レイチェルZが参加した曲。明るいボッサのメロディーは、これも常套句的なマイケル節だけれど、レイチェルZのピアノ・プレイは若々しくて、華やいだムードを演出している。M7「Where You Hid the Truth」は、かたや切ないメロディのマイナー・バラード。こういったナイーヴなメロディも、マイケルの得意とするところで、名曲の「Antonio’s Song」や「Vivaldi’s Song」といった代表曲の路線を踏襲する曲。

何年か先の次作を心待ちにして、この珠玉の10曲をじっくりと味わいたい。

 

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2018年1月13日 (土)

Christopher Cross 「Take Me As I Am」(2017)

Takemeasiamクリストファー・クロスの、デビュー作「Christoper Cross(邦題「南から来た男」)」(1979)は、彼の出世作で、最大のヒット作品、何より今でも色褪せない、AORの、いやポップスの「名作」の一枚だ。

残念ながら、彼のその後の作品は、チャート的にはそのデビュー作を超えることは無く、「Walking in Avalon」(1998)を最後に、しばらくは録音作品のリリースも無かった。そして、新曲のスタジオ録音としては、13年ぶりとなる「Doctor Faith」(2011)のリリースは嬉しい「復活」だった。その後も、ライブ録音の「A Night in Paris」(2013)、「Secret Ladder」(2014)と、再び積極的な新作のリリースの連続。もうチャートをにぎわすヒット曲は無いけれど、あのハイトーンボイスが聴けるのは嬉しい限りだ。

そして、この新作「Take Me As I Am」は、彼の「新機軸」を聴かせてくれる秀作だ。メジャーなレーベルから離れて、自身のレーベルからのリリースだからか、自由奔放で、リラックス・ムードが伝わって来る。何より、特徴は、従来のボーカル・アルバムと異なる構成だ。

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2017年1月29日 (日)

Rumer 「This Girl's In Love」(2016)

ルーマーの新作は、バート・バカラックとハル・デヴィッド作品のカバー集。ルーマーの繊細な歌声はもちろん、オーケストレーションの世界観に魅了される秀作。

オーケストレーションとプロデュースは、ロブ・シアックバリの手による。シアックバリは、ディオンヌ・ワーウィックのプロデューサーや、バカラック自身のバンドのアレンジャーやキーボード奏者を務めた人。ルーマーとは、「Into Colour」(2014)、「B-Sides & Rarities」(2015)に続くプロデュース作品。

ルーマーのパートナーでもある。シアックバリこそ、バカラック・サウンドを知り尽くした現代の表現者だろう。弦や管の情緒的なオーケストレーションは、バカラックの黄金時代を蘇らせる王道のポップス・オーケストラ。

アレンジの中核となるのは、しっとりとしたピアノ演奏で、M1「The Look of Love」や、M7「Land of Make Believe」などで聞けるピアノ・フレーズが印象に残る。取り上げている曲のオリジナルは、ほとんどがディオンヌ・ワーウィックが60年代後半に歌った曲。M2「The Balance Of Nature」、M9「Walk On By」などのワーウィックの名唄曲も、ルーマーの透明感ある歌声で新鮮な趣き。

ルーマーは、カレン・カーペンターの再来とも評価されるけれど、M5「Close To You」のスローなテンポで丁寧に歌い込む歌声は、カレンとは重ならない。落ち着いたピアノの演奏と相まって、ルーマーらしい名唄のベスト・チューン。

アルバムを通して統一感のあるサウンドと、ルーマーのささやくような歌声をリアルに記録した録音も素晴らしい。

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2016年8月27日 (土)

Stephen Bishop 「blueprint」(2016)

