カテゴリー「ボーカル」の24件の記事

2019年11月10日 (日)

Stephen Bishop 「We’ll Talk About It Later In The Car」(2019)

スティーヴン・ビショップは、長い沈黙を破って『Be Here Then』(14年)をリリースした後、ライブ盤やオリジナル・アルバム『blueprint』(16年)を続けて出すなど活発なカムバックを果たしたようだ。そんな復活を裏付けるように新作アルバムが出た。

ところで、ビショップは映画の主題歌や挿入歌を多く提供している。それらも優れた楽曲やヒット曲も多く、オリジナル・アルバムとはまた別の魅力がある。

ビショップがボーカルを担当した映画『Tootsie』(82年)の「It Might Be You」(作詞はアランとマリリン・バーグマン夫妻、作曲はデイブ・グルーシン)は、映画と共にヒットして代表曲になった。ビショップの作曲による「Separate Lives」(映画『White Nights』85年)はフィル・コリンズとマリリン・マーチンのデュエットで大ヒットした曲。ビショップの自作でボーカルも務めた「Somewhere In Between」(『The China Syndrome』79年)や、「One Love」(『Unfaithful Yours』84年)、「If Love Takes Away」(『Summer Lovers』82年)など、他多数の楽曲を残している。

オリジナル・アルバムの発表が途絶えていた期間、映画主題歌からも遠ざかっていたが、去年久しぶりに映画音楽の主題歌も発表した。

続きを読む "Stephen Bishop 「We’ll Talk About It Later In The Car」(2019)"

| | | コメント (0)

2018年9月29日 (土)

Freddy Cole 「My Mood is You」(2018)

ジャズ・シンガー、フレディ・コールの新作。フレディ・コールは、ナット・キング・コールの実弟。ナットには、アイクとフレディの2人の弟がいる。ナット・キング・コールは、1965年に45才の若さで早逝。8才下の弟アイクも、ピアニストだったが、2001年に73才で鬼籍に入る。ナットの実娘、ナタリー・コールも、2015年に65歳で他界した。偉大な才能の早世はいつの時代も繰り返されるのだろうか。

ナットを筆頭に、多くの音楽家を輩出しているコール家の、直系のフレディ・コールは、今も現役のシンガーだ。フレディは、ナットとは12才離れていて、もうすぐ、86才を迎えるはず。キャリアは、優に60年を超える、大ベテランだ。彼の歌声に、ナットの面影を探す向きもいるのかもしれないが、小気味のいいスウィングに乗って、語りかけるような、包容力に満ちた渋い歌声は、フレディーならではの味わいだ。

続きを読む "Freddy Cole 「My Mood is You」(2018)"

| |

2018年6月12日 (火)

Michael Franks 「The Music In My Head」(2018)と、マイケル作品のカバー集

マイケル・フランクスの新作は、前作「Time Together」(2011 )以来、7年ぶり、通算19枚目のオリジナル作品。73歳になるマイケルだが、その歌声には年齢の衰えは感じられない。デビュー当時からのウィスパー・ボイスは健在で、枯れたと言うより円熟度が増した歌声に魅了される。

全て新曲の10曲からなる新作は、いつも通りのスタイルが、安心して浸れるマイケルの音楽世界だ。前作はもちろん、過去作品からの延長にある、ジャズやボサノバを下敷きとしたサウンドのフォーマットは鉄板のごとく変わらない。参加しているミュージシャンも、チャック・ローブ、ジミー・ハスリップ、デヴィッド・スピノザなど、マイケルとは長年に渡る仲間たちが固めていて、殊更にリラックスしたムードを作っている。

とりわけて、チャック・ローブが客演した、M1「As Long As We’re Both Together」は、必聴の1曲だ。去年早逝した、ギター奏者チャック・ローブは、長年に渡りマイケルの作品に欠かせない盟友だった。このトラックは、チャックがプロデュースして、ギター演奏をした、最後の曲となってしまった。ボッサのリズムに、流れるようなフレーズを奏でる、チャックのソフトなギターの美しいこと。

M5「To Spend The Day With You」は、女性ジャズ・ピアノ奏者レイチェルZが参加した曲。明るいボッサのメロディーは、これも常套句的なマイケル節だけれど、レイチェルZのピアノ・プレイは若々しくて、華やいだムードを演出している。M7「Where You Hid the Truth」は、かたや切ないメロディのマイナー・バラード。こういったナイーヴなメロディも、マイケルの得意とするところで、名曲の「Antonio’s Song」や「Vivaldi’s Song」といった代表曲の路線を踏襲する曲。

何年か先の次作を心待ちにして、この珠玉の10曲をじっくりと味わいたい。

 

続きを読む "Michael Franks 「The Music In My Head」(2018)と、マイケル作品のカバー集"

| |

2018年1月13日 (土)

Christopher Cross 「Take Me As I Am」(2017)

Takemeasiamクリストファー・クロスの、デビュー作「Christoper Cross(邦題「南から来た男」)」(1979)は、彼の出世作で、最大のヒット作品、何より今でも色褪せない、AORの、いやポップスの「名作」の一枚だ。

