カテゴリー「BOOK」の17件の記事

2025年6月 8日 (日)

スムーズジャズの誕生を証言するケニー・Gの自叙伝:『Life in the Key of G』by Kenny G(2024)

N/Aスムーズジャズを代表するスター、サックス奏者ケニー・G(本名ケネス・ゴアリック)による本書は、音楽経歴に限らず、家族や子育て、ゴルフ熱や飛行機操縦、大統領も登場する交友録、演奏家としての姿勢観や人生観もまじえて、豊富な話題を横断する自伝(共著フィリップ・ラーマン)です。屈託のない語り口(口述記録のよう)と、展開の面白さに終始引きこまれました。

音楽経歴では、アマチュアからプロにいたるキャリアの道のりから、世界各地をめぐるツアーの回顧や、自身のレコード作品については大ヒット作『Duotones』(1986)から最近作『New Standards』(2021)まで、各作品の制作秘話やヒットメーカーならではの苦楽を披露しています。

故郷シアトルでのローカル・バンドから、ジェフ・ローバーのバンド・メンバーとなり活躍したのち、スター街道を登るきっかけとなる曲「Songbird」にまつわるエピソードは特に印象に残ります。

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2025年3月20日 (木)

苦難を越えて音楽の変革を導いた発明家ボブ・モーグの伝記:『Switched On: Bob Moog and the Synthesizer Revolution』by Albert Glinsky (2022)

ロバート(ボブ)・アーサー・モーグは、シンセサイザーの父と呼ばれ、名前はその電子楽器の代名詞となり、現代の音楽に変革をもたらした貢献者といえます。

本書はボブ・モーグの伝記であり、同時に電子楽器がポップスやロックに浸透してゆく歴史をひもといた評伝です。筆者のアルバート・グリンスキー氏は音楽家で、文筆家としても、最古の電子楽器を発明したレフ・テルミンの伝記を著しています。本書の執筆には、資料やリサーチに12年の年月をかけたという労作です。

ボブ・モーグは、1934年にニューヨークのクィーンズで、ドイツからのユダヤ系移民家族のもとに生まれました。2005年に71年間の生涯を終えた人生でした。

1940年代にハムラジオの製作に熱中した自称「電子オタク」が、感銘を受けたという電子楽器テルミンを中学生で自主製作したのが原点です。

名声に反してその生涯は順風とはいえず、開発したシンセサイザーの事業経営は苦難の道を歩みました。本書の特色のひとつは、70年代から大衆化する電子楽器の盛衰と、ボブの経営者像を描いた切り口にもあり、興味深いビジネス・ストーリーとしても読めるところでしょう。

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2024年3月 3日 (日)

紳士の呼び名でたたえたいラムゼイ・ルイスの生涯:『Gentleman of Jazz: A Life in Music』by Ramsey Lewis, with Aaron Cohen (2023)

キーボード奏者ラムゼイ・ルイスは、2022年9月12日に87年の人生に幕を閉じました。生涯にわたり故郷シカゴを拠点に70年にせまるキャリアを重ねて、80アルバムをこえるリーダー作や参加作品を残しました。

本書はルイスのオーラル・メモアール(口述回顧録)で、共著者アーロン・コーエン(Aaron Cohen)が2年以上にわたる本人へのインタビューをまとめたものです。残念なことに、ルイスは本書を手にする前に旅立ちました。多くの関係者へのインタビューも交えて、クラシックを学んだ幼少期からジャズの世界での活躍、時代ごとの作品や音楽活動を中心に、家族のことも触れて語りつくしています。

コーエン氏いわく、60/70年代のジャズ界には破天荒な音楽家が多く、波乱に満ちた人生を過ごした数々のレジェンドが歴史に刻まれています。そんな中で、ルイスは愛する家族や仲間に囲まれて地域の音楽教育にも貢献するなど、紳士的で幸福な人生を送った稀有な存在でありました。

本書の面白さはやはりルイスが明かす名盤や名演奏、共演した音楽家との交流のエピソードの数々です。

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2022年9月25日 (日)

スターたちとの交遊録が面白すぎるスティーヴン・ビショップの自伝:『On And Off: An Autobiography』by Stephen Bishop(2022)

Img_4060個人的に、デビュー作以来愛聴してやまない、シンガーソングライターのスティーヴン・ビショップが初めての自伝を書き下ろしました。

いくつかの短文をあつめた章と、少し長い文章が交互に並んでいます。短文には連番がふってあり、およそ80のコラムからなっています。それぞれのエピソードは、主題も時系列もランダムでコラージュするような構成が個性的です。

サンディエゴでの少年時代、ステップ・ファザー(継父)との確執、下積みから始まる音楽業界での経験、代表的なアルバムや曲にまつわるエピソード、曲作りの流儀など、ナイーヴな心情も交えながらユーモアを絶やさないことばで語ります。

