« Chris Geith 「Invisible Reality」(2021) | トップページ | Ronny Smith 「Coastal Sunset」(2021) »

2021年9月26日 (日)

Tom Braxton 「Lookin' Up」(2021)

ウェイマン・ティスデイルは、1985年から1997年までNBAで活躍したプロ・バスケットボール選手でした。音楽にも情熱を傾けて、スムーズジャズ・ベース奏者として8枚のアルバムをリリースしました。

しかし骨ガンに冒されて、右脚切断にいたる闘病のすえに2009年に還らぬ人になりました。今でも話題にのぼることが多い、スムーズジャズ・ファンの記憶に焼きついているミュージシャンです。スラップ(またはチョッパー)がトレードマークのベース奏法は、エネルギッシュなグルーヴ感に溢れています。

サックス奏者トム・ブラクストンは、長年に渡りティスデイルのサイドマンを努めました。ソロでリリースしたアルバム『Bounce』(2005)は、ティスデイルがプロデュースした作品です。ティスデイルは自作曲を提供して、ベースだけでなくギターやキーボードも演奏しています。

ブラクストンは、アルバム『Endless Highway』(2009)に「ウェイマン・ティスデイルとの思い出に捧げる」とクレジットを入れています。その中の曲「That Wayman Smile!」は、ウェイマンを思わせるスラップ・ベースをフィーチャーした演奏で、ふたりの交友関係を忍ばせる印象深い曲です。

さて、本作はブラクストンの新作で、前作『The Next Chapter』(2014)から数えておよそ7年ぶりとなるオリジナル・アルバムです。無駄な力を感じさせないサックス演奏と、暖かさの伝わる楽曲の連続はキャリアの長いベテランらしい秀作です。

冒頭を飾る「Lookin' Up」は、曲の作者キーボード奏者ハーマン・ジャクソンが参加した曲。続く「Hope For Tomorrow」はブラクストンのオリジナル曲で、ボブ・ジェイムスのピアノがフィーチャーされた曲。この2曲がハイライトで、前向きな題名と明るい曲想はパンデミックの時代のメッセージに受け取れますが、押しつけがましいところのないグルーヴで表現するところがこの人らしい好演です。

ビートルズの「Eleanor Rigby」は、ソウルフルなアレンジがユニークな必聴のカバー演奏。「How Do I live」は、女性カントリー歌手リアン・ライムスのヒット曲(1997年)のカバーで、歌い上げるようなブラクストンの吹奏に視界が広がります。

「The J Factor」は、三管のホーンセクションを従えたファンキーな演奏。朗々としたブラクストンの後ろで、テナーサックスを吹いているのは息子であるジュリアン・ブラクストンです。「Sharon's Groove」もファンキーな曲で、こちらは奥様の名前をはじめて曲名にしたそうです。本作にながれる幸福感は、そんな微笑ましい理由もあるからでしょう。

| |

« Chris Geith 「Invisible Reality」(2021) | トップページ | Ronny Smith 「Coastal Sunset」(2021) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« Chris Geith 「Invisible Reality」(2021) | トップページ | Ronny Smith 「Coastal Sunset」(2021) »