残念ながら、彼のその後の作品は、チャート的にはそのデビュー作を超えることは無く、「Walking in Avalon」(1998)を最後に、しばらくは録音作品のリリースも無かった。そして、新曲のスタジオ録音としては、13年ぶりとなる「Doctor Faith」(2011)のリリースは嬉しい「復活」だった。その後も、ライブ録音の「A Night in Paris」(2013)、「Secret Ladder」(2014)と、再び積極的な新作のリリースの連続。もうチャートをにぎわすヒット曲は無いけれど、あのハイトーンボイスが聴けるのは嬉しい限りだ。

そして、この新作「Take Me As I Am」は、彼の「新機軸」を聴かせてくれる秀作だ。メジャーなレーベルから離れて、自身のレーベルからのリリースだからか、自由奔放で、リラックス・ムードが伝わって来る。何より、特徴は、従来のボーカル・アルバムと異なる構成だ。

続きを読む "Christopher Cross 「Take Me As I Am」(2017)"

| |

2017年1月29日 (日)

Rumer 「This Girl's In Love」(2016)

ルーマーの新作は、バート・バカラックとハル・デヴィッド作品のカバー集。ルーマーの繊細な歌声はもちろん、オーケストレーションの世界観に魅了される秀作。

オーケストレーションとプロデュースは、ロブ・シアックバリの手による。シアックバリは、ディオンヌ・ワーウィックのプロデューサーや、バカラック自身のバンドのアレンジャーやキーボード奏者を務めた人。ルーマーとは、「Into Colour」(2014)、「B-Sides & Rarities」(2015)に続くプロデュース作品。

ルーマーのパートナーでもある。シアックバリこそ、バカラック・サウンドを知り尽くした現代の表現者だろう。弦や管の情緒的なオーケストレーションは、バカラックの黄金時代を蘇らせる王道のポップス・オーケストラ。

アレンジの中核となるのは、しっとりとしたピアノ演奏で、M1「The Look of Love」や、M7「Land of Make Believe」などで聞けるピアノ・フレーズが印象に残る。取り上げている曲のオリジナルは、ほとんどがディオンヌ・ワーウィックが60年代後半に歌った曲。M2「The Balance Of Nature」、M9「Walk On By」などのワーウィックの名唄曲も、ルーマーの透明感ある歌声で新鮮な趣き。

ルーマーは、カレン・カーペンターの再来とも評価されるけれど、M5「Close To You」のスローなテンポで丁寧に歌い込む歌声は、カレンとは重ならない。落ち着いたピアノの演奏と相まって、ルーマーらしい名唄のベスト・チューン。

アルバムを通して統一感のあるサウンドと、ルーマーのささやくような歌声をリアルに記録した録音も素晴らしい。

| |

2016年8月27日 (土)

Stephen Bishop 「blueprint」(2016)

スティーヴン・ビショップの前作「Be Here Then」(2014)は、企画盤などを除けばおよそ20年ぶりのスタジオ作品で、長いこと待たされたファンとしては狂喜のカムバックだった。その後も、新録ライブ作品「Stephen Bishop Live」や、1989年の作品「Bowling in Paris」の再編リマスター盤の再発、アンドリュー・ゴールドの作品カバー「Thank You for Being a Friend」など、あの長い沈黙を忘れるような、積極的なリリースが続いて嬉しい限り。

そしてこの新作フルアルバム「blueprint」も、スティーヴン・ビショップらしいナイーヴな歌声と楽曲の並んだ珠玉の作品集。収められたほとんどの楽曲は、以前にデモ集などで発表していたもので、今回すべて新たなアレンジで新録音されている。アルバムタイトルは、かつての「青写真=Blueprint」の作品集というわけ。旧作品といっても、初期の作品だろう、かつての名曲を思い起こして、聴き込むごとに愛着の深まる佳作が並んでいる。

続きを読む "Stephen Bishop 「blueprint」(2016)"

| |

2016年4月17日 (日)

Thierry Condor 「So Close」(2016)

ティエリー・コンドルの新作は、前作「Stuff Like That」の続編と言ってもいい、もろに、80年代の西海岸サウンドの秀作。前作でも感激したけれど、コンドルの中性的なボーカルといい、懐かしいサウンドといい、AORファンなら歓喜するに違いない。幾つかのカバー曲では、TOTOやシカゴなど、あの頃のAORサウンドを思い起こす懐かしさはもちろん。それ以上に、何とも新しさを感じるグッド・ミュージック。前作同様、プロデュースはウーズ・ウィーゼンダンガーで、この作品のサウンド・クオリティの高さは、彼によるもの。コンドルともに、スイスで活動していて、この作品が作られたというのも興味深い。

M1「Heart to Heart」は、おなじみケニー・ロギンスのヒット曲。これぞAORのクラシックと言っていい名曲。コンドルの爽快な歌声がかっこいい。M3「Deeper Than The Night」は、オリビア・ニュートン・ジョンが歌った邦題「愛の炎」。コンドルが歌えば、最高にキャッチーなAORチューン。フュージョンファンには懐かしい、聴いたらすぐに分かるサックス奏者のトム・スコットの演奏が聴けるのも涙もの。

