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2023年1月28日 (土)

第65回(2023)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品 ②

【23/2/6付追記:受賞作はスナーキー・パピーです(下記★印)スナーキー・パピーの受賞は、第63回グラミー賞での『Live At The Royal Albert Hall』に続いて、通算5回目となります。】

過日の記事に続いて、残りのノミネート2作品を紹介します。

⚫︎『Jacob's Ladder』Brad Mehldau

 ジャズ・ピアノ奏者ブラッド・メルドーの本作は、ジャズの範疇にはおさまらないユニークなソロ作品です。
注目は、プログレッシブ・ロックの選曲です。「Jacob's Ladder」と「Tom Sawyer」は、カナダのバンド、ラッシュの楽曲。「Cogs in Cogs」は、イギリスのバンド、ジェントル・ジャイアントの曲。どちらも70年代から80年代初めに活躍したプログレッシブ・ロック系バンドの代表曲です。

メルドーはピアノに加えて各種シンセサイザーを演奏しています。シンセによるバロック的なソロ演奏もありますが、ボーカルやギターを交えて尖ったプログレッシブ・ロック・サウンドを組み立てています。イエスの「Starship Trooper」の一部や、現役プログレ/メタル・バンド、ペリフェリー(Periphery)の楽曲「Racecar」も構成に取り上げています。

メルドーのオリジナル曲「Herr und Knecht」では、ドイツ語の歌(叫び)が入りジャーマン・ヘヴィメタルな様相です。

メルドーのプログレッシブ・ロックへのオマージュといえる秀作です。

 

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2022年12月25日 (日)

2022年のベスト3+1

Tempimagetnikra

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年はメジャー・アーティストの新譜が出そろった年でした。そんな中からベストを選ぶのも至難のわざですが、毎年恒例の私的なセレクトを次のとおり紹介します。

① リック・ブラウンの『Rick Braun』は、至福の味わいが残るまさにベストな作品。華麗なストリングスに、ハート・ウォーミングなブラウンの吹奏(特にフリューゲルホルン)がたまらない。新曲10曲はベスト盤に匹敵する佳曲揃いです。”ミドル・オブ・ザ・ロード”に徹したこのサウンドこそ、ずっと聴いていたいと思わせてくれます。

② レス・サブラーの『Tranquility』は昨年のリリースでしたが、今年やっとCDを手に入れて”宝物”になったアルバム。ギブソンのジョニー・スミス・モデルを”主役”にしたコンセプトが秀逸で、サブラーのオーセンティックな演奏がたっぷり味わえます。

 

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2022年12月18日 (日)

第65回(2023)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品

第65回グラミー賞各部門のノミネート作品が発表されました。「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門では5作品がノミネートされています。
受賞発表は、来年2月6日(米国)の予定です。

● 『Between Dreaming And Joy』 Jeff Coffin

ジェフ・コフィンは、25年越えのキャリアを誇るサックス奏者。バンジョーの名手ベラ・フレックや、ロックのデイヴ・マシューズ、スナーキー・パピーらと共演など、ジャンルを超えて活躍する演奏家です。
この新作は、自作のオリジナル曲を中心に、多数の名うてミュージシャンとコレクティブ的にリモートを駆使して制作されたようです。コフィンが操る多様なリード楽器(サックス、フルート、クラリネット、メロディカなど)演奏が聴きどころです。
「Vinnie the Crow」は、ファンクのうねりにターンテーブルのスクラッチを組み入れたヒップな楽曲。「Tip the Band」でのロベン・フォードのギター・ソロも聴きどころ。「Birds & Magic」では、なんとコーラのボトル(!)を吹いています。
コフィンのクロスオーバー的な音楽性と駆動力が発揮された力作です。

 

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2021年12月30日 (木)

2021年のベスト3+1

今年紹介した作品の中から選んだ、個人的なベスト作品です。

 

 

  1. Dave Koz and Cory Wong 『The Golden Hour
  2. Tony Saunders 『All About Love
  3. JJ Sansaverino 『Cocktails & Jazz

次点 Gary Honor 『Momentum

 

