De-Phazz 「Pit Sounds」(2024)
デ・ファズはドイツで活躍するユニットで、音楽スタイルはラウンジやダウンテンポ系と形容されますが、それにとどまらないクロスオーバーな実力派バンドです。
中心人物でプロデューサーのピット・バウムガルトナー(Pit Baumgartner)が1997年にデビュー作『De-tunized Gravity』をリリースして活動を開始しました。それ以来20作以上のアルバムを発表して息の長い活動を続けています。
初期の作品はエレクトロ・サウンドが中心でしたが、次第にオーガニックなアンサンブルやボーカルを加えてラテンやレゲエ、ソウルやR&B、スイングやアシッドなジャズなど多彩な要素を消化したユニークな作品を発表しています。
作品によって異なるメンバーが起用されていますが、男性歌手カール・フリーソン(Karl Frierson)と女性歌手パット・アプルトン(Pat Appleton)がメンバーとして紹介されている情報もあります。ストリングスやモダンジャズ・コンボと共演したり、アルバムによって独創的なテーマに取り組むコレクティブなプロジェクトのようです。
今回の新作は、タイトルをザ・ビーチ・ボーイズの名盤『Pet Sounds』をもじり、自身の名前をかかげたバウムガルトナーのソロ的なプロデュース作品集。サウンドやノイズのサンプリングから、ゲストによるサックスやフリューゲルフォン、ギターやバンジョーの演奏をコラージュ・ミックスで作りあげた自作(共作含む)の12曲からなるアルバムです。
レトロなポップ・エッセンスからラウンジ的なビート・ループをちりばめた音楽センスは注目に値します。
「Cherry Golden Waters」はドイツのジャズ・サックス奏者マーカス・バーテルト(Marcus Bartelt)を、「Theme From Joo」では初期からのサポート常連フリューゲルフォン奏者ジョー・クラウス(Joo Kraus) をそれぞれフィーチャーした楽曲で、アシッドやエレクトロ・ジャズ的なアプローチでふたりの演奏が光る佳曲。
「Fellini Score」はユーモラスなコーラスが印象的な曲。 タイトルはイタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニで、フェリーニ映画の音楽を手がけたニーノ・ロータのオマージュが隠し味かもしれません。「Guru Bamboolo」は、シャッフルするビートに60年代のツイスト・ダンスがはじけるようなノリの良さにつかまれます。
ラスト曲「Silence Beyond」 は、16世紀のリュート奏者/作曲家ジョン・ダウランドの曲を脚色したという、タイムレスで上品な余韻があとを引く佳曲です。(元曲はおそらくダウランドの有名曲「I saw my lady weep」で、英語歌詞に”Silence beyond"の一節が登場します。)
ちなみに、CD裏にあるハサミを抱えたシザーハンズ(ハサミ男)を気取るバウムガルトナー本人の白黒ポートレートが印象的で、サウンドの”マスター・テイラー”というところでしょうか。過去作をじっくり聴いて掘りおこしたいバンドです。
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