第61回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品(2018)
2018年度、第61回グラミー賞の、「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門、ノミネート5作品が発表されました。(受賞作の発表は、2019年2月11日の予定。)
追記:受賞作は『Steve Gadd Band』下記★印
1.「The Emancipation Procrastination」Christian Scott aTunde Adjuah
クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーは、新世代ジャズ・シーン、注目のトランペッター。
ビートやハーモニーといった、既成のフォーマットを解体するかのように、ミニマルで反復するリズムと、無秩序を感じさせるインプロビゼーションが、衝撃的な作品。「ジャズの100年」をテーマにして、連続してリリースした3部作の最終作品。
アヴァンギャルドで未来的なコンセプトの中で、最後の曲「New Heros」が、フリー・ジャズに回帰して幕を閉じるのが印象的。
2. ★「Steve Gadd Band」Steve Gadd Band
名ドラマー、スティーヴ・ガッド率いるバンドの、3枚目となるスタジオ録音の新作。ガッドをリーダーとして、メンバーは、ウォルト・ファウラー(トランペット)、マイケル・ランドゥ(ギター)、ジミー・ジョンソン(ベース)と、初参加のケヴィン・ヘイズ(キーボード)という布陣。73歳(!)のガッドを筆頭に、レジェンド級プレイヤーが固めるスーパー・アンサンブル。
ヒート・アップすることはないけれど、これはレイドバックの美学で繰り出されるグルーヴです。スティーブ・ガッド・バンドとしては、第59回グラミー賞にノミネートされた「Way Back Home」に続いてのノミネート。
3.「Modern Lore」Julian Lage
ジュリアン・レイジは、新世代のジャズ・ギタリストだ。その活躍は、モダン・ジャズにとどまらず、ブルーグラスやカントリー、ロックといった分野にも及んで、独自のスタイルを進化させている人。
この新作は、ベースとドラムスを従えたトリオ編成の作品。トリオのアンサンブルは、カントリー・ミュージックのような、牧歌的な味わいも感じる。超テクでテレキャスターを駆使するレイジのギターも、ブルーグラス的なフレージングが聴けて印象的。彼のクリス・エルドリッジとのコラボ作品「Mount Royal」が、第60回グラミー賞にノミネートされたので、2年連続のノミネート。
4.「Laid Black」Marcus Miller
ベース奏者、マーカス・ミラーの、「Afrodeezia」(2015)から3年ぶりとなる新作。疾走するビート・ナンバーや、ヒップなR&Bグルーヴ、美メロのポップ・バラードに、清々しいゴスペル曲もあったりと、多彩な曲とサウンドで才能を発揮した全10曲。超重量級のベース・プレイに、ノックアウトされます。
「Afrodeezia」は、受賞は逃したが、第58回グラミー賞でノミネートされている。
5.「Protocol 4」Simon Phillips
サイモン・フィリップスは、ハード・ロック系の名ドラマーで、ザ・フーやホワイト・スネイク、ミック・ジャガー、ジェフ・ベックなどとの共演で有名。ジェフ・ポーカロの後任として、近年までTOTOの正式メンバーでもあった。初めてのソロ作品が「Protocol」(1989)で、そのタイトルを継承した4作目となる新作。
参加しているのが、グレッグ・ハウ(ギター)、デニス・ハム(キーボード)、アーネスト・ティブス(ベース)という、ロック系のプレイヤー。フィリップスの叩くロック・ビートと、ハードでパワフルなギターに、プログレッシブなキーボードが生み出すインパクトなインタープレイは、ロック・フュージョン・サウンドだ。
この数年、同部門のノミネートでは、デイヴ・コーズ、チャック・ローブ、ジェラルド・アルブライト、ネイザン・イースト、カーク・ウェイラム、といった、スムーズ・ジャズ系のアーティストが選ばれていたが、今回は、そんな愛着のある「スムーズジャズ」作品は見当たらないのが残念。クリスチャン・スコットはエッジなジャズで、ジュリアン・レイジはどちらかといえばアメリカーナ的、サイモン・フィリップスはハード・ロック。マーカス・ミラーとスティーヴ・ガッドは、馴染みがあるアーティストだけれど、硬派のフュージョン/コンテンポラリー・ジャズの路線。ジャンルや音楽性の違いがあって、比較など難しい。いずれも、オリジナリティの際立つ秀作揃いです。
私の予想する本命は、マーカス・ミラーで、大穴は、サイモン・フィリップスかな。
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