あのポップス名曲のサックスは誰だ?
数多いポップス曲の中でも、主役のシンガーよりも前奏や間奏で聴こえてきたサックスの音色に耳が釘づけになる名曲がある。
えっ、このサックスは誰?
1. スティング : 「Englishman in New York」(1987)
ソプラノ・サックスを吹いているのは、ブランフォード・マルサリス。
マルサリスは、85年ごろスティングのバンドに所属して、同曲を含む「...Nothing Like the Sun」や、「Dream of the Blue Turtle」(1985)などのアルバムに参加している。
スティングは、ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団やニューヨーク室内合奏団と共演した「Symphonicities」(2010)をリリース。そこで同曲を再録している。
そのバージョンでは、ジャズ・サックス奏者アーロン・ハイクがクラリネットを吹いている。そのアルバム企画のツアーを収めたライブ盤「Live in Berlin」(2010)があり、そちらではマルサリスが客演した同曲が聴ける。
スティングは、新作「My Songs」を近日リリース予定。そのアルバムは、過去曲をリメイクしたもので、同曲も収録予定。どんなアレンジになるのか興味深い。
2. アート・ガーファンクル : 「Mr.Shuck’ N’ Jive」(1977)
アルト・サックスは、ポール・デスモンド。 アルバム「Watermark」収録曲。
ジミー・ウェッブの曲で、オリジナルは「Letters」(1972)収録の「Catharsis(カタルシス)」という曲。ウェッブのバージョンは、ピアノ弾き語りの内省的な風合い。ガーファンクルの方は、彼のジャージーなスキャットが印象的で、デスモンドのサックスが効果的な余韻を残す上品さが際立つ名演。
デスモンドは、1977年5月に他界。この演奏が、デスモンドのラスト・レコーディングと言われている。一方、 デスモンドが客演したチェット・ベイカーのアルバム「You Can’t Go Home Again」(1977)が、ラスト・レコーディングという説もある。そのアルバムのタイトル曲での、ベイカーとデスモンドの切なくも華麗なフレージングの掛け合いは超絶品。
3. ビリー・ジョエル :「Just the Way You Are」(1977)
プロデューサーのフィル・ラモーンは、度々ウッズを起用している。ポール・サイモンのアルバム「Still Crazy After All These Years」(1975)の「Have A Good Time」。フィービー・スノウのアルバム「Never Letting Go」(1977)のタイトル曲(スティーヴン・ビショップ作)。それぞれウッズがソロを吹いている。
「New York State of Mind(ニューヨークの想い)」(1976)もサックスが印象的な曲だが、そちらのサックス奏者はリッチー・カナータ。カナータは1981年まで、ジョエルのバンドのレギュラー・メンバーで、レコーディングにも参加している。
【追記:2021/2/23】
フィル・ラモーンは自伝『Making Redords; The Scenes Behind The Music』(2007)で、フィル・ウッズの起用について言及しています。
「アルト・サックスのハスキーな音質(”throaty texture")を使いたかったんだ」と。専属テナー奏者のリッチー・カナータを不快にさせる意図など無く、「ウッズの音が必要だという直感に従ったのだ」。
カナータ本人のコメントも、「フィル・ウッズは、われわれの世代にはチャーリー・パーカーなんだ。彼の参加は光栄なことだ。おかげで、ツアーではアルト・サックスの演奏を学ぶ機会になったよ。」と、同自伝に載っています。
4. キャロル・キング:「Jazzman」(1974)
作曲はキャロル・キングで、作詞は、ボーカリストでもある、デヴィッド・パーマー。
パーマーは、スティーリー・ダンの初期のメンバーで、デビュー・アルバム「Can’t Buy A Thrill」(1972)で、リード・ボーカル/コーラスを務めた。
ジャズ・マンのモデルは誰か、というのが気になるところ。
ネット上で見つけたあるインタヴュー記事で、パーマー本人が、「(作詞の)インスピレーションは、(ジョン・)コルトレーンだった」と答えている。
一方、ウィキペディアやその他多くのネット記事では、そのジャズ・マンとはサックス奏者カーティス・エイミーというのが一般的な通説のようだが、理由は分からない。エイミーは、アルバム「It’s Too Late」(1971)のセッションで数曲に客演している。
キングと作詞したパーマーは、十代の頃から交流があった。
パーマーは、ニュージャージーのハイスクール時代、ザ・ミドル・クラス(The Myddle Class)という5人組ロック・バンドのボーカリストだった。そのバンドは、1965年に、キングとジェリー・ゴフィン夫妻がオーナーであったレコード会社(Tomorrow)から、2人のプロデュースでプロ・デビューしている。
ザ・ミドル・クラスの同僚メンバーでベース奏者、チャールズ・ラーキーは、キングがゴフィンと離婚した後の、2番目の夫である(76年に離婚)。同曲が含まれるアルバム「Wrap Around Joy」(1974)は、全12曲がパーマーの作詞で、ラーキーもセッションに参加している。
5. アル・ステュワート:「Year of The Cat」(1976)
ケンジーは、イギリス出身のサックス奏者で、セッション・プレイヤーとしてポップス/ロック系のアーティストとの共演が多い。ビートルズ、ポール・マッカトニー、ジョージ・ハリソン、ロッド・ステュワート、ポコ、アメリカ、アラン・パーソンズ・プロジェクト、イーグルスなど、70年代から現在に至るまで参加したレコーディングやステージは数え切れない。客演奏者としては知る人ぞ知る職人的なサックス奏者。
ちなみに、同曲でアコースティック・ギターを弾いているのは、20代のピーター・ホワイトである。ホワイトは、ステュワートのツアー・バンド参加を皮切りに、アルバム「Year of The Cat」のレコーディングに参加。以来20年に渡り、ステュワートの多くのアルバム録音や、曲の共作をしている。今やスムーズジャズのトップ級ギター奏者となったホワイトにとっても、記念碑的な曲。
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コメント
ありそうでなかった素敵な記事ですね!
私もクレジットでメンバーに知っている人がいるとニヤニヤしたり、好きなアーティストが参加しているアルバムや曲を見つけるとついつい入手してしまいました。
ピータホワイトを知ったのはバーシアの時からだったのでアルスチュワートからとは知りませんでした。
投稿: sugi | 2019年4月14日 (日) 18時40分
どうもありがとうございます。
いつかこの企画の続編を書いてみたいと思います。
投稿: UG | 2019年4月14日 (日) 21時15分