Hermine Deurloo 「Splendor Takes」(2023)
ジャズ・ハーモニカのレジェンド、トゥーツ・シールマンスの亡きあと、後継者のポジションを競うように実力派のハーモニカ奏者が活躍しています。
スイスのグレゴア・マレ(Gregoire Maret)、イタリアのジョゼッペ・ミリチ(Giuseppe Milici)、フランス出身でニューヨークで活動するイヴォニック・プレン(Yvonnick Prene)らは、いずれも新作のたびにチェックを入れる人たちです。
ちなみに、ミリチの近作はエンニオ・モリコーネ楽曲集『Plays Ennio Morricone』(2021)。プレンの最新作『Listen!』(2023)は、オリジナル曲とマイルス・デイビスやシナトラのレパートリーも取り上げたジャズ・コンボでの演奏集。
さて、アムステルダム出身の女性ハーモニカ奏者ハーマイネ・デューローも、注目したいアーティストです。
デビュー作『Crazy Clock』(2005)から5枚のソロ作品を発表しているキャリアの持ち主。近年の『Riverbeast』(2019)は半数が自身のオリジナル曲で、ドラム奏者スティーヴ・ガッドも参加した力作でした。当時のツアーの様子はYouTubeで発表されています。
最新作は配信でのリリースで、2人のピアノ奏者マイク・ボッデ(Mike Boddé)とエリック・ヴェーウェイ(Erik Verway)にギター奏者エラン・ハー・エヴェン(Eran Har Even)ら3人それぞれとデュオ演奏を披露した作品です。タイトルのSpledorはアムステルダムに在るコンサート施設で、その場所でのスタジオ・ライヴ録音のようです。
3人はアムステルダムで活躍するジャズ系アーティストで、上品なインタープレイがヨーロッパ的な味わいを感じさせます。デューローの流麗でリリカルな演奏が際立ち、緊張感よりハートウォーミングなムードが漂います。選曲は、デュオ相手のオリジナル曲を中心に佳曲ぞろいで魅力を引き立てています。
マイク・ボッデはオランダで活躍するピアノ奏者/作編曲家です。かつてはコメディアンだったという異色の人。ボッデとの共演曲「Green in Between」は、オランダの作編曲家ロジャー・ヴァン・オッテルロー(Rogier van Otterloo)の楽曲。オッタールーは70年代にジャズや映画音楽で活躍した音楽家ですが29歳(1988年)で亡くなりました。同曲は初期のアルバム『Visions』(1974)の中の曲で、オリジナルではトゥーツ・シールマンスの口笛がフィーチャーされていました。デューローはリリカルなフレーズを駆使する好演を聴かせています。この選曲はシールマンスへのオマージュに違いないと想像できます。
ボッデとのもう1曲「Lullaby for a hand」は、ボッデ のアルバム『Quirky Works』(2022)に含まれているオリジナル曲。
エラン・ハー・エヴェンはイスラエル出身のジャズ・ギター奏者。共演曲「Belonging」はハー・エヴェンのアルバム『World Citizen』(2020)からのオリジナル曲。もう1曲の「Joe's Song」はカバー演奏で、同じイスラエル出身のギター奏者オフェル・ガノール(Ofer Ganor)のデビュー・アルバム『Solo Guitar』(2006)からの選曲です。
エリック・ヴェーウェイは新鋭のジャズ・ピアノ奏者です。共演曲「What Do You See」はヴェーウェイ・トリオのデビュー作『People Flow』(2020)に含まれているオリジナル曲で、映画音楽のテーマ曲を思わせる美しいバラード。もう1曲の「Mother's Lament」(これもヴェーウェイ作)では、軽快な旋律(6拍子?)を展開して、お互いのフレーズをなぞるような掛け合いが微笑ましいインタープレイです。
ヴェーウェイは自身のトリオにデューローを迎えた新作を制作しているとか。本作での息の合った演奏を聴くと、その新作の期待が大いに膨らみます。
充実した演奏集ですが6曲ではなんとも口惜しく、もっと他の演奏を聴きたくなるに違いない秀作です。
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