ユニークなのが、数々のセレブについての記述です。友人として交流のあるエリック・クラプトンやフィル・コリンズにはじまり、ホイットニー・ヒューストン、マイケル・ジャクソン、ケニー・ランキン、ポール・サイモン、ジェーン・フォンダ、スティーヴ・マーティン、ドナ・サマー、ジミー・ウェッブ、ランディ・ニューマン、バート・バカラックなどなど、ひろく音楽/映画業界のおよそ40人は下らないスター級有名人が登場します。

広い交友関係に加えて、自虐ネタや突飛な失敗談などたわいのないトピックスも多く、いわく「それだけのことなんだけど」とむすびます。ユーモアにあふれた語り口は、寸劇を読むような面白さです。

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2022年7月17日 (日)

ポップスの時代を支えたサウンドの職人ビル・シュネー:『Chairman at the Board: Recording the Soundtrack of a Generation』 by Bill Schnee(2021)

N/Aビル・シュネーは、 ポップスの黄金期代に、数々の名曲名作のレコーディングを手がけたエンジニアでありプロデューサーです。本書は、シュネー自身が50年を超える豊富なキャリアを振り返った回顧録です。

1947年生まれのシュネーは、10代からオーディオやポップス(ビーチボーイズで開眼)に熱狂して、レコーディング・エンジニアを目指します。ハリウッドの地方スタジオの下働きから始まり、レコード会社の専属エンジニアを経て、23歳でリチャード・ペリーの片腕として頭角を現しました。その後大手レコード会社や多くのポップス/R&B系アーティストのレコード制作に関わり、高い評価を獲得してきました。

レコード制作を支えたエンジニアおよびプロデューサーとして、レコーディングの現場やアーティストの横顔に触れた立場ならではの舞台裏を書き綴っています。

登場するアーティストは、スリー・ドッグ・ナイト(21歳でセカンド・アルバムのエンジニアに抜擢)、カーリー・サイモン、リンゴ・スター、マーヴィン・ゲイ(没後リリースの『Vulnerable』のミキシング)、スティーリー・ダン(『Aja』のエンジニア・チームの一員としてグラミー賞エンジニア部門賞受賞)、マイケル・ジャクソン(ジャクソンズのライブ盤『Jacksons Live!』のレコーディングとミキシング)、マーク・ノップラー(チェット・アトキンスとのデュオ・アルバム『Neck and Neck』のミキシング)など多数、ポップスの一時代を網羅する顔ぶれです。

またプロデュースを手がけた、パブロ・クルーズ(『A Place in the Sun』)、ボズ・スキャッグス(『Middle Man』)、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース(デビュー・アルバム)などは、プライベートな親交も紹介して深い思い入れが語られます。

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2022年4月10日 (日)

ポップス界の名プロデューサー、リチャード・ペリーの回顧録:『Cloud Nine : Memoirs of a Record Producer』by Richard Perry(2021)

N/Aリチャード・ペリーは、1970年代〜80年代に数多くのヒット・アルバムを生み出した、米国ポップス界を代表する人気プロデューサーです。本書はペリー自身による自伝で、手がけたヒット作品を中心に私生活も振り返った回顧録です。
題名の「クラウド・ナイン」とは至福をあらわす決まり文句ですが、ペリーが23歳で始めたレコード制作会社「Cloud Nine Productions」にも命名した言葉です。半世紀を超えるプロデューサー人生が、事業も私生活も成功に彩られた至福の歩みであったことを物語っているようです。

私自身個人的にも愛聴してきたニルソンの『Nilsson Schmilsson』(1971)やカーリー・サイモンの『No Secrets』(1972)、アート・ガーファンクルの『Breakaway』(1975)に加えて、バーバラ・ストライザンド、リンゴ・スター、ポインター・シスターズ、レオセイヤー、ダイアナ・ロス、ティナ・ターナー、ロッド・スチュワートらそうそうたるスター達とのレコード制作に関わるストーリーの数々に引き込まれます。

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2022年2月20日 (日)

マイケル・ブレッカーをたたえる悲しみの伝記:『Ode to a Tenor Titan:The Life and Times and Music of Michael Brecker』 by Bill Milkowski (2021)

N/A
本書は、サックス奏者マイケル・ブレッカー(1949-2007)の生涯をつづった伝記です。著者はジャズ評論家のビル・ミルコフスキー、他の著作にジャコ・パストリウスやパット・マルティーノらの伝記があります。

マイケルは闘病(骨髄白血病)の末、2007年1月13日に永遠の眠りにつきました(享年57)。

マイケルのキャリアでまず思いうかぶのは、70年代の<ドリームス>、フュージョンの先駆的バンドでした。80年代に大活躍した<ブレッカー・ブラザース>は、強烈な熱量に圧倒されたフュージョンのスター・ユニット。続く<ステップス>や<ステップス・アヘッド>は、ジャズの本流を未来的な完成度へ高めたグループでした。数々のソロ作品では、ジョン・コルトレーンのイディオムを進化させた、稀代のインプロヴァイザーとして記憶に焼きついています。

