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2022年4月10日 (日)

ポップス界の名プロデューサー、リチャード・ペリーの回顧録:『Cloud Nine : Memoirs of a Record Producer』by Richard Perry(2021)

リチャード・ペリーは、1970年代〜80年代に数多くのヒット・アルバムを生み出した、米国ポップス界を代表する人気プロデューサーです。本書はペリー自身による自伝で、手がけたヒット作品を中心に私生活も振り返った回顧録です。

題名の「クラウド・ナイン」とは至福をあらわす決まり文句ですが、ペリーが23歳で始めたレコード制作会社「Cloud Nine Productions」にも命名した言葉です。半世紀を超えるプロデューサー人生が、事業も私生活も成功に彩られた至福の歩みであったことを物語っているようです。

私自身個人的にも愛聴してきたニルソンの『Nilsson Schmilsson』(1971)やカーリー・サイモンの『No Secrets』(1972)、アート・ガーファンクルの『Breakaway』(1975)に加えて、バーバラ・ストライザンド、リンゴ・スター、ポインター・シスターズ、レオセイヤー、ダイアナ・ロス、ティナ・ターナー、ロッド・スチュワートらそうそうたるスター達とのレコード制作に関わるストーリーの数々に引き込まれます。

ペリーは自身のレコード・プロデューサーとしての強みを「アーティストが自分の音楽だと確信できるぴったりのマテリアルを見つけること」と記しています。オリジナル楽曲はもとよりカバー曲をヒットさせるのは、ペリーの卓越した手法といえます。

本書では、アーティスト達との交友関係や制作現場の舞台裏を明らかにしていますが、音楽論やプロデューサー論を唱えるより記憶をたどるように語る筆致に好感がわきます。

キャリアの中で、実現しなかったプロジェクトに触れているのも興味を引きます。

フランク・シナトラはいつかプロデュースしたいと願い、本人やマネージャーと交渉していたそうですがかないませんでした。シナトラに歌わせたい曲が、レオン・ラッセルの「A Song For You」でした。作者のラッセルいわく、シナトラのために書いた曲だと伝え聞いていたそうです。ペリーは「シナトラの黄金期を締めくくるのにふさわしい歌だと思っていた」と。それは70年代中頃のことで、後にレイ・チャールズに同曲を歌わせています(1993年『My World』に所収)。シナトラへのオマージュを込めたのでしょうか。

ボブ・ディランとは、90年代初めごろにスタンダード・アルバム制作の話し合いをしたそうですが結局実現しませんでした。ディランは後年、自らのプロデュースでカバー曲集『Shadows in the Night』(2015)を作りました。

ペリーは1942年生まれで、今年は80歳です。2011年のブロードウェイ・ミュージカルのオリジナル・キャスト録音盤『Baby It's You』を最後にプロデュース作品は発表していません。アーティスト作品としては、ロッド・スチュワートの『Fly Me To The Moon; The Great Americdan Songbook Vol.V』(2010)が”最新”作品です。

近況では、パーキンソン病や運動機能障害を抱えた闘病を告白しています。それでも文面からはポジティブな心もちが伝わってきます。

プロデューサー業を振り返り、「音楽プロデューサーは映画のディレクターに似ているが、レコードこそが1本の映画なのだ」と思いを表しています。

ペリーのプロデューサー復帰作品がまた聴けることを願わずにはいられません。

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