カテゴリー「キーボード」の73件の記事

2023年4月 8日 (土)

Michael Broening 「Never Too Late」(2023)

本作は、プロデューサーとして活躍著しいマイケル・ブローニングの初ソロ・アルバムです。

ロサンゼルス出身のブローニングは、アリゾナ州フェニックス市郊外に自身のスタジオをかまえて活動する音楽家です。キーボード奏者であり作編曲家およびプロデューサーとして、キャリアは20年を超えます。

この人のクレジットは以前から多くの作品で目にしていたので、ただものではないなと注目していました。過去に紹介した作品では、シンディ・ブラッドリーの『The Little Things』(2019)やレブロンの『Undeniable』(2019)は、ほとんどブローニングの作曲/演奏/プロデュースによる秀作で、洗練された音楽性が記憶に焼きついています。

その2作に限らず、プロデューサーとしての仕事は、マリオン・メドウズを皮切りに、スティーヴ・オリバー、マイケル・リントン、ティム・ボウマン、リン・ラウントゥリー、アルティア・ルネ、ランディ・スコット、ゲリー・オーナーら他数々のアーティストを手がけています。

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2022年11月 6日 (日)

Peter Kater 「Soul Story」(2022)

ピアノ奏者ピーター・ケーターは、ニューエイジ界を代表するベテラン・アーティストです。25歳でのデビュー作品(ソロ演奏)『Spirit』(1983)以来、発表したアルバムは50作品以上に及び、キャリアは約40年を誇ります。グラミー賞(ニューエイジ部門)のノミネートは14作品を数え、ベスト・アルバム賞に2作品が選ばれています。

2018年度第60回のグラミー賞で『Dancing on Water: solo piano improvisations in A432』(2017)が、2020年度第62回のグラミー賞では『Wings』(2020)が、それぞれ受賞作品(ベスト・ニューエイジ・アルバム)に輝いています。

いままで、コラボ(ネイティブアメリカン・フルート奏者カルロス・ナカイとのデュオなど)や、アンサンブルからシンフォニーとの共作など様々なスタイルで作品を残していますが、ソロ演奏も多く手掛けています。ソロ演奏では自作楽曲の演奏に加えて、デビュー作から取り組んでいるのがインプロビゼーション(即興演奏)です。

ケーターは数年前より、たったひとりのために即興演奏を行うというユニークな活動を続けています。対象となる「ひとり」を家に招いたり、リモートによるコミュニケーションを経て曲を作り、即興演奏を披露するそうです。そのひとの人生についていろいろと話をしたうえで、イメージを膨らませてメロディーを紡ぎ出すといいます。その取り組みを、ケーターは「ピアノ・リーディング」と名付けています。『Dancing on Water』はその活動から生まれた曲をまとめた作品であり、今作は続編となる即興演奏集です。

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2022年7月24日 (日)

Jonathan Fritzén「Piano Tales」(2022)

スウェーデンのピアノ奏者ジョナサン・フリッツェンの7作目となる新作です。

Ballads』(2017)の次作『Bach and Jazz』(2020)は、ヨハン・セバスティアン・バッハの曲をトリオ編成で演奏した企画的作品だったので、本作はオリジナル楽曲集として久しぶりの作品です。

この人らしいポップでロマンチックな佳曲が並んでいます。なにより、全曲で隙間も埋め尽くすように弾きまくるピアノの素晴らしい演奏が堪能できます。

アルバム・タイトルがあらわすように、10曲の全てにピアノにまつわるタイトルが付けられているのがユニークな趣向です。

「Key(キー)」や「Pedal(ペダル)」「Strings(ストリングス)」「Grand(グランド)」といった単語をもり込んだ曲名は、ピアノを即座に連想させます。

「Hammers Of Love」のハンマーや、「88 Ways」は鍵盤数のことで、「Resonance」は共鳴、「Safe and Sound」は「安全無事」を意味する慣用句と、洒落たタイトルにセンスが光ります。

「Sustain United」は右端のペダル(音を伸ばすサステイン・ペダル)を指して、「Una Corda」は左端のペダル(柔らかい音色にする別名ソフト・ペダルで楽譜にu.c.と記される)のことのようです。なるほど的なタイトルが秀逸です。

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2022年2月 6日 (日)

Jay Rowe 「Groove Reflections」(2021)

