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2020年12月17日 (木)

第63回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品(2020)

第63回グラミー賞の「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門賞は、下記の5作品が候補に選ばれました。受賞作は、2021年1月31日(米国)に発表されます。(※ 記事末尾に結果を追記)

この部門の最近の傾向は、先進的ジャズやルーツ・ミュージックなどジャンルを超越した作品が選ばれています。今回もスムーズジャズのアーティストが選ばれないのは残念です。

1. Christian Scott Atunde Adjuah 『Axiom』

新世代ジャズの革新的トランペット奏者クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーが、ニューヨークのブルーノートで行ったライブの録音作品です。スコットはこの作品で、3年連続のノミネートになります。

スコットは自身の音楽を、”ストレッチ・ミュージック”と提唱しています。ジャズをルーツに、多様な音楽へ”拡張”させるというコンセプトです。この作品は、そのストレッチ・ミュージックが躍動するライブ演奏を記録しています。

炸裂するバンドのエネルギーは戦闘的、スコットのソロ演奏は慟哭的で、ハートをゆさぶられます。一方で「Songs She Never Heard」は美形のアンサンブルを展開したりと、意表をつく音像の連続です。「Sunrise in Beijing」や「Hunteress」では、バンドのメンバー、フルート奏者エレーナ・ピンダーフューズ(Elena Pinderhughes)の素晴らしいフレージングが衝撃的です。

「Guinevere」のスコットのアドリブ演奏は、同時に「ベスト・インプロバイズド・ジャズ・ソロ」部門の候補に選ばれています。

 

2. Jon Batiste 『Chronology of A Dream』

ピアノ奏者ジョン・バティステのビレッジ・バンガードでのライブ演奏。バティステは、ジャズの枠にとらわれない音楽家であり、TV番組での音楽監督や俳優、モデルとしてファッション界でも注目されるというマルチ・タレントです。

この作品は、先にリリースされていたライブ盤『Anatomy of Angeles』の続編です。「Higher」の長尺パッセージは聴きもので、技巧派ジャズ・ピアノ奏者を証明する好演。「Kenner」でのラグタイム・スタイルのソロ演奏では、オーディエンスをスイングさせるエンターテイナーの才能を発揮しています。聴き逃せないのは、ファンキーなバップ・スタイルの「Soulful」で、ジャズ・トランペット奏者ロイ・ハーグローヴ(2018年逝去)の曲のカバー演奏。バティステは10年前にハーグローヴ・クインテットのメンバーとして同曲を共演したという話を披露しています。アルバムの最後には、ハーグローヴの肉声会話を挿入する演出で、トリビュートを飾っています。

この作品と同時に、今回のグラミー賞「ベスト・ニュー・エイジ・アルバム」部門では、注目のファンク・ギター奏者、コリー・ウォンとコラボした作品『Meditations』が候補作品に選ばれています。そちらでは、アコースティック・ギターを演奏するウォンと共に、心象的で静謐な演奏(ピアノとオルガン)に徹しています。

 

3. Black Violin 『Take The Stairs』

ブラック・ヴァイオリンは、フロリダ出身のケヴィン・マーカス(ヴァイオリン)とウィルナー・バティスト(ヴィオラ)によるデュオ。ヒップ・ホップ曲を弦楽器で演奏するスタイルで人気を博しているユニットです。

2008年にアルバム・デビュー、この作品が4枚目のアルバムになります。ポスト・クラシカルとしても評価されていて、ビルボードのクラシック・チャートにも登場します。

このアルバムの半数はボーカル曲が占めますが、インストの「Showoff」や「Unbreakable」のドラマチックなヒップホップ曲が彼らの代表的なサウンドでしょう。かたや「Serenade」はクラシカルな弦楽奏を披露するなど、ハイブリッド・ヒップホップと呼ばれる音楽スタイルは言い得て妙です。

 

4. Grégoire Maret, Romain Collin & Bill Frisell 『Americana』

スイス出身のハーモニカ奏者ゴレゴア・マレが、フランス出身のピアノ奏者ロメイン・コランとギター奏者ビル・フリーゼルと組んで、アメリカのルーツ音楽をテーマに、ロマンティックなアンサンブルで作り上げた演奏作品。

マレ、コラン、フリーゼルのオリジナル曲に加えて、「Brothers in Arms」(ダイアー・ストレイツ)や「Wichita Lineman」(ジミー・ウェッブ)「Re: Stacks」(ボン・イヴェール)などをカヴァー演奏しています。3人のアンサンブルは牧歌的で、郷愁を漂わせる風景画のようです。

「Back Home」はマレのオリジナル曲で、ヒューマンな音色を紡ぐハーモニカがアメリカの荒野の景色を思わせます。テーマを代表するような「Wichita Lineman」は、美しい余韻が味わい深い好演です。

 

5. Snarky Puppy 『Live At The Royal Albert Hall』★

マイケル・リーグ(ベース)率いるスナーキー・パピーは、『Sylva』(2015)『Culcha Vulcha』(2016)など過去3度にわたりグラミー賞を受賞しています。

この作品は、2019年に行われたロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのライブ録音です。ライブに先立ってリリースされたスタジオ・アルバム、『Immigrance』からの曲目が中心の演奏。14人編成によるラージ・アンサンブルは、スピードと重量感が共存するグルーヴにあふれています。グルーヴの要は、ドラムスが主導するビートにあります。スタジオ・アルバムでは複数のドラム・ユニットが生み出すビートを、このライブではジェイソン・JT・トーマスがひとりで務めてるのが注目です。

「Xavi」の一糸乱れず疾走するドラミングは圧巻です。「Bad Kids to the Back」や「Chonks」の超タイトなドラミングこそ、このバンドの骨格であることがよくわかる演奏です。

 

さて受賞作品の予想ですが、個人的な嗜好ではジョン・バティステの『Chronology of A Dream』が最も評価したい作品です。とはいえ、本命はブラック・ヴァイオリンの『Take The Staris』としておきます。

 

 

 

※【2021/3/16 追記】第63回グラミー賞の発表は、コロナ流行の影響で、2021年3月15日に延期されて行われました。ノミネートされた上記の5作品から、最優秀賞に選ばれたのはスナーキー・パピーの『Live At The Royal Albert Hall』(★印)でした。

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