Vincent Ingala 「Fire & Desire」(2021)
サックス奏者ヴィンセント・インガラの7枚目となる新作は、賞賛の意味を込めて、ポップスのカテゴリーでも評価されるべき「ポップ・インストゥルメンタル」の傑作だと思います。
全ての演奏と作編曲を自身で手がけるスタイルはいつも通りですが、今回は徹底してワンマンで作られています。ゲストも、ウォルト・ジャクソン(トランペット)がひとりクレジットされているだけです。コロナ禍の事情でのレコーディングと想像できますが、サウンドは完成度を極めたようです。
オリジナル楽曲はどの曲も素晴らしく、ヒット・ポップスを並べたような充実のラインアップです。パレットに彩るようなゴージャスなサウンドと、軽快な質感はこの人ならでは。サックス演奏はもちろん、ギターのシャープなカッティングや、ベースのメロディアスなフレージングなど、音像の細部に耳が引きつけられます。
恒例になっているオールディーズのカバー曲は「Disco Sax」。ジャズ・サックス奏者ヒューストン・パーソンのヒット曲(1975)を、ホーン・セクションを重ねて鮮やかに蘇らせました。
「On the Move」や「Turkey Strut」も、80年代のディスコ・ミュージックをアップ・デイトしたようなグルーヴにワクワクします。クールなサックスがスイングする「Shadow Dancer」は、ブルー・アイド・ソウルの味わい。
シャウトするサックスが主役の「Fire and Desire」は、ドライヴに炸裂するギターとワイルドなパーカッションの熱量に圧倒されます。
キーボード演奏をフィーチャーした「Aftermath」では、過去作品でも聴けたポール・ハードキャスルへの心酔がストレートに込められています。
ヴィンセント・インガラのサックス演奏にとどまらないサウンド・クリエイターとしての才能が発揮された会新作です。
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