Andreas Vollenweider 「Quiet Places」(2020)
スイスのハープ奏者アンドレアス・フォーレンヴァイダーの新作は、録音作品としては『AIR』(2009)以来およそ11年ぶりのアルバムです。
世界デビュー作『Behind the Gardens, Behind the Wall, Under the Tree...』(1981)をはじめとして、80年〜90年代にリリースした作品はジャズやニューエイジのジャンルを超えて、幅広く人気を集めました。個人的には、2作目の『Caverna Magica』(1982)はオールタイム・ベストの作品として愛聴しています。4作目『Down To The Moon』(1986)は、グラミー賞(ベスト・ニューエイジ・アルバム)を受賞して、世界的な評価を揺るぎないものにしました。
近年はヨーロッパを中心にコンサートを行なっていたようですが、アルバムのリリースは長らく実現しませんでした。今年のコロナ下5月からは、自身のウェッブ・サイトで「Live@Home」と名付けたライブ配信を始めています。スイスの自宅スタジオでのライブ演奏で、ハープはもちろん、コラと呼ばれるハープの原型とされる楽器や、クラシック・ギターの演奏も披露しています。
今回の新作は、フォーレンヴァイダーが書いた初めての小説「Venus in the Mirror」に合わせて作られた音楽です。ドイツ語で書かれた小説は、チェロを演奏するアルマンダという名の少年が主人公で、60年代のアルゼンチン・ブエノスアイレスを舞台に、少年の音楽が人々の感動を呼び起こすという内容だそうです。
さてアルバムは、フォーレンヴァイダーが、チェロ奏者イザベル・ゲーウヴァイラー(Isabel Gehweiler)とドラム/パーカッション奏者ウォルター・カイザー(Walter Keiser)を迎えた10曲が収められています。ゲーウヴァイラーは、1988年生まれのスイス・チューリッヒで活動する女性チェロ奏者です。2人の共演は、今作品が初めてとなります。カイザーは、フォーレンヴァイダーのデビュー時代から共演しているドラム奏者で、「Live@Home」での演奏にも登場しています。
演奏された10曲は、「主題に基づくインプロヴィゼーション」と名付けられています。フォーレンヴァイダーは、今回の曲作りを「メロディとリズムのアンカーポイント(基点)を大まかに決めて」自主発生的に演奏を展開したと述べています。3人のアンサンブルが共鳴し合う演奏は、美しいメロディと時に力強いサウンドに満ちています。
曲により、3人の合奏と、ゲーウヴァイラーまたはカイザーとの合奏、と組み合わせを変えています。フォーレンヴァイダーは、ハープに代えてピアノを演奏する曲もあります。
「The Pyramidians」は3人による合奏で、メランコリーな主題をフォーレンヴァイダーのハープが主導する美しい曲です。ゲーウヴァイラーのチェロも力強く印象的です。
「Come to the Quiet Place」も3人の演奏で、ハープとチェロによる幻想的でドラマチックな音世界に魅了されます。曲中のささやくヴォイス(フォーレンヴァイダー)や、ドラムのブラシ演奏が深淵な世界を演出していて惹きつけられます。
「Bella Smilling」は、フォーレンヴァイダーとカイザーのブラシ・ドラムとのデュオ演奏。オリエンタルな曲調に、ポップな要素が散りばめられたメロディー展開は、フォーレンヴァイダーの真骨頂です。
「Entangled」と「Wanderrungen」の2曲は、フォーレンヴァイダーによるピアノと、ゲーウヴァイラーのチェロとの合奏です。「Entangles」は静謐な空気感から始まり、情熱的な合奏への展開に引き込まれます。
「Sculpture」は3人が、それぞれに力強い演奏を披露する曲です。ポップな主題が印象的で、後半は情熱的に盛り上がりますが、爽快な印象を残します。
小説は、今後英語版も出る予定だそうです。日本語版が出れば、この新作に合わせて読んでみたいものです。
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