スティーヴン・ビショップの前作「Be Here Then」(2014)は、企画盤などを除けばおよそ20年ぶりのスタジオ作品で、長いこと待たされたファンとしては狂喜のカムバックだった。その後も、新録ライブ作品「Stephen Bishop Live」や、1989年の作品「Bowling in Paris」の再編リマスター盤の再発、アンドリュー・ゴールドの作品カバー「Thank You for Being a Friend」など、あの長い沈黙を忘れるような、積極的なリリースが続いて嬉しい限り。

そしてこの新作フルアルバム「blueprint」も、スティーヴン・ビショップらしいナイーヴな歌声と楽曲の並んだ珠玉の作品集。収められたほとんどの楽曲は、以前にデモ集などで発表していたもので、今回すべて新たなアレンジで新録音されている。アルバムタイトルは、かつての「青写真=Blueprint」の作品集というわけ。旧作品といっても、初期の作品だろう、かつての名曲を思い起こして、聴き込むごとに愛着の深まる佳作が並んでいる。

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2016年4月17日 (日)

Thierry Condor 「So Close」(2016)

ティエリー・コンドルの新作は、前作「Stuff Like That」の続編と言ってもいい、もろに、80年代の西海岸サウンドの秀作。前作でも感激したけれど、コンドルの中性的なボーカルといい、懐かしいサウンドといい、AORファンなら歓喜するに違いない。幾つかのカバー曲では、TOTOやシカゴなど、あの頃のAORサウンドを思い起こす懐かしさはもちろん。それ以上に、何とも新しさを感じるグッド・ミュージック。前作同様、プロデュースはウーズ・ウィーゼンダンガーで、この作品のサウンド・クオリティの高さは、彼によるもの。コンドルともに、スイスで活動していて、この作品が作られたというのも興味深い。

M1「Heart to Heart」は、おなじみケニー・ロギンスのヒット曲。これぞAORのクラシックと言っていい名曲。コンドルの爽快な歌声がかっこいい。M3「Deeper Than The Night」は、オリビア・ニュートン・ジョンが歌った邦題「愛の炎」。コンドルが歌えば、最高にキャッチーなAORチューン。フュージョンファンには懐かしい、聴いたらすぐに分かるサックス奏者のトム・スコットの演奏が聴けるのも涙もの。

M8「So Close」は、ディズニー映画「Enchanted(魔法にかけられて)」の挿入歌のカバー。コンドルの魅力的なボーカルと、TOTOを彷彿とするサウンドが最高。M9「Music Prayer For Peace」は、オリジナルはアーニー・ワッツの曲で、クインシー・ジョーンズがプロデュースしたアルバム「Musican」(1985)に入っているフュージョンの名曲。オリジナルのボーカルはフィル・ペリーだった。コンドルのカバー・バージョンは、彼のボーカルに加えて、Gサックスのサックス客演がかっこいい必聴曲。その他、オリジナルらしい、M3「Love Will Rise and Fall」、M6「Hard To Say Goodbye」にしても、まるでAORのクラシック曲のようだ。

収録曲12曲(1曲はバージョン違い)、すべての曲を聴けば、コンドルのボーカルと、AORの色褪せない魅力に感激するすばらしい作品。

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2015年6月20日 (土)

Shaun Escoffery 「In the Red Room」(2014)

今年のグラミー賞で最優秀新人賞他3部門を受賞した話題のシンガーといえば、サム・スミス。新人ながら、楽曲といい、歌唱力といい、評価に値する素晴らしいアーティスト。サム・スミスもいいけれど、一方で、あまり、日本のメディアでは、取り上げられないアーティスト、同じ英国のシンガー、ショウン・エスコフェリーを紹介したい。

ファルセットを多用した歌い方に共通点はあるけれど、ショウンはキャリア豊富な、骨太のソウル・シンガー。マーヴィン・ゲイを彷彿する、伝統的なソウル・シンガーの継承者。彼の、7年振りの新作「In the Red Room」は、ノリのいいダンス・ミュージックにあらず、チャートを賑わすポップス路線でもないけれど、メッセージと歌のパワーが振動する素晴らしい作品。

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