Art Garfunkel 「The Singer」(2012)
敬愛するアート・ガーファンクルの2枚組ベストアルバム。アートのベストは、今までも数多く、今回も新曲2曲を除くと新しい音源はないのだけれど、本人が選んだ珠玉の全34曲はマストディスク。
もう71才になるらしい。最近はのどを壊したとかで、もう歌えないのではと心配していたから、このアルバムに入った新曲2曲が嬉しい。どちらの2曲も、マイア・シャープがプロデュースしたトラック。マイア・シャープは、2002年のアルバム「Everything Waits to Be Noticed」で共演したシンガー・ソング・ライター。
その新曲、「Lena」が白眉。問題を抱えた主人公、レナ。彼女の哀れみを歌う、ジーニアスなアートの歌声のなんと美しいこと。もう一曲の新曲、「Long Way Home」は、マイア・シャープの作品で、アートが彼女の作品を敬愛しているのが伝わってくる。
このベストアルバム、ポール・サイモンが去年出したベスト「The Songwriter」に答えるように、タイトルは「The Singer」、まるで対をなしているよう。CDに封入されたブックレットに映っている、小学生かと思う肩を組んだ2人の写真が微笑ましい。
全曲の解説を、アートが詩人のような文章を綴っている。良く知られた話だけれど、アートの悲しき名作「Scissors Cut」(1981)は、当時の恋人女優ローリー・バードが自殺した後の傷心の録音。このベスト盤に収録されたS&Gの「April Come She Will」へのアートのコメントには、そのローリー・バードに捧げると一言だけ書かれていて、聴いて胸が詰まる一曲。傷付けあう恋人を歌う「Scissors Cut」、アートの美しく悲しい歌声。裏ジャケの半身の女性ポートレートはあのローリーだと、当時そのレコードを買った時は知らなかった。
アートのソロワークの音源はほとんどCD化されているけれど、実はまだ1曲残っている。ジム・ウェッブの作品を歌った「Watermark」(1977)、ちなみにジャケットの海岸で幸せそうに横たわるアートの写真も、恋人だったローリーの撮影。このアルバムがオランダで先行発売された時は、「Fingerpaint」というトラックが入っていた。その後ワールドリリースの際、ポール・サイモンとジェイムス・テイラーと歌った「(What A)Wonderful World」に差し替えられてしまった。という訳で、今でも「Fingerpaint」はCD化されていないし、オリジナルの曲順の「Watermark」も再発されていない。地味な内容に、レコード会社が差し替えたらしい。ファンとしては、完璧な「Watermark」を望んでいるのだけれど。いつか出して欲しい。それと、次作はオリジナルの新作アルバムを期待。美しきアートの歌声、スムース以上。
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