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2022年7月17日 (日)

ポップスの時代を支えたサウンドの職人ビル・シュネー:『Chairman at the Board: Recording the Soundtrack of a Generation』 by Bill Schnee(2021)

N/Aビル・シュネーは、 ポップスの黄金期代に、数々の名曲名作のレコーディングを手がけたエンジニアでありプロデューサーです。本書は、シュネー自身が50年を超える豊富なキャリアを振り返った回顧録です。

1947年生まれのシュネーは、10代からオーディオやポップス(ビーチボーイズで開眼)に熱狂して、レコーディング・エンジニアを目指します。ハリウッドの地方スタジオの下働きから始まり、レコード会社の専属エンジニアを経て、23歳でリチャード・ペリーの片腕として頭角を現しました。その後大手レコード会社や多くのポップス/R&B系アーティストのレコード制作に関わり、高い評価を獲得してきました。

レコード制作を支えたエンジニアおよびプロデューサーとして、レコーディングの現場やアーティストの横顔に触れた立場ならではの舞台裏を書き綴っています。

登場するアーティストは、スリー・ドッグ・ナイト(21歳でセカンド・アルバムのエンジニアに抜擢)、カーリー・サイモン、リンゴ・スター、マーヴィン・ゲイ(没後リリースの『Vulnerable』のミキシング)、スティーリー・ダン(『Aja』のエンジニア・チームの一員としてグラミー賞エンジニア部門賞受賞)、マイケル・ジャクソン(ジャクソンズのライブ盤『Jacksons Live!』のレコーディングとミキシング)、マーク・ノップラー(チェット・アトキンスとのデュオ・アルバム『Neck and Neck』のミキシング)など多数、ポップスの一時代を網羅する顔ぶれです。

またプロデュースを手がけた、パブロ・クルーズ(『A Place in the Sun』)、ボズ・スキャッグス(『Middle Man』)、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース(デビュー・アルバム)などは、プライベートな親交も紹介して深い思い入れが語られます。

活況を呈したレコード・ビジネスの渦中で、レコード会社の意向に左右されたり、アーティストのエゴに振り回されても、良質な仕事を重ねてきた体験談に引き込まれます。

ヒット曲やアルバム制作のエピソードの数々には興味が尽きませんが(面白い話が満載です)、光るのがシュネー自身の含蓄ある言葉です。

ミキシングを森に例えて、「たんなる木々の集まりではない、生き生きとした森をえがくようなミックスがしたい」と、こだわりを語ります。

「ミキシング・コンソールは私の楽器なのだ」と断言、「常に心がけているのは、音楽が第一で、サウンドは第二である」と繰り返す言葉に、プロとしての信念がこめられています。

本編に続く補足(とはいえかなりのページを割いて)の章では、数々のオピニオンを収録しています。

デジタル時代におけるレコーディング、ミキシングの技術論、ドラム・サウンドの重要性、クリティカル・リスニング、ボーカルの録音方法など、自ら「オタクな話しだけど」という持論を展開します。熱が帯びる筆致は、これがもっとも書きたいテーマだったのではと思わせます。

いつからか、気がつくとアルバム・クレジットのマスタリングやミキシングにこの人の名前を見つけるようになりました。私はサウンドにこだわる音楽ファンではありませんが、この人の名前が良質なサウンドを保証しているようにいくつかの愛聴盤(例えば『Middle Man』)が記憶に焼き付いています。

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