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2019年8月25日 (日)

ピーセス・オブ・ア・ドリームの復習

ピーセス・オブ・ア・ドリームは、故郷フィラデルフィアの学生、ジェームス・ロイド(キーボード)、カーティス・ハーモン(ドラムス)、セドリック・ナポレオン(ベース)の3人が組んだアマチュア・バンドだった。10代のバンド結成(75年)から活動は通算40年を超えて、アルバムは20作品を数える。メンバー編成や音楽性は変容を経てきたが、今でもオリジナル・メンバーのロイドとハーモンの2人で活動するスムーズジャズ界屈指のレジェンド・バンドである。

Pieces Of A Dream (1981)

アマチュア時代にバンド名はいくつかの改名を経て、最終的にそのユニークな名前に決定。ロイドが語っているところによると、その名前はサックス奏者スタンリー・タレンタインの曲「Pieces of Dreams」のスピンオフ(ひねり)で、夢(ドリーム)を実現した3人(ピーセス)という意味を込めたそうだ。

ちなみに、タレンタインは同曲をタイトルにしたアルバム(74年)をリリースしているが、同曲はカバー演奏である。オリジナルは、ミッシェル・ルグランが作曲したアメリカ映画(邦名「美しき愛のかけら」70年)の主題歌。作詞はアランとマリリン・バーグマン夫妻、歌ったのはペギー・リーで、受賞は逃したがアカデミー賞主題曲賞にノミネートされた名曲。その曲は彼らのレパートリーだったのかもしれない。

ミドル・スクールの学生だった3人は地元フィラデルフィアのテレビ・ショウのバック・バンドに抜擢される。ゲスト出演したデイヴ・ヴァンレンタインや、ジェリー・バトラー、クラーク・テリー、グローバー・ワシントン・ジュニアといったスター・ミュージシャンの伴奏を務めた。その後3人は、ある日老舗ジャズ・クラブ「ビジュー」で前座演奏をする。その時、観客で来ていたグローバー・ワシントン・ジュニアが彼らの演奏に飛び入り、「Mr.Magic」(ワシントン・ジュニアの代表曲)を共演する。ロイドが15か16歳、他2人が17か18歳だったという。ワシントン・ジュニアの『Live At The Bijou』(77年)というアルバムは、その場所「ビジュー」でのライブ盤である。

その後、彼らを気に入ったワシントン・ジュニアが、自身のプロダクションに3人をスカウトしてプロ・デビューに至る。ワシントン・ジュニア自らプロデュースしてエレクトラ・レーベルからデビュー・アルバム(81年)をリリース。この時3人はまだハイスクールの学生だった。その後もワシントン・ジュニアがプロデュースして合計3枚のアルバムをリリースした。

まさにバンド名に込めたように、弱冠10代ではなばなしくプロ・デビューに至った幸運は3人にとってまさに夢がかなったのだった。

その初期の3作品、デビュー作『Pieces of A Dream』(81年)、『We Are One』(82年)、『Imagine This』(83年)は、10代の新人とは思えない完成度の高い秀作で、今も色あせない彼らの代表作だ。ストレートなジャズ演奏から、持ち前のフィリー・ソウルのグルーヴに、ヒップな楽曲やソウルなボーカル曲ありと多彩な構成。ワシントン・ジュニアもオリジナル曲、「Touch Me In The Spring」(『Pieces of A Dream』)や、「When You Are Here With Me」(『We Are One』)を提供して、自らソプラノ・サックスで演奏しているのは聴き逃せない。

Joyride (1986)

当時、ワシントン・ジュニアは『Winelight』(80年)の大ヒットからヒット作を連発していた絶好調の時期。プロデュースにも充実した手腕を発揮した。その後、ワシントン・ジュニアがエレクトラ・レーベルを離れると同時に、3人もマンハッタン・レーベルに移籍する。

マンハッタン・レーベルから、『Joyride』(86年)、『Makes You Wanna』(88年)、『’Bout Dat Time』(89年)、『In Flight』(92年)の4作品を発表。プロデューサーに、モーリス・ホワイトやレニー・ホワイト、ジーン・グリフィン、といったファンク/ソウル界の重鎮を迎えて、この時代はファンク/ソウルのビート・バンド路線に傾倒する。ソウル・シンガーのノーウッド・ヤングを迎えた「’Bout Dat Time」は、まるでMCハマーか(!)のバリバリのダンス・チューン。

『In Flight』では、ジョージ・ロバーツなる人のプロデュースで、ファンクなビート感は残しつつ、スムーズなソウル/R&B路線に揺り戻したような佳作。サポートとして加わったロン・ケーバーのサックスが光っている。

その後ブルーノートから、『Goodbye Manhattan』(95年)、『Pieces』(97年)『Ahead To The Past』(99年)をリリース。

Goodbye Manhattan (1995)

『Goodbye Manhattan』は、引き続きジョージ・ロバーツがプロデュース。サックス奏者ロン・ケーバーが正式(?)加入した4人組となる。『In Flight』に続いてフューチャーされたケーバーのサックス演奏が主役といえる程に中心的な役割を担い、都会的でメロウなサウンドが傑出した作品となった。また、このアルバムには、96年に早逝して死後に注目された女性歌手エヴァ・キャシディーが2曲(「Goodbye Manhattan」と「Have A Little Faith」)でリード・ボーカルを務めているのも、貴重な音源である。この後ケーバーはバンドを離れるが、ジャズ歌手メロディ・ガルドーの『Worrisome Heart』(06年)でジャージーで渋い客演を披露している。

