« Jay Rowe 「Groove Reflections」(2021) | トップページ | Ilya Serov 「Just Friends」(2021) »

2022年2月20日 (日)

マイケル・ブレッカーをたたえる悲しみの伝記:『Ode to a Tenor Titan:The Life and Times and Music of Michael Brecker』 by Bill Milkowski (2021)

本書は、サックス奏者マイケル・ブレッカー(1949-2007)の生涯をつづった伝記です。著者はジャズ評論家のビル・ミルコフスキー、他の著作にジャコ・パストリウスやパット・マルティーノらの伝記があります。

マイケルは闘病(骨髄白血病)の末、2007年1月13日に永遠の眠りにつきました(享年57)。

マイケルのキャリアでまず思いうかぶのは、70年代の<ドリームス>、フュージョンの先駆的バンドでした。80年代に大活躍した<ブレッカー・ブラザース>は、強烈な熱量に圧倒されたフュージョンのスター・ユニット。続く<ステップス>や<ステップス・アヘッド>は、ジャズの本流を未来的な完成度へ高めたグループでした。数々のソロ作品では、ジョン・コルトレーンのイディオムを進化させた、稀代のインプロヴァイザーとして記憶に焼きついています。

ジャズだけでなく、ポピュラー音楽で多くのアーティストの作品に印象的な客演を残しました。ジェイムス・テイラーやポール・サイモンらの楽曲で披露した、短いながらも数々の名演は忘れられません。

本書の著者は、親交のあった共演者や関係者の膨大なインタビューやマイケルが残したインタビュー記事などを引用して、レコーディングやツアーの足跡を時系列に網羅していきます。音楽的な活動に加えて、交友関係の証言から人間マイケル・ブレッカーを浮き彫りにしたところが、本書の核心でしょう。

家族や友人を大事にして、奥ゆかしくユーモアにあふれた、マイケルの愛すべき人となりがエピソードを紡いで語られます。

マイケルは80年代の初めに、常習して健康を害したヘロインなどの薬物から抜け出します。自らの意思で、5週間にわたる入院を経て薬物と決別しました。それからは、薬物に苦しむ仲間のミュージシャンに手を差し伸べて、更生をうながしたといいます。クラウス・オガーマンのオーケストラと共演した『Cityscapes』(1982)は、リハビリから復帰して録音した作品です。"クリーン"なマイケルの名演が光る名盤です。

マイケルといえば、EWI(Electronic Wind Instrument: ウインド・シンセサイザー)の名手でした。80年代中期に、それまでの長年のサックスの力奏が原因で首のヘルニアを悪化させます。演奏の負担を軽減するためにEWIを手にしますが、そのシンセサイザー楽器が生涯のトレードマークに発展することになりました。初リーダー・アルバム『Michael Brecker』(1987)で披露した(「Original Rays」での)EWI演奏は象徴的です。

92年にテナー・サックス奏者ジョー・ヘンダーソンが、マイケルを引き合いに「あいつは俺のモノマネだ」と雑誌インタビューで語ったことがありました。尊敬をしていたヘンダーソンに酷評されたことに、かなりショックを受けながらも、以降は自身のスタイルを構築していきました。

マイケルはポップやロックの世界でも超売れっ子のサイド・マンでしたが、90年からポール・サイモンの2年近くにおよぶ世界ツアー(アルバム『The Rythm of the Saints』のプロモーション)の同行は重要な契機になりました。サイモンが志向したアフリカ音楽をはじめとするワールド・ミュージックに興味を深める糸口になり、後年はブルガリア音楽に傾倒していきます。

本書のクライマックスは、遺作になった『Pilgrimage』(2007年5月リリース)にまつわる最終章です。レコーディング前の2年半は闘病のためサックス演奏から遠ざかっていたにもかかわらず、病を押しての感動的な演奏に、ハービー・ハンコックやパット・メセニーら共演者を驚かせました。マイケルがアルバムの完成ミックスにOKを出したのは、亡くなる4日前でした。胸にせまります。

巻末には、 24名におよぶ親交のあったミュージシャン(デヴィッド・サンボーン、ブランフォード・マルサリス、ジョン・マクラグリン、ボブ・ミンツァー、リッチー・バイラーク等)が追悼文を寄せています。マイケルの演奏への称賛はもとより、人柄を慕う思いに溢れていて、どの文も涙を誘います。

「知らなかった」エピソードが満載で、膨大なインタビューの引用はリアリティを際立たせます。マイケルの生涯のドキュメンタリー映画を観たような、充実した読後感が残る力作の伝記です。

| |

« Jay Rowe 「Groove Reflections」(2021) | トップページ | Ilya Serov 「Just Friends」(2021) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« Jay Rowe 「Groove Reflections」(2021) | トップページ | Ilya Serov 「Just Friends」(2021) »