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2022年9月25日 (日)

スターたちとの交遊録が面白すぎるスティーヴン・ビショップの自伝:『On And Off: An Autobiography』by Stephen Bishop(2022)

Img_4060個人的に、デビュー作以来愛聴してやまない、シンガーソングライターのスティーヴン・ビショップが初めての自伝を書き下ろしました。

いくつかの短文をあつめた章と、少し長い文章が交互に並んでいます。短文には連番がふってあり、およそ80のコラムからなっています。それぞれのエピソードは、主題も時系列もランダムでコラージュするような構成が個性的です。

サンディエゴでの少年時代、ステップ・ファザー(継父)との確執、下積みから始まる音楽業界での経験、代表的なアルバムや曲にまつわるエピソード、曲作りの流儀など、ナイーヴな心情も交えながらユーモアを絶やさないことばで語ります。

ユニークなのが、数々のセレブについての記述です。友人として交流のあるエリック・クラプトンやフィル・コリンズにはじまり、ホイットニー・ヒューストン、マイケル・ジャクソン、ケニー・ランキン、ポール・サイモン、ジェーン・フォンダ、スティーヴ・マーティン、ドナ・サマー、ジミー・ウェッブ、ランディ・ニューマン、バート・バカラックなどなど、ひろく音楽/映画業界のおよそ40人は下らないスター級有名人が登場します。

広い交友関係に加えて、自虐ネタや突飛な失敗談などたわいのないトピックスも多く、いわく「それだけのことなんだけど」とむすびます。ユーモアにあふれた語り口は、寸劇を読むような面白さです。

「Careless」間奏の”くちまねトロンボーン”(ビショップ本人の”演奏” ※ )を聴いたクインシー・ジョーンズは本当のトロンボーン演奏だと思い、事実を知ると言葉を失ったとか。スティービー・ワンダーは、初対面で握手してわかれたあと、遠くから「On And On」を歌ってくれて感激したとか。グラミー賞のある受賞式で、となりに座ったのがふわふわと泳ぐ羽根の襟巻きの女性で、その横はジェームス・ブラウン。しばらくして大きな手で肩をつかまれて、ふりかえるとブラウンが「おい、彼女の羽根を乱すんじゃねえ」と凄まれて謝ることに。最後は、お互い映画『Blues Brothers』で共演したことがわかり笑いあったとか。などなど。( ※ ちなみに「Red Cab To Manhattan」でも”名演”が聴けます)

という具合に、主題からは脱線しているようなはなしの数々ですが、セレブについて書き残したのは「業界の敬愛するたくさんの人たちに会えた偶然に焦点を当てたかった」と説明しています。人生を語るに欠かせない出来事というわけです。

音楽キャリアについては、70年代のハリウッドでの下積み時代も語ります。リンダ・ロンシュタット、ダイアナ・ロス、ヘレン・レディ等といったスター歌手の自宅に出向いて、自作曲を歌いデモテープを置いてくる活動を重ねていたそうです。ブレークのきっかけは、1975年に友人のリア・カンケルに渡したデモテープがアート・ガーファンクルに届いて、結果『Breakaway』で2曲が採用されたことでした。「それで人生が変わったんだ」と振り返ります。

今まで650曲を超える楽曲を書いたといいます。自身を「パフォーマーというよりソング・ライターだと考えている」と断言します。それでも観衆が歌詞を歌ってくれるのに感激して、シンガーとしての意識を新たにするのだとも。

自身のアルバムについては、3作目の『Red Cab To Manhattan』(1980)をベストだと挙げています。とはいえ、プロデューサーのトミー・リピューマはジャズの人で、一方自身はポップスという違いがあり、制作ではいろいろ問題があったのだといいます。ビートルズの『サージェント・ペパーズ〜』のような作品を考えていたから、「他のプロデューサーに頼むべきだったかもしれない」と本音も明かします。

ボサノヴァ・ムードの作品『Romance In Rio(Saudade)』(2008)は、ジョアン・ジルベルトの歌い方を参考にした自信作だが、あまり話題にならなくて残念だとも。

近年は、体調を崩して入院も重ねたそうです(コロナではなかったそうですが)。現在は健康を回復して、ツアーの再開や新作にドキュメンタリー制作、長く取り組んでいる著作(『Songs in the Rough』と名付けたポップス名曲誕生についての研究書のようです)の完成など、今後の展望を述べていて、期待がふくらみます。

巻末には、アルバム・リスト(17作)や自作曲のタイトル・リスト(170曲)、代表曲24曲の歌詞が掲載されています。

ビショップは、1951年生まれなので70歳を迎えます。とくに70年代にヒット曲や名作を残してきた音楽キャリアは50年におよびます。本書は、ユニークな文才にも触れることができる貴重な伝記です。

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