キーボード奏者ジェイ・ロウは、サイド・マンとして豊富なキャリアを有するミュージシャン。

リッピングトンズ、スペシャルEFX、ケン・ナバロ、ジェフ・カシワ、スティーヴ・オリバーなど、名だたる多くのアーティストをサポートしてきたベテランです。

なかでもマリオン・メドウズとネルソン・ランジェルとは同郷のコネチカット州出身という関係で、ふたりの1990年前後のデビュー時から長年にわたるサポートの常連です。

ソロ・アルバムも『A Dream I Had』(1994)を初めとして、近年の『Smooth Ride』(2016)まで6作品を発表しています。本作は、オリジナル全10曲からなる7作目になる新作アルバムです。いずれもポップなキー・フレーズが際立つ佳曲ぞろいで、ダイナミックなアコースティック・ピアノがオーガニックなサウンドをひきしめる素晴らしい演奏。

今回のレコーディングには、ネルソン・ランジェル(サックス)、スティーヴ・コール(サックス)ヴィンセント・インガラ(ギター)スティーヴ・オリバー(ボーカル)ジェフ・カシワ(サックス)など、交友関係を裏付ける豪華な顔ぶれが参加しています。

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2022年1月 9日 (日)

Dan Siegel 「Faraway Place」(2021)

ピアノ/キーボード奏者ダン・シーゲルの新作は、1980年のデビュー作から数えて22作目のアルバムです。コロナ禍のレコーディングとして例にもれず、リモートを活用して制作されたようです。タイトルの「離れた場所」とは、そんな状況を印したのでしょうか。

40年のキャリアでも異例とはいえ、多彩な曲と秀逸な演奏が並んだ充実した作品です。

参加したミュージシャンは、ブライアン・ブロムバーグ(ベース)ヴィニー・カウリタ(ドラムス)アレン・ハインズ(ギター)レニー・カストロ(パーカッション)エリック・マリエンサル(サックス)スティーヴ・ガッド(ドラムス)ら、過去作品でもお馴染みの顔ぶれです。

全11曲はシーゲルのオリジナル曲ですが、練ったアイデアを細部に盛り込んだ曲想や編曲が新鮮です。

ホーン・セクションでビートを際立たせた曲。ストレート・ジャズのアンサンブルによる演奏。そしてユニークなのは、ストリングスやコーラスを従えてクラシック音楽をモチーフにした曲です。

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2021年9月12日 (日)

Chris Geith 「Invisible Reality」(2021)

クリス・ガイス(もしくはギース)はイタリア育ちでミラノの音楽学校に通い、ニューヨークのマンハッタン音楽学校を卒業したキーボード奏者です。

2000年代になりMP3方式のデジタル音楽配信が普及すると、インディーズのアーティストでも自主的に作品を発表できるようになりました。ガイスは、自主制作したデビュー・アルバム『Prime Time』(2006)で当時の配信サービスで広く注目を集めました。

その後も主に自主制作で、『Timeless World』(2008)『Island Of A Thousand Dreams』(2010)『Chasing Rainbows』(2014)『Well Tempered Love』(2016)などのアルバムを発表しています。演奏家としても、ピーター・ホワイト、ユージ・グルーヴ、スティーヴ・オリバー、ヴィンセント・インガラらと共演をしています。テレビ、ラジオやコマーシャルへの音楽提供の活動もしているようです。

この新作アルバムは、自身の作曲した15曲を収めた力作です。ガイスのピアノ演奏を主役に、全てのサウンドと録音ミックスにいたるまでひとりで手掛けています。

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2021年7月24日 (土)

Brian Simpson 「All That Matters」(2021)

ブライアン・シンプソンの新作は、スティーヴ・オリバーとのコラボ作品「Unified」(2020)をはさんで、ソロ名義としては「Something About You」(2018)以来の9作目となるアルバムです。輝くようなピアノの音粒が際立つ充実作です。

近作では常連の、ニコラス・コール、スティーヴ・オリバー、オリバー・ウェンデルらとのコラボで構成された全10曲。従来と変わらぬ路線とはいえ、それぞれとの共演が円熟度を増してサウンドの完成度に反映されているようです。

ゲストの、ナジー(フルート)、スティーヴ・アラニーズ(サックス)、ロン・キング(トランペット)、ジム・ピサノ(サックス)、ヤロン・レヴィー(ギター)らのソロ演奏も聴きどころになっています。特に、初めて聴くアーティストですが(※)、スティーヴ・アラニーズ(Steve Alanis)のサックス演奏は、輪郭が鮮明な奏音に思わず引きつけられました。