世界のコロナ流行がおさまらない状況でも、多くのアーティストがリモートやワンマン演奏を駆使して作品を制作しました。

デイヴ・コーズとコリー・ウォンのコラボ作品は、貴重といえるスタジオ・ライブの熱量が沸く傑作。ウォンが指揮するサウンド・プロダクションと、コーズの弾けるサックスが有機的に共鳴した名演奏です。

いまやスムーズジャズのベース奏者は多士済々の趣きですが、トニー・サンダースはベース演奏はもとよりサウンド・プロデュースの才能に注目したいアーティストです。本作は、フロント楽器としてのベース演奏が躍動して、サウンド全体のグルーヴが発揮された充実作です。

JJサンサヴェリーノの作品は、緻密な編曲とトップ級のミュージシャンを集めて制作した才能の集積といえる作品です。バー・カクテルのコレクションをテーマにしたコンセプトも秀逸です。

ゲリー・オーナーの久しぶりの作品はリモートで制作されたようですが、グルーヴのドライブ感がリアルに迫る力作です。オーナーのパワフルなサックス演奏はテンションが上がります。

 

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2021年12月29日 (水)

第64回(2022)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品 ②

前記事に続いて、残りの2作品を紹介します。

4. Randy Brecker & Eric Marienthal『Double Dealin'』

ランディ・ブレッカー(トランペット/フリューゲルホルン)とエリック・マリエンサル(サックス)の、初めてのコラボ作品。プロデュースはジョージ・ウィッティ (キーボード)で、作曲/共作からバック・サウンドまで手掛けて本作の要になっています。数曲に、ジョン・パティトゥッチ(ベース)とデイヴ・ウェックル (ドラム)が参加しています。

マリエンサルは、チック・コリア・エレクトリック・バンドのメンバーとして80年代後半にキャリアをスタートしましたが、その時のバンド・メイトがパティトゥッチとウェックルでした。かたやウィッティは、ブレッカー・ブラザースのサポート・メンバーでした。70・80年代のフュージョン・シーンを盛り上げた顔ぶれが集まりました。

「Double Dealing'」は、ワウワウ・エフェクトのブレッカーとパワフルなマリエンサルが激突するベスト・トラック。
「Fast Lane」は、パティトゥッチとウェックルが固める鋭利なリズム・セクションと、ふたりの吹奏も尖ったインター・プレイが圧巻です。
「You Ga (Ta Give It)」は、ブレッカー・ブラザースの『Detente』(1980)に入っていた曲。ディスコ・ビート的なグルーヴに乗って、ふたりが交わすファンキーなバトルが聴きどころ。

現在進行形のスリリングなフュージョンが躍動する名演奏の作品です。

 

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2021年12月26日 (日)

第64回(2022)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品 ①

第64回(2022)グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門賞のノミネート5作品が選ばれました。下記に3作品を紹介します。残りの2作品は、後日紹介します。

受賞作は、2022年1月31日(アメリカ時間)に発表される予定です。

(2022/4/7追記)当部門賞は、Taylor Eigstiが受賞しました。下記★印

1. Rachel Eckroth『The Garden』

レイチェル・エックロスは、シンガー・ソング・ライターとしてクロス・ジャンルなソロ作品を発表しているアーティスト。ジャズにもアプローチしたのが近作『The Blackbird Sessions Vol.1』で、ご主人のベース奏者ティム・ルフェーヴル (Tim Lefebvre)とのデュオでジャズのスタンダードを歌っています。

本作は、おそらく初めてのインスト・アルバム(1曲はボーカル入り)で、全曲でキーボード演奏を披露した意欲作です。

共演するアンサンブルは、ルフェーヴルに加えて、サックス奏者ダニー・マッキャスリン(Donny McCaslin)、ギター奏者ニア・フェルダー(Nir Felder)、ドラム奏者クリスチャン・ユーマン(Christian Euman)ら、いずれも気鋭のジャズ・ミュージシャンです。

「Vines」は、4ビートのビーバップからフリーにへ展開するジャズ演奏。エックロスのエレピ演奏が聴きどころです。「The Garden」は、スリリングなインタープレイと達者なアコピが交差する個性的な佳曲。「Oil」は、プログレッシブ・ロックのようで未知の自然界をイメージさせる独特の音楽世界です。