ジャズだけでなく、ポピュラー音楽で多くのアーティストの作品に印象的な客演を残しました。ジェイムス・テイラーやポール・サイモンらの楽曲で披露した、短いながらも数々の名演は忘れられません。

本書の著者は、親交のあった共演者や関係者の膨大なインタビューやマイケルが残したインタビュー記事などを引用して、レコーディングやツアーの足跡を時系列に網羅していきます。音楽的な活動に加えて、交友関係の証言から人間マイケル・ブレッカーを浮き彫りにしたところが、本書の核心でしょう。

家族や友人を大事にして、奥ゆかしくユーモアにあふれた、マイケルの愛すべき人となりがエピソードを紡いで語られます。

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2021年5月16日 (日)

“魔法”をレコーディングした名プロデューサーの生涯:『The Ballad of Tommy LiPuma』 by Ben Sidran (2020)

本書は、グラミー賞受賞5回を数える名プロデューサー、トミー・リピューマ(1936-2017)の人生と功績を振り返る評伝です。著者は、ジャズ・シンガー/ソング・ライター/プロデューサーのベン・シドラン。シドランは、自身の自伝やジャズ評論などの著作を残している文筆家でもあります。

シドランいわく、リピューマはとても良くしゃべる人だったようで、彼から聞いたはなしをまとめたそうです。シドランの筆致は簡潔で読みやすく(ただしスラングが多いです)、リピューマ自身のユーモアたっぷりの語りを聞いているようで、親密な距離感を感じる良書です。

リピューマとアーティストとの交流や、名作にまつわるストーリーは、音楽ファンにとって必読の内容です。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、ドクター・ジョン、マイルス・デイヴィス、ナタリー・コール、ダイアナ・クラール、レオン・ラッセル、ポール・マッカートニー等々といったトップ・アーティストや、盟友のエンジニア、アル・シュミット(本年4月逝去)に、レコード業界の重鎮が続々と登場して、逸話の数々が活き活きと語られます。

一方で、本書はもっと骨太い分脈にこそ読む価値があります。リピューマの人生談は、幼少期から晩年にいたるまで、映画のようにドラマチックな展開です。アメリカのレコード業界の黄金時代からの興亡は、中心人物であったリピューマの証言は貴重な内容です。

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2019年3月31日 (日)

ジョージ・ベンソンの原点を探る伝記:『Benson: The Autobiography』by George Benson (2014)

ギター奏者ジョージ・ベンソンの自伝。幼少の頃からの音楽キャリアを振り返る回顧録。共著は、音楽ジャーナリストのアラン・ゴールドシャーという人。ゴールドシャーの著作には、ゾンビーズ、アート・ブレイキー、ニルバーナといったミュージシャンをテーマにした評伝やフィクションがある。また、プロのベース奏者でもあるという。本書は、ストレートな物言いや、肩の張らない表現、リズム感のある文体で構成されていて、まるでベンソン自身の語りを聞いているような、臨場感のある伝記だ。

ベンソンがギター奏者として、70年代にCTIレーベルの諸作品で脚光を浴び、「Breezin'」(1976)の大ヒット、シンガーとしても大スターに上り詰めるのは、周知された成功物語だ。ヒット作品を連発する頃のエピソードはもちろん興味深いが、面白いのはスターになる前の若きベンソンの話。10代の頃や、新米ギター奏者としての体験、有名ミュージシャンとの交流談がとりわけ引き込まれる。

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2018年12月16日 (日)

ポール・サイモンの評伝 ③:『Homeward Bound: The Life of Paul Simon』by Peter Ames Carlin(2016)

ポール・サイモンの評伝を読んでみる「シリーズ」です。(勝手にやってるのですが)

今年出たロバート・ヒルバーン著の『Paul Simon:The Life』に先立つこと、2016年に出たこの本は、ピーター・エイムズ・カーリンという人の書いた評伝です。米国音楽雑誌「Rolling Stone」誌が毎年選んでいる、「ベスト・ミュージック・ブックス」の2016年度の1冊にも選ばれています。著者のカーリン氏は、米国の音楽ジャーナリストで、他の著作には、ブルース・スプリングスティーン、ポール・マッカートニー、ブライアン・ウィルソンについて著した各評伝があります。

この本は、ポール本人は認めていない、つまり「非公認」の評伝です。ポール自身へのインタビューも認められず、ポール・サイドからは出版に対する圧力もあったそうです。それでも、膨大な過去のインタビューや記事を掘り起こし、関係者への取材を通して、ポールの足跡を驚くほど詳細に調べ上げた力作になっています。「非公認」とはいえ、面白さは一級の評伝です。

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