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2021年3月14日 (日)

Gregg Karukas 「Serenata」(2021)

グレッグ・カルーキス(※)の新作は、初めてとなる全曲ソロ・ピアノの作品集です。半数の8曲はカバー演奏で、ブラジルのアーティスト、ミルトン・ナシメントとドリ・カイミの関連作品を取り上げて、アルバムのテーマにすえています。残りの7曲は、過去曲の再演を含めたオリジナル曲です。

演奏は、おおらかで明るいタッチの音粒にあふれています。ナシメントやカイミの楽曲の美しいメロディを、ピアノだけでシンプルに際立たせて、奥深さも感じさせる演奏です。ロマンチックでも内省的にならず、この人の従来のスムーズジャズ・サウンドに通じるハッピーなムードが、ソロ・ピアノでも堪能できる秀作です。

ミルトン・ナシメントが、ロー・ボルジェスら同郷のアーティスト達とコラボした作品『Clube de Esquina』(1972)と続編『Clube de Esquina 2』(1978)は、ブラジルのポピュラー音楽(MPB)の名盤と評価の高い作品です。カルーキスはその2アルバムから4曲、「Tudo O Que Vocé Podia Ser」「Club de Esquina No.2」「Paisagem da Janela」「Nascente」を取り上げています。

カルーキスはその2枚のアルバムを愛聴盤に挙げています。自身のアルバム『Looking Up』(2005)には「Corner Club/Clube de Esquina」というオリジナル曲が収められていますが、その2枚の愛聴盤から名付けたとアルバムに記しています。

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2021年1月 3日 (日)

Jazz In Pink featuring Gail Jhonson 「Joy !」(2020)

新年明けましておめでとうございます。今年も、グッとくるスムーズジャズの作品を紹介していきます。

フィラデルフィア出身のキーボード奏者ゲイル・ジョンソンが率いる<ジャズ・イン・ピンク>は、全員女性ミュージシャンからなるスムーズジャズ・バンドです。デビュー・アルバム『1st Collection』(2014)には、アルティア・ルネ(フルート)マリエア・アントワネット(ハープ)カレン・ブリッグス(バイオリン)らが参加していますが、チーム編成は流動的で、ライブでは、キム・スコット(フルート)シンディ・ブラッドリー(トランペット)なども共演しています。

この新作は、そのバンド名<ジャズ・イン・ピンク>を掲げていますが、ゲイル・ジョンソンのソロ作品というべき内容になっています。サポート陣として、キム・ウォーターズ(サックス)ポール・ジャクソン・ジュニア(ギター)マリオン・メドウズ(サックス)ネイト・ハラシム(シンセサイザー/ギター)キム・スコット(フルート)などトップ級アーティストを迎えています。

ジョンソンの才能が発揮された素晴らしい作品です。ジョンソンのピアノは、粒立ちのいい音色とジャジーなフレージングが魅力です。全インスト10曲はジョンソンのオリジナルで、フィリー・テイストのR&Bやジャズ/フュージョンを骨組みにしたスマートな曲が並んでいます。

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2020年7月 5日 (日)

Oli Silk 「6」(2020)

オリ・シルクの新作です。『Where I Left Off』(2016)に続くソロ”6”作目。

ゲストは、ヴィンセント・インガラ(サックス)、ジェラルド・アルブライト(ベース)、キエリ・ミヌッチ(ギター)、ジェフ・カシワ(フルート)、ダーレン・ラーン(サックス)、エル・カトー(女性ボーカリスト。ロレイン・カトーの名前で、ジャミロクワイやリサ・スタンスフィールドインコグニートなどのバック・ボーカルを務めていた人)を迎えています。常連の、マーク・ハイメス(ギター。かつてシンプリー・レッドにも参加していた人)、ゲイリー・オナー(サックス)らも脇を固めています。

曲ごとに多彩なゲストを迎えての音作りは、シルクの近年作品の手法です。『Razor Sharp Brit』(2013)からは、多くのメジャー級アーティストをフィーチャーしてきました。ゲストを固めて厚いサウンドを作るというより、ゲストとのレスポンスを重視したインタープレイが特徴といえます。

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