M8「So Close」は、ディズニー映画「Enchanted(魔法にかけられて)」の挿入歌のカバー。コンドルの魅力的なボーカルと、TOTOを彷彿とするサウンドが最高。M9「Music Prayer For Peace」は、オリジナルはアーニー・ワッツの曲で、クインシー・ジョーンズがプロデュースしたアルバム「Musican」(1985)に入っているフュージョンの名曲。オリジナルのボーカルはフィル・ペリーだった。コンドルのカバー・バージョンは、彼のボーカルに加えて、Gサックスのサックス客演がかっこいい必聴曲。その他、オリジナルらしい、M3「Love Will Rise and Fall」、M6「Hard To Say Goodbye」にしても、まるでAORのクラシック曲のようだ。

収録曲12曲(1曲はバージョン違い)、すべての曲を聴けば、コンドルのボーカルと、AORの色褪せない魅力に感激するすばらしい作品。

| |

2015年6月20日 (土)

Shaun Escoffery 「In the Red Room」(2014)

今年のグラミー賞で最優秀新人賞他3部門を受賞した話題のシンガーといえば、サム・スミス。新人ながら、楽曲といい、歌唱力といい、評価に値する素晴らしいアーティスト。サム・スミスもいいけれど、一方で、あまり、日本のメディアでは、取り上げられないアーティスト、同じ英国のシンガー、ショウン・エスコフェリーを紹介したい。

ファルセットを多用した歌い方に共通点はあるけれど、ショウンはキャリア豊富な、骨太のソウル・シンガー。マーヴィン・ゲイを彷彿する、伝統的なソウル・シンガーの継承者。彼の、7年振りの新作「In the Red Room」は、ノリのいいダンス・ミュージックにあらず、チャートを賑わすポップス路線でもないけれど、メッセージと歌のパワーが振動する素晴らしい作品。

続きを読む "Shaun Escoffery 「In the Red Room」(2014)"

| |

2015年4月12日 (日)

Diana Krall 「Wallflower」(2015)

多方面で絶賛されている、ダイアナ・クラールの新作。70年代中心のヒット・ポップスを歌ったカバー集で、選曲もいいし、デヴィッド・フォスターのアレンジ、クラールのボーカル、と3拍子が揃った素晴らしい内容の秀作。

何といっても、フォスターのオーケストレーションが素晴らしい。個性の強い名曲のオリジナル・バージョンのムードをそのままに、ストリング中心のオーケストレーションで表現したアレンジメントはまるでマジックのよう。

10CCの名曲「I’m Not In Love」は、オリジナルの「シート・オブ・サウンド」が、ストリングスやピアノで表現されて、かつ室内楽のような品位もある解釈で仕上げた感動のバージョン。クラールのボーカルは、低音の魅力が輝いている。スローテンポでストリングスをバックに歌う「Superstar」は鳥肌ものだし、「Don’t Dream It’s Over」の囁くような低音の導入部、「I Can’t Tell You Why」のハスキーな歌い方、それぞれほとんどフェイクせずにオリジナルメロディーを忠実に歌うところも、かえって枯れたところも持ち合わせた、巧者なヴォーカリストであることを聴かせてくれる。

続きを読む "Diana Krall 「Wallflower」(2015)"

| |

2014年12月14日 (日)

Eric Nolan 「Mood Swing」(2014)

スムーズ・ジャズではないけれど、最近ハマっているのが、このエリック・ノーランの新作。

エリック・ノーランは、フルネームをエリック・ノーラン・グラント、1995年からオージェイズのメンバー。そもそもオージェイズは、1958年結成のグループで、オリジナル・メンバーはエディ・レヴァートとウォルター・ウィリアムズ、の二人。長い変遷を経て、メンバーもかなり変わっているけれど、今は、そのオリジナル・メンバーの二人(二人とも70歳!)と、ノーランで現役活動しているらしい。

そのノーランの新作ソロ・アルバムがこれ。オージェイズを形容したらいいのか、オールド・スクールなソウル・ボーカルの秀作。サウンドを作っているプレイヤーやバックグラウンドはわからないけれど、ノーランのスウィートなボーカルは若々しいし、なんともスムーズなムード。オールド・スクール的なソウルだけれど、最高に心地いい好盤。

ハイライトは、7分に及ぶM1「Do My Thang」。ソウル・パーティーのようなクールなMCの始まり、ファンキーなコーラスやサウンドをバックに歌う、ノーランのボーカルがかっこいい。7分があっと言う間のヴァイブレーション。この曲だけでも、スムーズ・ジャズ・ファンに聞いてほしい。M2「Reminds Me」も、スウィート・ソウルな秀曲。どこか懐かしくて、新しい、美メロのボーカルにうっとりします。M8「Give Her Your Love」は、オージェイズのウオルター・ウィリアムズがゲストでデュエットした曲。少しかすれた声のほうが、ウィリアムズ。古さなんて感じない、なんともスウィートなソウル・コーラス。M9「When You Cry」は、バラード曲。何十年も歌ってきたキャリアで、ナチュラルに歌いこなすファルセット・ボーカルが、いやあ、たまりません。

 

| |