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2024年3月 3日 (日)

紳士の呼び名でたたえたいラムゼイ・ルイスの生涯『Gentleman of Jazz: A Life in Music』by Ramsey Lewis, with Aaron Cohen (2023)

キーボード奏者ラムゼイ・ルイスは、2022年9月12日に87年の人生に幕を閉じました。生涯にわたり故郷シカゴを拠点に70年にせまるキャリアを重ねて、80アルバムをこえるリーダー作や参加作品を残しました。

本書はルイスのオーラル・メモアール(口述回顧録)で、共著者アーロン・コーエン(Aaron Cohen)が2年以上にわたる本人へのインタビューをまとめたものです。残念なことに、ルイスは本書を手にする前に旅立ちました。多くの関係者へのインタビューも交えて、クラシックを学んだ幼少期からジャズの世界での活躍、時代ごとの作品や音楽活動を中心に、家族のことも触れて語りつくしています。

コーエン氏いわく、60/70年代のジャズ界には破天荒な音楽家が多く、波乱に満ちた人生を過ごした数々のレジェンドが歴史に刻まれています。そんな中で、ルイスは愛する家族や仲間に囲まれて地域の音楽教育にも貢献するなど、紳士的で幸福な人生を送った稀有な存在でありました。

本書の面白さはやはりルイスが明かす名盤や名演奏、共演した音楽家との交流のエピソードの数々です。

大ヒットした名盤『The In Crowd』(1965)についての誕生秘話はハイライトのひとつです。

レコーディングが行われたワシントンD.C.でのライヴの朝、朝食をとったコーヒー・ショップのジューク・ボックスから流れていたのが「The In Crowd」(オリジナルはドビー・グレイが歌ったR&B曲)でした。午後にはトリオでその曲をリハーサルしたのだそうです。ジャズにこだわらず聴衆が喜ぶ「楽しい曲」を演りたかったからだと。トリオが一体になった躍動する名演に結実したわけですが、「多くのジャズのミュージシャンは自分自身のために演奏している、われわれのトリオはそういうグループになりたくなかった」と思いがつづられています。

ジャズ演奏家にはヒット・レコードがなかった時代、1965年9月そのシングルはビルボードで14週間連続2位になり、ルイスは一挙にスターダムにのぼりました。その快挙にジャズ界では批判的な反応も多く、サックス奏者ソニー・スティットからは「ビバップもハーモニーも無い演奏だな」といわれたことをあかしています。一方で、ディジー・ガレスピーは「やりたいことをやり続けろ」と評価してくれたり、デューク・エリントンから「気に入ってるぞ」と声をかけられたことを回想しています。

同時代のビバップやハード・バップ、以降のモード・ジャズといった潮流からすると、ルイスの音楽は本流ではなかったといえます。彼こそスムーズジャズへの系譜を導いた立役者だと思いますが、自身の音楽の背景としてはクラシックと教会音楽(ゴスペル)をあげているのは興味深いところです。

モーリス・ホワイトとの交流についても印象深いストーリーが読めます。ホワイトのバックアップで生まれた『Sun Goddess』(1974)やふたりが組んだ『Urban Nights』(1995)など数々の名作は色あせない必聴盤です。

ホワイトはルイスにトリオのドラム奏者に抜擢されてキャリアをスタートしました(1966年)。3年ほどでルイスのもとを離れますがEW&Fを結成してスターになります。その後もホワイトはルイスを慕い恩返しのようにルイスのソロ作品や参加作品の制作を手がけました。ホワイトは2016年に永眠しましたが、終生にわたりルイスとの交流がありました。ホワイトをルイスの「弟子」と説明する紹介をよく目にしますが、本書からはふたりが尊敬をいだいた友情でむすばれていたことがわかります。

ホワイトについて、彼は常に静かに話を聞いてメモをよくとる青年だったと振り返ります。シャイな性格で、ドラムのセッティングでもシンバルで顔を見えないようにしていたほどだったと。ある日、彼はカリンバを持ってきて演奏をはじめたけれど、いつも聴衆から見えないように手元でカリンバを演奏していたそうです。日本でのコンサートのとき、ステージの前に出て演奏するようにルイスがうながしたそうです。ホワイトがカリンバの演奏をはじめると聴衆が静まりかえり、そのあと喝采がおきたことが忘れられないと思い出を語っています。ちなみにこの時のパフォーマンスは、1968年9月の日本公演のライブ盤『”Live”In Tokyo』に収録された「Song for My Father」で聴けます。

終章では晩年の生活を紹介して、ピアノを「バディ(相棒)」とよび「ピアノを今でも愛しているよ」と語っています。コロナ禍ではソロ演奏をビデオ配信していました。その演奏をまとめたビートルズ・ナンバーのカバー集『The Beatles Songbook』(2022)が遺作になりました。親愛な相棒のピアノと語りあうようなルイスの幸福感が伝わるラストの演奏集です。

ルイスの語りを聞くような筆致を読むにつれ、周囲のミュージシャンや家族をひきつけたメンターのような人間性に魅力を感じる伝記です。

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コメント

お久しぶりです。yama chan です。
自宅のPCが潰れてしまって、かなりの曲を失ってしまいました。
という災難でしたが…。
RAMSEY LEWIS さん、いいですよね。
好きなのですが、残念ながら2枚しか持っていません。
その1枚を聴きながら書いてます。
「Three Piece Suite」(1981)、レコードです。
ありゃりゃ全然古くない!!
当時は小生20歳でした。
サンタナ、ビリージョエル、ハービーハンコックなど、聴いてました。
このアルバムは、ゼッタイ欲しくって、当時、無理して輸入盤を買いました。
TOMTOM'84のTEMPO BROCKS というクレジットがあり懐かしいです。
さて、B面はスキップして今度は、「URBAN RENEWAL」(1989)です。これはCD。
ファンキーさがぶっちぎりですね。
当時としては最先端のジャズファンクだったような感じを持っています。
といった昔話になるのが残念です。
新しいアーティストの生きのいいジャズファンクが聴きたいです。
是非ともご紹介をお願いします。 yama chan

投稿: yama chan | 2024年3月 5日 (火) 23時59分

yama chan さん、いつもコメントありがとうございます。
ラムゼイ・ルイスの80年代は絶好調でしたね。「Three Piece Suite」もTomTom'84も懐かしいです。また聴きたくなりました!

投稿: UGASAI | 2024年3月 7日 (木) 09時08分

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