『Pieces』では5人組(キーボード奏者マイケル・ソーントン、サックス奏者エディ・バッカス)、『Ahead To The Past』では、女性ボーカリスト、マイサ・リークが加わり4人組。いずれも流動的にサポート・メンバーが加わりメンバー編成が変わった。この時代のサウンドは、クワイエット・ストームを継承して、アダルト・コンテンポラリーなR&B路線。

メンバーは変化したが、『In Flight』から『Ahead To The Past』までは、歴代の作品の中でも充実した内容の作品群だと思う。特に『Pieces』は、グルーバー・ワシントン・ジュニア、ジョージ・デューク、ジェフ・ローバー、ヒューバート・ローズなどの豪華なゲスト陣が加わり聴きどころが多い。

Soul Intent (2009)

その後、ヘッズ・アップ・レーベルに移籍するが、ナポレオンがバンドを離れて、ロイドとハーモンの2人組になる。『Acquainted With the Night』(01年)から、『Love’s Silhouette』(02年)、『No Assembly Required』(04年)、『Pillow Talk』(06年)、『Soul Intent』(09年)とコンスタントに5枚のアルバムをリリース。この時代も、サックス奏者エディ・バッカスや、女性ボーカリストのトレイシー・ハムリンといったサポート・メンバーを重用した音作り。

『Pillow Talk』からは、サックス奏者トニー・ワトソン・ジュニアが起用される。ワトソン・ジュニアは、それ以降のレコーディングの常連になって行く。音的には、洗練されたアレンジのクワイエット・ストーム路線だが、ややムード過剰なところもあるのはレコード会社の制作意図だったのだろうか。ヘッズ・アップで最後の作品『Soul Intent」では、ファンキーなバンド・アンサンブルが聴けるようになり、以降の作品に繋がってゆく。

シャナキー・レーベルに移籍して、『In The Moment』(13年)、『All In』(15年)、『Just Funkin’ Around』(17年)、そして最新作『On Another Note』(19年)をリリースする。この近年作品は、バンド演奏に回帰して、メロウなサウンドに加えて、ファンクやソウルの骨太なグルーヴを発揮して円熟した秀作が続いている。

ベスト・アルバムは、『The Best of Pieces of A Dream』(96年)がある。デビュー作から『In Flight』までの9曲と、初出らしい4曲が含まれている。ブルーノート・レーベルからは、コンピレーション・アルバム、『Sensual Embrace: The Soul Ballads』(01年)と、続編『Sensual Embrace 2』(04年)が出ている。これは、『In Flight』から『Ahead To The Past』までのバラードを中心に選曲された企画作品。抱き合うヌードの男女のジャケット写真には引いてしまうけれど。

The Best of Volume Two (2014)

最新のベスト集では、『The Best of Volume Two』(14年)がある。12曲中9曲は第1集のベスト盤とダブっているが、収録曲はリマスターされていてすこぶる音が良くなっている。ボーナス・トラックとして、グローバー・ワシントン・ジュニアの名曲「Mr.Magic」のカバー演奏(サックスはナジーが客演)が入っているのは聴き逃せない。デビュー前に、ワシントン・ジュニアと共演した思い出の曲だ。

公式にライブ盤は出ていないが、初期の演奏を収録したライブ盤がある。『In Performance At The Playboy Jazz Festival』(84年)で、82年6月に行われた「プレイボーイ・ジャズ・フェスティバル」の演奏を収めたもの。3人のトリオは「Take The A Train(A列車で行こう)」と「Pop Rock」(『We Are One』から)を演奏している。続いて彼ら3人を加えたバンドをバックにグローヴァー・ワシントン・ジュニアが「Winelight」と「Let It Flow」を演奏している。いずれもライヴならではのパワフルな演奏が聴ける貴重な音源だ。残念ながら廃盤でCDも出ていないようだが、YouTubeで見つかります。

ジェームス・ロイドは、ソロ・アルバム『Here We Go』(15年)を出している。かつてのオリジナル・メンバー、セドリック・ナポレオンもソロ『Yeasterday Today』(16年)を出している。

デビューからの3作品は、当時リアルタイムで繰り返し聴いたということもあり、私には愛聴盤だ。特に、個人的には2作目『We Are One』がベスト。それ以降の作品は、気にはなりつつ何作か聴き逃したり断片的に聴くに留まっていた。近年のシャナキーレーベル作品になってからは、しっかり追いかけている。今回、ほとんどの作品がストリーミングで聴けるので、改めて聞き直してみた。アーバンなR&Bテイストの『In Flight』、クワイエット・ストームにファンキーな熱量も加わった『Pillow Talk』、ボーカルを入れずグルーヴ主体のバンド・アンサンブルに回帰した『Soul Intent』、目立たないがいずれもなかなかの充実の秀作だと思う。近年作では『Just Funkin’ Around』のエッジの立ったグルーヴ感には唸ってしまう。

いつかオリジナル・メンバー3人での再結成を願いたい。その”ドリーム”もぜひかなえて欲しい。

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