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2019年9月16日 (月)

Scott Wilkie 「Brasil」(2019)

ポップスやジャズでは定番の企画アルバムといえば、クリスマスもしくはホリデイ・ソング集。それとブラジル曲集というのも定番だろう。キャリアを続けるアーティストは、必ずといってもいいほど、どちらかもしくはどちらも手がける。個人的にはクリスマス・アルバムというのはあまり興味がわかないが、ブラジルをテーマにした企画盤はいつでも注目している。ブラジル音楽に造詣が深い訳ではないが、ボッサ系サウンドのリラックスした開放感には理由なく惹かれてしまう。演るのが贔屓のアーティストならなおさらだ。さて今回のスコット・ウィルキーのブラジル企画作品も、すでに私の愛聴盤になった秀作。

スコット・ウィルキーは、キャリアの長いコンテンポラリー・ジャズ・ピアノ奏者。ソロ・デビュー・アルバム『Boundless』(99年)から『Studio LIVE』(17年)まで7枚のアルバムをリリースしている。自身のスタジオとレーベルを持っていて、南カリフォルニアを中心に活動している。彼のピアノは、ジョー・サンプルや、デイヴ・グルーシン、デヴィッド・ベノアら名手の系譜に通じるスタイル。デビュー当時から、ラス・フリーマン、ジェフ・カシワ、ポール・ジャクソンJR、エリック・マリエンサルといったフュージョン/コンテンポラリー・ジャズのトップ・ミュージシャンと共演して、西海岸系の爽快なサウンドが特徴だ。

ソロ8枚目となるこの新作は、新旧のブラジル楽曲を中心にした作品。ブラジル・テイストと相まって、ウィルキーと演奏陣の軽快な音楽性が際立つ素晴らしい演奏集。

ウィルキーをサポートする演奏陣は、ベース奏者ジミー・ハスリップ(元イエロージャケッツジェフ・ローバー・フュージョン)、ブラジルのギター奏者クレベール・ジョルジ(セルジオ・メンデスのサポートなど)、ドラム奏者ジェフ・オルソン。ゲストに、パーカッション奏者マルコ・ドス・サントス(この人もセルジオ・メンデスのバンド・メンバー)や、70年代から活躍するオルガン奏者ロニー・フォスター、女性ボーカリストのジョージー・ジェイムス、女性ボーカリストのダイアナ・ブッカー(フローラ・プリムとアイアート・モレイラの実娘)らが参加しているのも注目だ。

10曲中7曲がブラジル楽曲のカバー。「Mais Que Nada(マシュケナダ)」(ジョルジ・ベン)、「Eu Vim da Bahia」(ジルベルト・ジル)、「Chega de Saudade」(アントニオ・カルロス・ジョビン)のクラッシックな楽曲は鉄板とはいえ、軽快なアンサンブルが秀逸だ。「マシュケナダ」は、ウィルキーのパワフルなピアノ、ジョルジのジャージーなアコギ、ハスリップの疾走するフレージング、熱量の高いアンサンブルが聴きどころ。最後フェイドアウトするのがなんとも残念。「~Saudade」は、周知のボサノバ名曲でも、主役のウィルキーのリリカルな演奏に魅了される。

「Ainda Lembro」は、ブラジルの女性歌手マリーザ・モンチの曲(91年)で、ポップでキャッチーな曲想を上品に奏でる演奏。「Noturna」はイバン・リンスの曲(98年)で、「Only A Dream in Rio」はジェイムス・テイラーの曲(85年)。いずれも典型的なボッサやサンバに偏らず、コンテンポラリーな解釈でポップに仕上げたアンサンブルが秀逸だ。

「Burning up the Carnival」は、ジョー・サンプル『Voices In The Rain』(81年)所収おなじみの名曲。サンプルのオリジナルでボーカルを務めたジョージー・ジェイムスがコーラスで参加している。オルガン演奏はロニー・フォスター。インパクトのある8ビートのドラムのソリッドなビートが印象的で、ウィルキーのエレピとフォスターのオルガンのスリリングな交錯に惹きつけられる、ハイライトな演奏。

「Nothing Yet」は、ウィルキーのデビュー・アルバム『Boundless』(99年)収録オリジナル曲の再演。ちなみに、ウィルキーは『Boundless』(全11曲)の曲を度々再演している。『Home Again: The Solo Piano Sessions』(08年)では3曲、『Studio LIVE』(17年)では6曲、それぞれ『Boundless』からのほとんど異なる曲の再演だ。思い入れがあるデビュー作なのだろう。

ベースのハスリップも、ドラムスのオルソンも、ウィルキーの過去作品で度々サポートしてきた巧者で、息の合ったアンサンブルが活き活きとしてライブ感に溢れている。ギターのジョルジを入れたユニットがこの1枚の作品で終わるのは惜しい。続編を期待したい。

 

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