カテゴリー「キーボード」の83件の記事

2024年10月13日 (日)

Dan Siegel 「Unity」(2024)

キーボード奏者ダン・シーゲルは、80〜90年代には毎年ほぼ途切れなくアルバムをリリースして、人気を裏づける活躍でした。2000年代に入りペースは落ちたとはいえ、コンスタントに録音作品を発表する活動を続けています。

いまも制作意欲のおとろえを見せない、おそらく70歳をむかえて発表する新作です。全9曲オリジナル曲が並び、シーゲルのピアノ(オルガンも)がゆったりと動きまわる充実作です。

前作『Faraway Places』はコロナ禍でのリモート・セッション作品で、構築的なアレンジメントのサウンドによる良作でした。今作はライブ感もつたわる、リアルなノリを打ちだした本領発揮の演奏集。

リズム・セクションは、デヴィッド・ジンヤード(ベース)とオスカー・シートン(ドラムス)が全曲でつとめていますが、表情豊かなシートンのドラム演奏はすばらしいです。曲ごとに複数のギター奏者、ロブ・ベーコンやアレン・ハインズ、マイク・ミラー、ディーン・パークスら、またブラス・セクション(トム・スコットなど)も加わりますが、いずれもひかえめなサポートでシーゲルの鍵盤演奏をひきたてています。

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2024年7月25日 (木)

Oli Silk 「In Real Life」(2024)

オリ・シルクの新作は、前作『6』から4年ぶりのオリジナル10曲からなるスタジオ・アルバム。

近年作で常連のマーク・ハイメス(ギター)を中心に、ベースのオレフォ・オラキュー(Orefo Orakwue)やドラムスのウェストリー・ジョセフ(Westley Joseph)らがサポートを固めた秀作。特にハイメスは全曲に参加していて要の存在です。

ゲストは、イリヤ・セーロフ(トランペット)、カール・コックス(サックス)といった新人に、ゲリー・オーナー(サックス)、キム・スコット(フルート)、マーカス・アンダーソン(サックス)といったお馴染みのベテラン勢が加わります。

2曲の歌ものにセッション・シンガーとしてのキャリアを有するふたりの女性ボーカリスト、レベッカ・ジェイド(「Looking Glass」)とシャノン・ピアソン(「In Real Life」)を迎えています。

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2024年5月26日 (日)

Sean U 「XLR8」(2024)

注目株のキーボード奏者ショーン・U(Sean Uliasz)の新作フル・アルバムです。

過去作品にSean Uliasz名義の『Just Before Midnight』(2008)がありますが、おそらく学生時代のプライベート・リリースでしょう。残念ながらネットでも音源は見つかりませんでした。

その後、24歳ごろ(らしい)に5曲入りミニ・アルバム『Electrify』(2016)をリリース。アコースティック・ピアノを主体に、ブライアン・カルバートソンを思わせるエレガントな演奏の秀作です。

自身のバンドでの活動が中心のようですが、サイド・マンとしてブレイク・アーロン、ポーラ・アサートンらのサポートや、トランペット奏者ロブ・ジンの新作にも客演しています。

近年は、精力的にシングル曲を発表して、そのキャッチーな作風を注目していました。今回のアルバムは既発表曲をまとめた構成で、粒揃いの佳曲でかためた充実作です。

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2024年3月24日 (日)

Erik Verwey & Hermine Deurloo 「About A Home」(2023)

オランダのハーモニカ奏者ハーマイネ・デューローの新作は、ピアノ奏者エリック・ヴェーウェイのトリオに加わりスタジオ録音した演奏集。他メンバーは、ドイツ出身のベース奏者ヘンドリック・ミュラー(Hendrik Müller)とドラム奏者ダニエル・ヴァン・ダレン(Daniel Van Dalen)。

カヴァー1曲をのぞく全10曲はヴェーウェイによる作曲。ヴェーウェイは、映像作品の作曲やクラブなどでの演奏でキャリアをつんだ音楽家です。自身がリーダーのトリオは、今作と同じメンバーでデビュー作『People Flow』(2019)を発表。そのアルバムを聴いてデューローが今回の共演を呼びかけたそうです。

先に出ていたデューローの『Splendor Takes』で、ヴェーウェイをむかえてデュオ2曲を披露していました。その2曲(「What Do You See」と「Mother’s Lament」)は、本アルバムでも新しいテイクで収録されています。

ヴェーウェイの楽曲はシャンソンやタンゴの味わいもある多様な曲が並んで、作曲の才能も光ります。相性のよさを発揮したふたりの上品なインタープレイに引きこまれます。

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2024年3月 3日 (日)

紳士の呼び名でたたえたいラムゼイ・ルイスの生涯『Gentleman of Jazz: A Life in Music』by Ramsey Lewis, with Aaron Cohen (2023)

キーボード奏者ラムゼイ・ルイスは、2022年9月12日に87年の人生に幕を閉じました。生涯にわたり故郷シカゴを拠点に70年にせまるキャリアを重ねて、80アルバムをこえるリーダー作や参加作品を残しました。

本書はルイスのオーラル・メモアール(口述回顧録)で、共著者アーロン・コーエン(Aaron Cohen)が2年以上にわたる本人へのインタビューをまとめたものです。残念なことに、ルイスは本書を手にする前に旅立ちました。多くの関係者へのインタビューも交えて、クラシックを学んだ幼少期からジャズの世界での活躍、時代ごとの作品や音楽活動を中心に、家族のことも触れて語りつくしています。

