Yellowjackets 「A Rise In The Road」(2013)
イエロージャケッツ、結成以来32年目のこの新作の最大の話題は、ベーシストがジミー・ハスリップから、フェリックス・パトリアスに変わったこと。フェリックスは、あの奇才ジャコ・パトリアスの息子。2012年1月に、ジミー・ハスリップとフェリックスが交代したのは、驚きのニュースであった。
いったいフェリックスはどんなベースを弾くのか、オリジナルメンバーであり30年に渡ってイエロージャケッツの要であったジミーが抜けたサウンドがどうなるのか。1年を経てやっとその現実を、この新作で耳にする事ができる。
ジャコには最初の妻との間に2人の子供がいて、2番目の妻との間に双子がいた。その双子が、ジュリアスとフェリックスで、どちらも1982年生まれだから、まだ若干31才。ジャコが35才で永眠したのは、1987年なので、彼ら双子はわずか5才の時だった。フェリックスはベーシストで、ジュリアスはドラマーとして、若い頃から演奏していたらしい。
フェリックスは、2002年からサックス奏者ジェフ・コフィンのバンドに参加していたとはいえ、イエロージャケッツ参加は「大抜擢」である。単なる「七光り」が通用するような世界ではないと思うので、フェリックスの未知の才能に、大きな期待が高まろうというものだ。
さて、その新作の新生イエロージャケッツの音とは。正直言うと、いままでのイエロージャケッツのサウンドが持っていた、スリル感、インテリジェントで構築的なコードやリズムのコンプレックス、包容力を感じる美しい旋律、といったところが、失われた、いや、すこし言い過ぎかもしれないけれど、オブラートに覆われてしまった。前作「Timeline」の緊張感に溢れたあのインタープレイを最後に、このバンドのひとつのステージが終わったのだろうか。
さて、1曲目の「When the Lady Dances」は、ビーバップ風フォービート・ジャズで幕空ける。これは、リスナーの固定観念を崩す意図もあるのかな。この演奏のフェリックスのベースラインは、忠実なフォービートを刻んでオーソドックス。M3「Can't We Elope」には、注目の若手トランぺッターのアンブローズ・アキンムシーレが参加していて、テンションを高いインプロビゼーションを披露している。
M6「Thank You」はポップなトラックで、インタープレイにスリリングなところはないが、ボブ・ミンツアーとラッセル・フェランテがリラックスして奏でるコケティッシュなインプロビゼーションが心地いいし、フェリックスのベースラインにも自己主張が感じられる。
スローバラードのM9「(You'll Know) When It's Time」は唯一、フェリックスのソロベースがフューチャーされたハイライトトラック。父親ジャコが所有していたベースを弾いているとかで、否応にも、フェリックスの演奏にリスナーはジャコの影を探してしまう。ファンとしては、このフェリックスのイエロージャケッツとしてのデビュー作を暖かく迎えて、長い目で彼の成長を追いかけていこうではないか。
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