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2019年12月22日 (日)

第62回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品(2019)【追記】

【追記】2020年度受賞作は、Rodrigo y Gabriela『METTAVOLUTION』(★印)が選ばれました。(文2020/1/28)

 

グラミー賞の「コンテンポラリー・インストゥルメンタル」という部門賞は、2000年に新設されて2013年まで「ポップ・インストゥルメンタル」という賞だった。かつては、ノーマン・ブラウン、デイブ・コーズ、ジェフ・ローバー、ジェラルド・アルブライト、など他多くのスムーズ・ジャズ系のアーティストも受賞やノミネートで選ばれているのだが、この数年の傾向は、広範囲なジャンルを対象に先進的な音楽性の作品が選ばれているように思う。今年のノミネート作品は、スムーズ・ジャズは選ばれていないが、先進的という点では、いずれも素晴らしい5作品だ。
(グラミー賞について関連過去記事はこちら

1. Christian Scott aTunde Adjuah ANCESTRAL RECALL

1983年生まれのクリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーは新世代ジャズのトランペット奏者。前回の第61回グラミー賞にノミネートされた「The Emancipation Procrastination」に続いてのノミネート。

ポップスのような均整の取れた要素はほとんど現れない。アフリカン・リズムを骨格に、怒涛のようなシーツ・オブ・リズムが押し寄せる。

「songs she never heard」は、深淵の視界に触れるようなドラマチックな演奏が感動的。「ritual」では、慟哭のように迫り上がってくるフレージングのパワーに圧倒される。

2. Theo CrokerSTAR PEOPLE NATION

1985年生まれのセオ・クロッカーも新世代ジャズ・シーンで注目著しいトランペット奏者。母方の祖父はジャズ・トランペット奏者ドク・チータム(1905-1997)という家系。ニューヨークでキャリアをスタートした後、中国の上海でジャズ音楽活動をしていたという経歴もあり、2013年米国に帰国後の演奏活動でさらに注目を集めている。

この新作は、6枚目のスタジオ・アルバム。自己のバンドを従えたサウンドは、アバンギャルドな複雑性と、クールなファンク・グルーヴやハード・バップを融合させた傑作。クロッカーのトランペットはフレージングを奔放に浮遊させて、意外にも正攻法なスタイルだ。

「Subconscious Fliratations and Titilations」は、クール・ジャズへの回帰を思わせるムードに、メロディアスなトランペットのフレーズが印象的。「The Messenger」では超モードなジャズ・アンサンブルを披露する。

3. Mark GuilianaBEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!

1980年生まれのマーク・ジュリアナはドラム奏者として、ブラッド・メルドー(ピアノ)やアヴィシャイ・コーエン(ベース)などのバンドや、自身のリーダー作品など、その活躍は現代ジャズ・シーンを中心に高い評価を受けている。

新作は、自らのソロ・プロジェクトのテーマとして取り組んできた前衛的エレクトリック・ミュージックの会心作。「ビート・ミュージック」と名付けられているが、ダンスを誘発するようなビートは現れない。電子的な音を中心に、ヴォイスやノイズをコラージュして、音の属性としてのビートを際立たせているようだ。

「ROAST」のコンピューター・サウンドは、80年代のクラフトワークやYMOを思わせて、回帰性と前衛性が同居しているようで面白い。「BULLET」で登場するのは、京都駅の東海道新幹線アナウンスのコラージュで、日本のリスナーならニヤリとするはず。

音のカオスに潜り込んだビートの中毒性に魅せられる音楽。

4. Lettuce ELEVATE

注目の新世代ジャズファンク・バンド、レタスの新作。バークレー音楽大学の仲間による学生バンドを始まりとしてとして、2002年にレコード・デビュー。この新作は通算6枚目のスタジオ・アルバム。現在は、バンド創立時からの中心人物、アダム・ダイチ(dr)アダム・スミルノフ(g)らを含む6人による編成隊。ホーン・セクション、オルガン、カッティング・ギターなどを配したアタックのあるサウンドや、ソウルフルなボーカルなど、70年代のファンクそのままに回帰したようなグルーヴが持ち味。

「Royal Highness」はレトロなファンク・グルーヴど真ん中の曲。70年代のファンク・バンド、コールド・ブラッドの曲「Ready To Live」では、パワーを再注入したカバー演奏を聴かせる。「Larimari」のキレの尖ったホーン・セクションは、シカゴやチェイスのようなブラス・ロックを再構築したようだ。

レタスは、ブッカー・T・ジョーンズ、コールド・ブラッド、タワー・オブ・パワー、ザ・ヘッド・ハンターズといった先駆者達の音楽に、てらいもなく回帰する。既視感を超越したパワーはむしろ先進的で超痛快である。

5.Rodrigo y Gabriela METTAVOLUTION』★

ロドリゴ・イ・ガブリエラは、メキシコ出身の男女のアコースティック・ギター・デュオ。2001年にレコード・デビュー、キャリアは20年に及ぶ。二人のアコギだけで、ハード・ロックやヘビメタのバンドを凌駕するパワフルでスリリングな演奏が持ち味。

新作も、パーカッシブで速弾きのストロークによる重奏が驚愕な印象を残す。「Cumbe」はフラメンコ的なリズムとメロディの曲で、二人のルーツが顔を出すが、インパクトの点では、「Mettavolution」や「Terracentric」でのハード・ロックさながらの白熱した演奏が白眉だ。

過去作品では、メタリカやレッド・ツェペリンの曲もカバーしているが、今作では、ピンク・フロイドの「Echoes」をカバーしているのが注目。20分弱に及ぶドラマチックな演奏は一聴に値する。

グラミー賞の発表は、2020年1月26日。
私の予想は、本命が『METTAVOLUTION』、大穴が『Star People Nation』としておきます。

 

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