アバンギャルドな音像と伝統的なジャズも融合して、物語性に引き込まれる魅力的な作品です。

 

 

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2021年2月21日 (日)

あのポップス名曲のサックスは誰だ?(Part 5)

1. カラパナ:「(For You)I'd chase a rainbow」(1976)

日本でも人気が高かったハワイのバンド、<カラパナ>のセカンド・アルバム収録曲です。

サックス演奏は、マイケル・パウロ(Michael Paulo)。イントロと間奏のドリーミーなフレージングが爽やかな珠玉のバラード曲です。

パウロは、セカンド・アルバムから<カラパナ>に参加したメンバーです。同じアルバムに収録されたインスト曲「Black Sand」は、パウロのエネルギッシュな吹奏が聴ける代表曲。加速してゆくスピード感のピークで登場するパウロのサックスのかっこよさは絶品です。

パウロは1979年ごろに正式メンバーを外れたようですが、2000年代の再結成にも合流しました。再結成後のスタジオ・アルバム『Blue Album』(2002)にも参加しています。最新のソロ・アルバムは、『Beautiful Day』(2018)です。

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2021年1月 9日 (土)

あのポップス名曲のサックスは誰だ?(Part 4)

1. スティーリー・ダン:「FM(No Static at All)」(1978)

間奏と終盤に入るテナー・サックスは、ジャズ・サックス奏者のピート・クリストリーブ(Pete Christlieb)です。ゾクっとするジャジーなサックスが、ミステリアスな曲想を盛り上げています。終盤のアドリブのフレージングは名演です。

映画『FM』(1978)のテーマ曲としてリリースされてヒットしましたが、スティーリー・ダンのオリジナル・アルバムには未収録の人気曲です。

アルバム『Aja』の中の 「Deacon Blues」でも、クリストリーブがソロ演奏をしています。

クリストリーブは最近、クリス・スタンドリングの『Sunlight』にゲスト参加や、デヴィッド・ガーフィールドの『Jazz Outside The Box』の「Sophisticated Lady」でもソロを吹いています。

 

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2020年12月26日 (土)

2020年のベスト3+1

今年紹介した作品の中から、個人的なベスト作品です。

1. Nils 『Caught In The Groove
2. Blake Aaron 『Color And Passion
3. BoneyJames 『Solid
+1. Four80East 『Straight Round

ニルスのぶれないスタイルが頂点を極めたこの作品、「これぞスムーズジャズ」と聴くたびにうなずく曲ばかり。テクニックをひけらかせず、自然体で駆け抜けるグルーヴが充満した演奏が爽快です。

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2020年12月17日 (木)

第63回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」ノミネート作品(2020)

第63回グラミー賞の「ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門賞は、下記の5作品が候補に選ばれました。受賞作は、2021年1月31日(米国)に発表されます。(※ 記事末尾に結果を追記)

この部門の最近の傾向は、先進的ジャズやルーツ・ミュージックなどジャンルを超越した作品が選ばれています。今回もスムーズジャズのアーティストが選ばれないのは残念です。

1. Christian Scott Atunde Adjuah 『Axiom』

新世代ジャズの革新的トランペット奏者クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーが、ニューヨークのブルーノートで行ったライブの録音作品です。スコットはこの作品で、3年連続のノミネートになります。

スコットは自身の音楽を、”ストレッチ・ミュージック”と提唱しています。ジャズをルーツに、多様な音楽へ”拡張”させるというコンセプトです。この作品は、そのストレッチ・ミュージックが躍動するライブ演奏を記録しています。

炸裂するバンドのエネルギーは戦闘的、スコットのソロ演奏は慟哭的で、ハートをゆさぶられます。一方で「Songs She Never Heard」は美形のアンサンブルを展開したりと、意表をつく音像の連続です。「Sunrise in Beijing」や「Hunteress」では、バンドのメンバー、フルート奏者エレーナ・ピンダーフューズ(Elena Pinderhughes)の素晴らしいフレージングが衝撃的です。

「Guinevere」のスコットのアドリブ演奏は、同時に「ベスト・インプロバイズド・ジャズ・ソロ」部門の候補に選ばれています。

 

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