コーエン氏いわく、60/70年代のジャズ界には破天荒な音楽家が多く、波乱に満ちた人生を過ごした数々のレジェンドが歴史に刻まれています。そんな中で、ルイスは愛する家族や仲間に囲まれて地域の音楽教育にも貢献するなど、紳士的で幸福な人生を送った稀有な存在でありました。

本書の面白さはやはりルイスが明かす名盤や名演奏、共演した音楽家との交流のエピソードの数々です。

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2024年2月17日 (土)

Jayson Tipp 「Table For One」(2023)

1992年に結成されたアンダー・ザ・レイク(UTL)は、長期のブランクやメンバー変更をへて現役で活動する5人組ユニットです。ラフでソリッドな音が魅力で、スリル感をともなうエネルギッシュなアンサンブルです。

近年作品の『Your Horizon Too』(2020)や『Old Friends, New Groove』(2021)は、その持ち味に磨きをかけた秀作です。

今回、オリジナル・メンバーであり中心人物のキーボード奏者ジェイソン・ティップが、キャリア初のソロ・アルバムをリリースしました。

UTLではサックスとギターがフロントをになう演奏曲が多く、リーダー的存在とはいえティップは主にエレピやオルガンでサイドを固めている印象でした。本作ではほぼ全曲アコースティック・ピアノを披露して、今までの印象をいい意味でくつがえしています。

ティップの自作(共作も)によるどの楽曲も明るく、ポップな味つけもあり好感度がグッと上がる会新作になりました。

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2024年1月20日 (土)

Justin-Lee Schultz 「Just In The Moment」(2023)

南アフリカ出身のキーボード/ギターなどマルチ楽器奏者ジャスティン・リー・シュルツは、13歳にしてリリースしたデビュー作が話題になった注目のアーティストです。

デビュー作『Gruv Kid』(2020)は、ボブ・ジェイムス、ジョナサン・バトラー、ナジー、ジェラルド・アルブライト、ピーセズ・オブ・ア・ドリームなど豪華なゲストとの共演にも臆せず奔放に才能を発揮した充実作でした。

ソロ名義2作目となる本作は、ほぼ全曲がジャスティン自身のオリジナル楽曲で、半数以上の曲では4歳年上の実姉ジェイミー・レイ・シュルツによるドラム演奏以外の全ての楽器(鍵盤、ギター、ベース等)をこなしたワンマン・サウンドで作り上げています。その他は、ポール・ブラウンがひきいるバンド・アンサンブルで、デイヴ・コーズやリチャード・エリオットも客演した演奏です。

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2023年10月 2日 (月)

Brian Simpson 「Soul Connection」(2023)

ブライアン・シンプソンの新作は、聴きなれたはずのピアノの音粒が新鮮で、ナイーヴなタッチにためいきが出る充実作です。

ブライアン自身の単独プロデュースによる今作は、共作を含む自作曲を中心に、サポートは近作で常連のアレックス・アル(ベース)マイケル・ホワイト(ドラムス)レイモン・イスラス(パーカッション) アダム・ホーリー(ギター)レイ・フラー(ギター)ヤロー・レヴィー(ギター)らがそつのないサウンドを固めています。

注目は、過去作品でも客演していたサックス奏者スティーヴ・アラニーズ(Steve Alaniz)を半数以上の曲で起用していることです。

アラニーズは南カリフォルニア出身の、ジャズやポップスのセッションマンとして活躍してきたサックス(フルートも)奏者で、TVや映画音楽、音楽教育にも携わっている音楽家です。ソロ作品は無いようですから、シンプソン作品が表舞台への登場といえそうです。

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2023年9月30日 (土)

Skinny Hightower 「Mind Over Matter」(2023)

キーボード奏者スキニー・ハイタワーの新作は、全曲アコースティック・ピアノ演奏を繰り広げる意欲作です。オリジナル楽曲はポジティヴなムードをまとう佳曲がならび、ピアノ演奏はこれまでの印象を変えるエネルギッシュな展開からエレガントな味わいまでさまざまな表情を披露しています。

旧作ではピアノだけでなくオルガンやヴィヴラフォンなどの多様な鍵盤を駆使して、R&Bやソウルのエッセンスで粘着性のグルーヴ感を満たす音楽性でした。

本作では、ジャズの主流派を彷彿とするピアノ演奏に終始して、サウンドは打ち込みやオーバー・ダブ(自身によるドラムとベース演奏)で作り込んでいますが、全編でオーガニックなムードが貫かれています。

ゲストには所属レーベル(トリピン・リズム・レコーズ)メイトのゲリー・オーナー(サックス、フルート)や、ヒップホップ系バイオリン奏者ジョッシュ・ヴィエッティが参加して、いずれも印象深い起用が光ります。

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2023年8月13日 (日)

Greg Manning 「A Song For Peace」(2023)

キーボード奏者グレッグ・マニングの新作(全10曲)は、既発表のシングル(6曲)を中心に新曲やカバー曲を加えたベスト盤的といえる充実作です。

近年は他アーティストのプロデュースや演奏サポートでも活躍が著しいマニングですが、その交流を裏付ける顔ぶれが多数ゲスト参加しています。
トランペット奏者イリヤ・セーロフ、ベース奏者ジュリアン・バーンやサックス奏者のジミー・レイド(Jimmy Reid)にジュダー・シーリー(Judah Sealy)、ベテランのカーク・ウェイラムらがフィーチャーされています。

ビートやホーン・セクションにハンドクラッピングも交えて、キャッチーリフを強調したサウンドがキラキラと輝きます。ダンスチューンの躍動感とポップの華やかさをブレンドした粒ぞろいの曲が並んでいて、ここしばらくヘビロテにハマりました。

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