Nils Wülker 「Go」(2020)
ニルス・ヴュルカーは、1977年ドイツ・ボン生まれのジャズ・トランペット奏者です。デビューから20年近いキャリアを誇り、ドイツのジャズ関連の賞をたびたび受賞するなど、ドイツのジャズ・シーンで高い評価と人気を誇るミュージシャンです。
『High Spirits』(2002)から、11枚のソロ・アルバム(うち2枚はライブ・アルバム)を発表しています。
ヴュルカーの音楽スタイルは、アシッド・ジャズやヒップ・ホップ、エレクトロニックやハウスといった要素を解釈したフューチャー系コンテンポラリー・ジャズといえます。サウンドはアヴァンギャルド志向ですが、トランペットのソフトなフレージングが魅力になっています。
この新作は、スタジオ作品としての前作品『On』(2017)と同じラルフ・メイヤー(Ralf Christian Mayer)との共同プロデュースによる制作で、連続性がある連作ともいえます。
本作の全10曲はヴュルカー自身のオリジナル楽曲。シンセによるエレクトロニックな音像は主張過ぎず、メカニカルなリズムが繰り返されます。ギター(Arne Jansen)とドラムス(Simon Gattringer)が繰り出すループ・ビートは、機械的でありながらもオーガニックな絶品のサウンド体験です。冷却的な空間に、飛翔するヴェルカーのトランペット(曲によってフリューゲルホルン)はヒューマンな温もりを伝える演奏が個性的です。
「Highline」は、第62回グラミー賞にノミネートされたコンテンポラリー・ジャズ・トランペット奏者セオ・クロッカーをゲストに迎えたハイライト・トラック。クロッカーとのスリリングなチェイスは聴きものになっています。
「Blow Up」は、ヴュルカー自身のトランペットとフリューゲルホルンによる多重録音で作り上げられた49トラックに及ぶ多重録音で、トランペットのピストンバルブの操作音を使ったりと、ユニークな音世界を披露しています。
「Perlage」のポップな要素は、本作をポジティブに彩る演奏になっていて、新鮮な展開に惹きつけられます。
クールなサウンドは表面的にはチルアウト的なリラクシング・ムードですが、深層的なヴェルカーの演奏と音世界に引き込まれる傑作です。
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